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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第15章

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798話 災禍をもたらす者

 ヒャウンッ!! と。

 空を裂く甲高い音が鳴り響き、周囲の時が凍り付いた。

 フリーディアが放った一撃は、傍目から見ても確かに、テミスの身体を両断すべく放たれていた。

 すんでの所で攻撃を察したテミスが身を捩らなければ、フリーディアの放った斬撃はテミスの上体を深々と切り裂いていただろう。それは同時に、ファントを守る一員として戦うフリーディアの、言い逃れし得ぬ重大な反逆行為だった。


「……。フリーディア……やはりお前もか……」

「っ……!! フリー……ディア様ッ……!!」


 放たれた斬撃を身を捩って躱し、一歩退いたテミスは、物憂げに……そして失望したかのような声色で口を開いた。

 その視線の先では、目尻を吊り上げ、唇を真一文字に固く結んだフリーディアの足元で、クラウスが苦し気な声をあげている。


「ハァ……まぁ、お前が裏切った所でどうという事は無い。少しは……まともになったと思っていたのだがな」


 テミスは小さな嘆息と共にフリーディアへと体を向けると、担ぐようにして携えていた大剣を正眼に構え、冷淡に言葉を紡いだ。

 しかしその皮肉気な言葉とは裏腹に、テミスの顔にいつもの笑みが浮かぶ事は無く、どこか悲し気で、悔し気な色が浮かんでいた。


「裏切り……? 笑わせないで」


 しかし。

 フリーディアは毅然とした態度で顔を上げると、真っ向からテミスを睨み付けて言葉を続ける。


「こうして居る今でも、私は貴女の戦友のつもりよ? ただ……道を違えようとしている貴女を正す為、貴女の前に立ちはだかっているに過ぎないわ」

「フン……それを裏切りといわず何と言う……。兎も角、我が正道の邪魔をするのならば切り捨てるのみ」

「……他者を虐げる悪を討つ貴女と力無き人々を守る私。私たちの在り方は何もかもが背中合わせ……だから、私には解る」


 ピリピリとした緊張感が急速に増す中、フリーディアは背筋を伸ばして自らの剣を構えると同時に、静かに……しかし力強く言葉を紡いだ。


「貴女の征こうとしている道に貴女の正義は無いわ……だから!!」

「下らん戯れ言をッ!! お前のような大馬鹿に何が分かるッ!!」

「間違った道へ進む貴女を止めてみせるッ!!!」


 ギャリィィンッッ!! と。

 二人は叫びをあげると同時に弾かれるように飛び出し、互いに繰り出した斬撃が交叉して拮抗する。

 否。打ち合った直後に保たれていた拮抗はすぐに、テミスの怪力のよって傾き、鍔迫り合いの形に交叉した剣はフリーディアの側へと押し込まれ始めた。


「ハハハッ!! この程度の力で私を止めるだと? 先程の威勢はどうした?」

「っ……!! セェッ!!」

「チッ……!!」


 しかし、フリーディアは力任せに押し込まれるテミスの大剣を受け流すと、身を翻して更なる一撃を叩き込む。

 無論。その一撃がテミスの身に届く事は無く、テミスは大剣を盾のように掲げてフリーディアの斬撃から身を護った。

 だが、再び合わさった剣が鍔迫り合いを始める事は無く、そこからは互いに剣を打ち合っては受け流し合う剣戟が始まった。


「だいたい! 貴女はいつもそう!! 何もかもを悟ったような顔をして! 何一つ信じちゃいない!!」

「当り前だ! 敵を信じる阿呆がどこに居る!! 他者の平和を力で奪おうとする連中など! 信じられる訳があるか!!」


 テミスとフリーディアは言葉と共に全力で打ち込み合う。その剣には確かに、並々ならぬ殺意と覚悟が乗せられており、周囲の者達はただ、そんな嵐のような剣戟を見守る事しかできなかった。


「間違えたのなら正せばいい!! 人はやり直す事ができる……貴女だってそうよテミス!!」

「詭弁を垂れるなァッ!! たとえ悔い改めた所で、失った者は二度と戻らん!! フリーディア! お前の言うそのやり直す権利さえ……奪う者の特権なのだッッ!!」


 バギィンッ!!! と。

 ひと際大きな音と共に剣が打ち合わされ、二人が大きく退いて距離を開ける。

 互いに退いた直後、テミスはぶおんという鈍い風切り音と共に大剣の切っ先をフリーディアへと向け、怒りを叩き付けるかの如く叫びをあげた。

 しかし……。


「そう。貴女の剣は悪逆を滅ぼす剣……だからこそ、貴女が間違えてはいけないはずよ。貴女が討つべき悪はここには居ない。そうでしょう? 貴女が斬ったその先には、更なる惨禍が待つと解り切っているのだから」


 フリーディアがその怒りに呼応する事は無く、ただ小さく微笑んで諭すように語りかけた。

 その慈愛に満ちた微笑みは、まるで全てを赦し、包み込む聖母のようで。それを見た周囲の者達は、この突如として始まった戦いの終結を確信する。

 この戦いは確かに、ブライトから仕掛けたものだ。だが、ブライトの命を奪えば、ファントに更なる戦が降りかかるというのなら、ファントの平和を護るべく戦うテミスがこれ以上戦う理由は無い……と。


「クク……ハハハハハ!! 何だ……存外解っているじゃないかフリーディア。そう……私の目的はただ、悪逆を滅ぼす事。そこから生まれる平和はただの結果でしかない。だからそれが更なる惨禍だとしても、私が止まる理由にはならん」

「っ……!! そんなのっ――!!」

「――あぁ。お前達はそういう存在を化け物と呼ぶのだろう? ならば、私はソレで構わんさ」


 高笑いと共に告げられたテミスの言葉に、フリーディアが口を開きかけた瞬間。

 テミスは蝋燭が溶けたような歪んだ笑みを浮かべると、フリーディアへと向けた大剣で宙を薙ぎ、機先を制して言葉を紡いだのだった。

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