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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第16章

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805話 温もりに包まれて

 平穏。平和。

 人々が得てして好むこれらの言葉が示すものは凄まじく多い。だがそのうちの一つに、生活水準という項目が存在するのは間違い無いだろう。

 寝床一つをとっても、平和な町に設えられている温かで柔らかなベッドと、戦地のテントの中に設置された寝袋とでは大違いだ。

 だからこそ。


「スゥ……スゥ……」


 部屋の中に眩い日差しが窓から差し込む中、こうして柔らかなベッドで穏やかな寝息を立てているテミスは、生活水準という一要素においては、平和を享受していると言えるだろう。


「テミスッ! テミスッ!? 起きてる!?」

「…………」


 そんな中、閉ざされた部屋の戸が激しく叩かれ、甲高い少女の怒声が穏やかな空気を振るわせた。

 しかし、この部屋の主である筈のテミスが目を覚ます事は無く、今も変わらずベッドの上で規則正しい寝息を立てていた。


「っあ~……もう……。こりゃ寝てるわね……。テミス? 入るわよ?」


 再び数度扉が叩かれた後、深いため息と共に呆れたような呟きが響き、カチャリと音が響いて部屋の戸が開かれる。

 そして、アリーシャは手慣れた様子で鍵束をポケットへ仕舞うと、部屋の中へと歩みを進めて眠りこけるテミスの身体を強く揺さぶった。


「テミス! 起・き・て!! もう朝よ! 朝ごはんだって出来ているんだから!!」

「ん……んぅ……んむぅ……」

「テミスってばッ!!」


 それでも、テミスはまるで朝の到来を拒絶するかのようにうめき声をあげ、モゾモゾと布団の中へ潜っていく。

 だが、それを許すアリーシャではなく、鈍い動きで吸い込まれていく肩を手早く捕まえると、テミスの身体を半ば強制的に引き起こしてベッドへ座らせ、前後にガクガクと揺さぶった。


「起~き~な~さ~い~ッ!! また母さんに怒られても知らないわよ?」

「んんんんああああああああぁぁぁぁぁ……」

「ホラ! 力入れて!! ああもう……服もはだけてるし……!! テミス!?」

「あががががっ……おきっ……起きたからっ……ゆさ……ゆさぶるなっ……!!」


 はじめは、まるでいまだ首の座らぬ赤子のように、テミスはアリーシャが揺さぶるに任せてその首を前後に揺らしていたが、次第に気持ち悪くなってきたのか、焦りに顔色を青くして肩に置かれたアリーシャの手を叩きながら必死で訴えかける。


「う……うぷ……。は……吐く……」


 そこまでしてようやく、アリーシャの腕から解放されたテミスは、がっくりと肩を落として物憂げなうめき声をあげた。

 しかし。


「っ……!! また寝たら許さないからね!? ホラ! 寝間着もちゃんと整えて!」

「わかっ……解ってる……大丈夫だから……!!」


 がしり。と。

 前傾しかけたテミスはアリーシャに再び肩を掴まれると、ビクリと身体を跳ねさせて背筋を伸ばす。

 その余りの勢いに、元々大きくはだけていた寝間着が肩からずり落ちるが、テミスは未だに自らの半身を包む柔らかな温もりの誘惑を断つべく、這い出るようにアリーシャの手から逃れながらベッドを後にする。


「本当~……?」

「本当っ! 本当だとも!! すぐに降りるッ!!」

「ふぅん……じゃ、待ってるね(・・・・・)?」

「っ~~!!!」


 満面の笑顔を浮かべるアリーシャに、テミスは首が千切れんばかりにコクコクと頷くと、彼女が部屋を後にするのも確認しないまま、いそいそと身支度を始める。

 こと睡眠において、限りなく貪欲であるテミスがアリーシャにここまで怯えるのには理由があった。

 以前。

 いつものようにアリーシャに叩き起こされたテミスは、ベッドの誘惑に屈して再び眠りに堕ちてしまった。

 だが、テミスの体感としてはその直後から、とてつもない地獄が始まったのだ。

 何の前触れもなく、唐突にまさぐられ始める全身。そこには欠片ほどの遠慮も無く、アリーシャの魔手はテミスの胸を、脇腹を、内股を、余すことなくくすぐり続けた。

 しかし、そんな力加減の聞かない状況で、人の域を超えた力を持つテミスが無理にアリーシャを引き剝がせば怪我をさせてしまいかねない。

 故に、テミスはアリーシャの気が収まるまでただ必死に耐える事しかできず、結果としてその心に恐怖を植え付けられていた。


「もう……あんなのだけは御免だ……」


 テミスは沸き起こる拷問にも等しい記憶に身震いをしながら、全速力で寝間着を脱ぎ捨てると、手早く身支度を整えて部屋から飛び出し、すぐさまアリーシャの後を追って階段を降りる。

 そこには、マーサが腕によりをかけて作ってくれた温かな朝食が湯気をあげていて……。


「っ……。ふふっ……」


 一瞬。

 そんな光景を目にしたテミスは階段の中ほどで足を止めた後、クスリと柔らかな笑みを浮かべて再び歩き出したのだった。

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