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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第15章

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800話 絆の剣

 ――負ける訳にはいかない。

 意識して浮かべた笑みの裏側で、フリーディアは並々ならぬ決意を固めていた。

 大きな力を持つ冒険者将校たち……そんな彼等を私達が恐れないはずも無く、ロンヴァルディアは飼い馴らす(・・・・・)事でその手綱を握ろうとした。

 私もまた……それで良いのだと思っていた。強大な力を持つ彼等がその戦力を提供し、ロンヴァルディアは彼等に豊かな暮らしを約束する。

 そんな、彼等の持つ戦力のみを求めた契約が、彼等にどれ程の孤独を与えるのかなど考えぬままに。


「っ……!!! 図に乗るなよ……フリーディア」


 剣を構えたフリーディアの眼前で、固く歯を食いしばったテミスはそう言葉を漏らすと、手に携えた大剣を構えた。

 その瞳には怒りと憎しみに駆られた獰猛な光が宿っており、射殺さんばかりにフリーディアを睨み付けている。


「……それでも、私は知っている」


 ボソリ。と。

 フリーディアは小さな声で呟いた後、その視線に応ずるように態勢を低く身構えた。

 そう……私は知っている。貴女(テミス)は常に、力無き人々の味方なのだと。

 初めてこの町で再会を果たしたあの日。貴女はこの町の人々を守るために戦っていた。

 ラズールで相まみえた時も、囚われた私を救い出しに来てくれた時も……その強力無比な力は、身勝手な強者を挫くために振るわれていた。

 そしてそんな貴女が、ただの人として……この町で過ごす事を望んでいる事もッ!!


「瞬転」

「っ……!!!」


 次の瞬間。

 ボソリと一言呟きを漏らしたテミスの姿が、一瞬にしてフリーディアの前から掻き消える。

 それは、クラウスの剣技のように迅さを極めた類の物ではなく、文字通りテミスの姿はその場から消え去っていた。

 しかし。


「ハァッ……!!」

「なっ――!?」


 ガギィンッ!! と。

 直後に奏でられたのはけたたましい金属音だった。

 フリーディアはテミスの姿が消えた刹那、欠片ほどの淀みも無く、自らの真後ろへとその剣を走らせる。

 その剣は、今まさに虚空から湧き出すように姿を現したテミスの喉元へと疾駆しており、肉薄するフリーディアの剣をテミスは、振りかぶった大剣の柄で辛うじて受け止めていた。


「馬鹿な……!? 何故この技が見破れるッ!?」

「フフ……。何度あなたと剣を交えたと思っているのよ」


 驚愕するテミスに言葉を返しながら、フリーディアは笑顔を浮かべて剣を払うと、再び距離を置いて剣を構え、真正面からテミスと対峙する。

 否。交えただけではない。時にはその傍らで……時には互いの腕を磨くため。私たちは何度も互いの剣を見てきたのだ。

 弱きを護り、強きを挫くために振るわれてきた貴女の剣を。

 力任せで武骨なくせに、驚く程に重くて迅い貴女の剣を。

 そして……常に相手を嘲笑うように虚を付いて翻弄するのに、まるで剣を握ったばかりの見習い騎士のように、どこまでも正直な貴女の剣を。


「瞬転!」

「そこ」

「っ……!!」


 再び姿を消したテミスが、今度はフリーディアの左側に回り込んで脚を狙うが、フリーディアはまるで全てを予見していたかの如く身を翻し、テミスの斬撃が振るわれる前に機先を制して剣を振るう。


「っ……!! ならばッッ!!」

「距離なら取らせないわよ?」

「なっ……にィッ……!?」


 三度、テミスが姿をくらませた途端。

 剣を構えたフリーディアが突如として前方に飛び出して虚空へ向けて突きを繰り出すと、そこへ姿を現したテミスが驚愕の表情を浮かべ、繰り出された刺突を大剣の腹で受け止めた。


「私の間合いの外からの月光斬でしょう? そして貴女は私がそれを躱した先で待ち構えている……」

「クッ……!!」


 結局、テミスはフリーディアの刺突を受け止めたまま足を止めると、大剣を圧し返してフリーディアの剣を弾き飛ばし、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた顔面に向けて刺突を叩き込む。

 しかし、そこには既にフリーディアの姿は無く、テミスの突きは鋭く空気を裂く音を奏でて虚空を突いていた。


「ホント……意趣返し好きよねぇ……。意地が悪いというか子供っぽいというか……」


 そんな大きな隙をフリーディアが逃す筈もなく、ため息まじりのどこか呆れたような言葉と共に、渾身の力で振り下ろされた柄頭がテミスの右肩を捉えて、ゴキリと鈍い音を響かせる。


「ぐあッッ!? クソッ……!! ハッ……ハッ……ッ……!!」

「どうかしら? テミス。斬られた傷はすぐに治せても、外れた骨はすぐに治せないんじゃない?」


 フリーディアは肩から右腕をだらりと垂れさせたテミスが苦し紛れに振るった一撃を交わして距離を取ると、小首を傾げながら荒い息を吐くテミスへと問いかけた。

 そして同時に、チラリと背後へ視線を走らせると、鋭い声で口を開く。


「ブライト。私たちの勝ちよ。わかったら私がテミスを止めているうちにさっさと逃げ帰りなさい」

「っ……!!! そんな馬鹿な! 今こそ勝機――」

「――ここで退かないのなら、私がテミスを止める理由も無くなるわ。私はファントを護らなければならない」

「ぐむっ……!? あ……ぐ……退けェ!! 退けぇ!! 貴様等絶対に……絶対に許さんぞ!! この報いは必ず受けさせるからなぁッ!!」


 フリーディアの言葉に反発したブライトが、号令をあげかけた瞬間。

 フリーディアがまるでテミスを通すかのように身体を捌くと、ブライトは再び顔色を青くして叫びをあげ、腰を抜かしたまま捨て台詞を残して四つん這いで逃げ出し始めた。


「……それはこちらの台詞よ」


 その言葉にただ一言。

 フリーディアは彼女らしからぬ恐ろしく冷えた声で呟いたのだった。

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