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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第15章

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796話 希望の両翼

 思えば、はじめからそうだった。

 力を以てこの町へ辿り着き、力を示してギルティアに認められ、力を振るって私は私の正義を貫いてきた。

 つまりこの世界において、私の存在価値などこの(チカラ)しか無い。当たり前の話だ。来歴も何も無い突如現れた怪し気な小娘など、それ以外にまともな使い道などあろうはずも無い。


「クハッ……フフフフッ……」

「っ……!!!」


 ぎしり。と。

 テミスは歪んだ笑みを零しながらフリーディアを掴んだ手を引き寄せると、大剣の刃を挟んで自らの身体をフリーディアの身体へと密着させる。

 ならばもう、迷う事は無い。

 それがこの世界の理であるというのならば、せいぜい全てを賭して私の正義を刻み込むまでだ。

 誰かが不幸になるのは仕方がない。目に付く人全てを降りかかる絶望から救う事などできはしない。

 ならばせめて、他者を貶め、利用し、貪りながら笑う悪逆を叩き潰す。


「セアッ……!!!」

「キャッ――!?」


 一閃。

 テミスは己が身をフリーディアの甲冑へと押し付けたまま、居合のような構えで携えていた大剣を一気に振り抜いた。

 無論。大剣の刃はその役目を果たし、フリーディアの身に纏った甲冑に傷を付けながら、火花と共にその身を弾き飛ばした。

 だが、それだけでは終わらない。

 漆黒の刃は同時に、フリーディアの甲冑にその身を押し付けていたテミスをも傷付けていた。

 身に纏っていた薄い病衣は湯に触れた泡雪の如く断ち切れてはだけ、切り裂かれた白い肌からは夥しい量の血が溢れ出る。


「テミスッッ!!!」

「フフッ……ハハハッ……アハハハハハハッッ!!!」


 その様子に、振り抜かれた大剣に弾き飛ばされたフリーディアが悲鳴を上げるが、テミスはただ高らかな笑い声をあげてボタボタと血を流し続けた。

 ああ、そうだ。

 『できない』と『やらない』では違うのだ。

 こんな傷でも、私は即座に治してしまう事ができる。だがそんな所業、この世界の人間達では全力を尽くし、神々に祈りを捧げて尚届かない。

 たとえ私がこのまま死んだとしても、化け物がただヒトの真似事をしているだけに過ぎないのだから。


「テミスッ!! 貴女なんて事――」

「――お嬢様ァッッッ!!!」


 跳ね飛ばされた衝撃を殺したフリーディアが、その顔色を蒼白に変え、ちうぇお流すテミスへ向けて駆け寄るべく、その脚に力を籠める。

 だがその刹那。

 フリーディアの背後から、鬼気迫る叫びをあげたクラウスがフリーディアの前へと飛び出した。

 直後。


「月光斬」


 笑い声がピタリと止まると同時にテミスが呟くと、切り上げられた格好のまま振り上げられていた大剣の刀身が白い輝きを帯びた。

 そして、テミスは一瞬の逡巡すら無く、眩い輝きに包まれたその刀身を、フリーディア達へ向けて振り下ろし、斬撃を放つ。


「ムッ……ヌゥッ……グッ……クゥッ……!!!」

「クラウスッ!?」


 まさに間一髪だった。

 放たれた斬撃は、無防備な格好でテミスへと駆け寄らんとしていたフリーディアを即座に斬り裂く事は無く、直前に飛び込んだクラウスの二本の剣によって受け止められていた。

 しかし、放たれた絶大な威力の斬撃に、それを受け止めたクラウス二本の剣がギシギシと悲鳴を上げる。


「ッ……!!! お逃げ下さいッ!! さぁ!! お早く!!」


 クラウスは白く輝く斬撃の威力に圧されながら、必死の形相で叫びをあげる。

 凄まじい威力の斬撃だ。力を溜めていた訳でも、勢いに乗せた一撃でも無かった。だというのに、全力を以てしても押し留めるのが精一杯。その拮抗さえも、長くは持たないだろう。

 ならばせめて、フリーディア様とブライト様……そして、我が背に居る者たちは守ってみせるッッ!!


「駄目よクラウス!! 私も加勢するわッ!!」

「……っ!! フリーディア様ッ……!!!」

「くッ……ウッ……!?」


 そんなクラウスの思いを無視して、フリーディアは徐々に押し込まれつつあるクラウスの傍らに並び立って剣を併せた。

 だがすぐに、フリーディアは己が剣に圧しかかる斬撃の威力に顔色を変え、歯を固く食いしばって剣に力を籠める。

 しかし、それでも斬撃が止まる事は無く、フリーディアはクラウスと共に斬撃に押し込まれていった。


「っ……!!」


 このままでは……。

 歴戦の騎士としての直感が、クラウスの脳裏にけたたましい警鐘を鳴らしていた。

 たとえフリーディア様の手を借りたとしても、このままでは押し切られるだろう。この斬撃には、それほどまでの威力がある。

 だが……ッッ!!

 凄まじい重圧を受け止めながら、クラウスは素早くその視線を周囲へと走らせた。

 背後で呆然と腰を抜かすブライト、顔面を蒼白に変えて斬撃の軌道から必死に逃れようとする兵士たち……。そして、己が傍らで共に剣を合わせるフリーディア。


「お……オォォォォォォッッッ!!!」


 彼等の姿を視界に捉えた瞬間。クラウスは猛然と叫びを上げて、全身の力を振り絞った。

 まだまだ青く、未熟であら削りな新たな主。親友から預かった姫にして我が孫娘に等しき最愛の弟子。老いたりとはいえ、私は騎士……そんな、未来を担うべき者達をここで失う訳にはいかんのだッッ!!!


「ガアアアアァァァァァァッッッ!!!」


 クラウスの魂すら込めたその叫びはすぐに獣のような咆哮へと変わり、限界を超えて酷使された筋肉が盛り上がって身に纏う服を引き裂いた。

 今、この瞬間だけ……。

 次の瞬間、この命燃え付きたとて構わない。

 輝かしき未来を守るために……我が手に白閃の両翼在りと謳われたかつての力をッッッ!!!


「これ……は……ッ!?」


 その異変に最初に気が付いたのは、猛々しい咆哮を上げるクラウスの傍らに居たフリーディアだった。

 一瞬……僅かに斬撃の重圧が弱まったかと思うと、押し込まれ続けていた後退がピタリと止まる。

 同時に、テミスの一撃を受け止めるクラウスの二振りの剣が輝き始め、ぞぶりと斬撃を切り裂くように圧し返し始めた。


「――っ!!」

「アアアアアアアァァァァァッッッッ!!!」


 そして。

 異変を察知したフリーディアが飛び退いた直後。

 輝きを纏ったクラウスの剣が十字に振り抜かれ、テミスの放った一撃を切り裂いたのだった。

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