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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第3章

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74話 勲章の価値

「テミス様。こちらへ……」


 テミス達は作戦天幕を後にすると、その足で十三軍団用に設えられた天幕へと向かっていた。


「ああ。随分と苦労したようだな」

「全くよ! あの女……私達の事を奴隷か何かだと勘違いしてんじゃないの!?」


 天幕に入った瞬間。サキュドが早速とばかりに気炎を上げた。サキュドの性格を鑑みると、良くぞ命令無視の独断行動をしなかったと褒めてもいいくらいだろう。


「それで……どうされますか? 我々に残された戦力では……」

「各部隊がほぼ壊滅……残存兵をかき集めても一個中隊程度か」


 テミスはマグヌスから部隊の詳しい損害状況を聞いて僅かにため息を漏らした。具体的な作戦内容を見て改めて思うが、あの女はやはり莫迦なのではないか?


「ハッ……遊撃部隊を壁に使われたのではたまったものでは無いな」


 最終的にテミスは、鼻で嗤って報告書を投げ捨てると、帽子をかぶり直してマグヌスへと目を向ける。機動力に重きを置く代わり、数的劣勢を抱える我々は正面戦闘には不向きだ。それこそこのような大規模戦闘では、各戦線に側面戦力として連続投入し、戦場を混乱させるのが適正運用と言えよう。


「テミス様……申し訳――」

「――謝るな」


 マグヌスが頭を下げて口を開くと、間を置かずしてテミスが謝罪を切って落とす。自分に非が無い者が頭を下げている姿など、ただただ不快でしかない。


「死傷者が出ていないだけで大収穫だ。お前達はよくやった。あえて責を問うのならば、責められるべきはお前達を残して戦線を離れた私だろうな」

「そんな事はっ……!」

「ならば謝るな。終わった事の責を問うより、今何ができるかに知恵を絞れ」


 テミスはそれだけ言うと平伏するマグヌスから目を離し、各戦況を記した作戦卓へと目を向ける。私が退いた時よりはいくら戦線後退しているが、指揮系統の悲惨さを鑑みれば善戦している方だと言えるだろう。


「フム……どうせなら奇策で攻めるか……小康地域を責め立てて兵力を分散させる。これならば我らに残された戦力でも十分にこなせるだろう」

「はっ……小康地帯でありますか……しかしテミス様が戻られた今、我らは戦線後退の続く中央戦線を援護するのが適切なのでは?」


 テミスは戦闘が落ち着いているらしい南部地域を指差すと、首を傾げたマグヌスが最も兵数の割かれている中央戦線を指し示す。どうやらこの石頭は、私が先程発した言葉を額面通りに受け取ったらしい。


「馬鹿者。例の人間を倒せていないのだろう? ならば私に力が戻る道理はあるまい」

「で……ですがテミス様。それでは何故戦場へお戻りになられたのです?」

「フン……」


 テミスは、自らの言葉に狼狽したマグヌスを呆れたように眺めると、深いため息と共に口を開いた。


「例え正面切って戦えずともできる事はあろう? 現にこうして、軍団長の肩書だけでも十三軍団が全滅する事態は避ける事ができた……業腹だがな」

「っ……」

「……じゃあさ――」


 テミスの視線に委縮したマグヌスが押し黙ると、入れ替わるようにサキュドが一歩進み出て問いかけてくる。なんだかんだ反目し合っては居るようだが、こうしてみると良いコンビに見えるな。


「――テミス様はその為だけにここへ戻ってきたの? なら正直、前線に出ずにここに居て欲しいのだけれど……」

「ククッ……」


 テミスは、サキュドのストレートな言い分に思わず笑みを漏らした。辛うじてオブラートに包んではいるが、サキュドは私に向かって足手まといだと告げたのだ。


「私では足手まといか? サキュド」

「っ…………」


 テミスがニヤリと笑みを浮かべてサキュドに問いかけると、唇を噛んだサキュドが視線を逸らす。つい悪戯心が乗ってしまったが、あまり部下を虐めるのも可哀そうだろうか。


「冗談だ。許せ……だが、戦えない私にも使い道はあるという事さ」


 テミスは愛おし気に目を細めてサキュドを眺めると、不敵に頬を吊り上げて作戦卓の前に立つ。十三軍団単独で動く以上、私の生命線である彼等への説明は必須だろう。


「まず……だ。マグヌス、私は軍団長だ」

「はっ? はぁ……その通りですが……」


 突然自らの肩書を誇張したテミスに、マグヌスはぽかんとした表情で頷いた。おおかた、また何かおかしなことを言いだしたとでも思っているのだろう。


「そして、私の力が奪われている事は奴等も知っているだろう。ならば……力を失った軍団長が小康戦線に出て来たらどうなると思う?」


 テミスは脇に転がされていた十三軍団の駒を南部戦線に突き立てると、意味深な笑みを浮かべて副官二人の顔を見つめた。そこには、疑惑から驚愕へと変化した副官たちの顔が並んでいて、何故か少しだけ気分が高揚する。


「まさか……テミス様……アンタ……」

「っ……御身を、囮に使うおつもりですか?」


 震える声で、副官たちは言葉を引き継いで口を開く。戦うなと言ったり前線に出るなと言ったり……価値を示してやれば驚愕するなど、忙しい奴等だ。


「どうだ? これならば私にも価値はあろう? 無力な軍団長程奴等にとって美味しい餌はあるまい。上手く事が運べば、白翼なり……もしかしたら奴が釣れるやもしれん」

「それは……そうですが……」


 そう言うと、マグヌス達は互いに顔を見合わせて言葉を詰まらせた。やれることが限られている今、私達に取れ得る最効率の作戦だと言うのに、まだ納得できないのだろうか。


「それに中央戦線には敵の冒険者将校も出てきているのだろう? 今の戦力で連中と渡り合うのは避けるべきだと……私は思うが」

「……普通、白翼の方を嫌がると思うんですけれど……」


 テミスの言葉を聞いたサキュドが、半ば呆れた表情で脱力して作戦卓へと腰掛ける。傍らのマグヌスも何故か苦笑いを浮かべている。


「フッ……一応言っておくが、私の切り札はおいそれと明かせる代物ではない。故に、雑魚や白翼の相手は任せるぞ」


 テミスは皮肉気に笑ってそう告げると、腕を組んで副官たちに微笑みかけるのだった。

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