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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第3章

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73話 陰謀と怠惰と諦観と

遠くでは相も変わらず鬨の声と戦闘音が鳴り響き、美しかったであろう平原は今や焦土と化している。それが、今のラズールの姿だった。


「やれやれ……本当に度し難いな……」


 テミスは深いため息と共に、傍らに鎮座する本陣を眺めた。戦争とは元来、主義主張の軋轢から起るものだ。けれども、そのどちらもが平和を目指しての戦闘行為であり、故に停戦や休戦と言ったものが存在する。つまり、国家や種族を根絶やしにするまで戦いが続く事など、本来あるべきではないのだ。


「これではな……」


 テミスは背を預けていた木から体を離すと、気だるげに後頭部を掻きながら本陣の方へと歩いていく。どうやら、この地での戦いには何か意図があるらしい。それがどちらのものかはわからないが、それを挫かない限りこの戦いは続くのだろう。


「お帰りなさいま……テッ……テミス様ッ!?」

「ん。ご苦労。ルギウスとマグヌス達は?」


 天幕を潜ると、近くで作業をしていた一般兵が驚きの声を上げた。山ほどの汚れた武器を抱えている辺り、整備兵か何かなのだろう。


「皆様、作戦天幕にいらっしゃいますが……」

「リョース殿とドロシーもか?」

「は……はい……」


 テミスが半眼で確認を取ると、兵士は冷や汗を浮かべながらコクコクと頷いた。ドロシーの奴は以前、大層な魔法で片を付けるなどと大言壮語を宣っていたが、どうやらそれも失敗に終わったらしい。


「だ・か・ら! アンタ等が前線を維持しなきゃ何も始まらないっての! アンタ等が敵の頭を押さえている間に、アタシ等の魔法を叩き込む! 今までもそれで何とかなったでしょう!」


 兵に教えられた天幕に近付くと、ドロシーのヒステリックな声が漏れ聞こえて来た。奴らしいと言えば奴らしいのだが、なかなかどうして面白い事になっているらしい。


「ドロシー、何度も言うが奴等に比べてこちらの兵の数は少ない。君のやり方では兵の損耗が――」

「邪魔するぞ」

「っ!?」


 軍議が白熱する中へ、常温水のような緊張感の無いテミスの声が割って入った。同時に天幕の中に居た軍団長と副官の視線が一気に集まる。


「テ――テミスっ! もう体は良いのか?」

「ある程度はな……とでも言っておくか。だがな、天幕の外まで漏れ聞こえるような大声で軍議をしていては士気に関わるぞ? 余裕が無いのが丸見えだ」

「っ――!!」


 テミスはチラリとドロシーへと視線を走らせながら、対照的な表情で作戦机を囲んでいる二人の副官を見つけた。おおかた、肩書に邪魔をされて自由な発言ができていないと言った所か。


「マグヌス・サキュド。ご苦労だった。私が留守の間、よくぞ軍団を守り抜いてくれたな」

「ハッ……勿体なきお言葉……ですが……」

「………………」


 そう声をかけながら二人の側に近付くと、マグヌスは平伏し、サキュドは無言で目を逸らした。ドロシーの叫び声の内容からおおかた予想は付いていたが、ずいぶんと好き放題やってくれたらしい。


「損耗率は?」

「死者は居ません。ですが……」

「良い。戦える者だけ挙げろ。軽傷者も含めてな」

「っ……三割程です……」

「クハッ……!」


 テミスは、辛酸でも舐めているかのように絞り出したマグヌスの報告を耳にすると突如として笑みを漏らす。損耗率七割など、最早部隊として機能していない。それこそ、死者が居ないだけでも奇跡のようなものだ。


「クククッ……フフ……では次に、各部隊の損耗率をご教示いただきたいのだが?」


 テミスは肩を震わせて嗤いながら、他の軍団長達へと視線を向けた。その視線を受けたリョースとルギウスは顔を伏せ、ドロシーは挑発的な表情で睨み返してくる。典型的と言うかなんと言うか……ルギウスの心労が想像に難くないな。


「第五軍団。損耗率五割だ」

「第三軍団は三割程……軍団機能に支障はない」

「……で? 第二軍団はどうなのだ?」


 口々に二人が声を上げた後、少しの静寂を挟んでテミスがドロシーへと水を向けた。まぁ、先ほどの話の内容と今の態度を見ればおおかた察しは付くというものだが。


「何で無能のアンタ何かに教えなきゃいけないのよ! さっさと――」

「――損耗率0割。第二軍団は健在だ」


 ドロシーが再びヒステリックな声を上げた瞬間。横からリョースの静かな声が割って入る。そのこめかみに青筋が浮かんでいる所を見ると、どうやらリョースも相当腹に据えかねているらしい。


「何よ。あたし等は魔術師なんだから当たり前でしょ? 魔術師が落とされることは国が落とされる事と同義って言葉を知らないの?」


 なるほど。と。目の前で鼻を鳴らすドロシーを眺めながら、テミスは一人で得心していた。確かに、こんな性格ではあのゴミ溜めの様な連中も過ごしやすいのだろう。


「まぁ良いさ。悪いが、我等13軍団はその名の通り独自で動かせてもらう。行くぞサキュド、マグヌス。現在の詳しい損耗状況と戦況を教えろ」

「ちょ……! 待ちなさい! 勝手な真似は――」


 すぐに踵を返して天幕を出ようとするテミスと、それに従う二人をドロシーの声が呼び止める。その声にテミスは天幕の入り口で立ち止まって、顔だけを肩越しにドロシーに向け、壮絶な笑みを浮かべて言い放つ。


「――肉の楯を使うのなら自分の部下でやるのだな」


 それだけ言い残してテミス達は、颯爽と天幕の中から立ち去って行ったのだった。

10/25 誤字修正しました

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