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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第15章

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792話 断罪の鉄槌

 サキュドの紅槍がヒロの身体を穿ち抜き、鈍い音を奏でながら地面へと突き立たった。

 その一撃はまさに天からの強襲。目視すらままならぬ程の超高高度から、テミスは全力を一気に注ぎ込んで急降下し、ヒロへと一撃を加えたのだ。

 だが。


「グッ……ガハッ……」

「む……?」


 テミスは突き立った槍に僅かに違和感を覚えると、驚愕の表情でテミスを見上げるサキュド達から視線を逸らして、獲物を穿ち抜いた槍へと目を向けた。

 そこでは、まるでヒロを庇うかの如く背合わせに立ちはだかったトーヤが、反応する事すら出来ないはず一撃を共に受けていた。

 その結果。

 再びヒロの胸の中心を穿ち抜くはずだった紅槍は僅かに逸れ、二人ともまとめて串刺しにはなっているものの、辛うじて生き永らえていた。


「トーヤお前……なんで……」

「ハッ……知るかよ……。気が付いたら飛び込んでたんだ……」

「馬鹿……野郎……ッ!! 黙って寝てりゃぁ……助かったかもしれねぇのにッ!!」

「……全くだ。自分でも吐き気がする。何で助けに入っちまったンだろうなぁ……」


 紅槍にその身体を地面へ縫い留められたまま、ヒロとトーヤは背合わせで言葉を交わす。

 だがその表情は真逆で、口惜しさと悲しさに表情を歪めて地面を睨み付けるヒロに対して、トーヤは何処か清々しさすら感じさせる微笑みを浮かべて空を眺めていた。


「フン……」


 しかし、そんな二人を視界に収めたテミスは、酷くつまらなさそうに鼻を鳴らすと、紅槍に背を向けてゆっくりと歩き始める。

 向かった先には、先ほどテミスが上空で手放した大剣が突き立っており、まるで主を待っているかの如く黒々と輝いていた。


「少なくとも……目の前でダチが殺されるのを黙って見ている程、俺もクズじゃなかったって事かもな……」

「っ……!! ふざけんなよ!! お前なら止めに入らなければ……一人ぐらいやれただろうが!!」

「…………。暴れるな。傷が痛てぇ」


 自らの身体の下で、燃えるような温かさを感じながら、トーヤは気怠げなため息を吐いて言葉を返す。

 我ながら、本当に馬鹿な事をしたものだ。

 遅れてやって来た痛みに歯噛みしながら、トーヤは胸の中でひとりごちる。

 恐らく、ヒロはもう助からないだろう。今は能力によって身体が炎へと変化したお陰で、身体の体積が減るだけで済んではいる。

 だが、能力を発動させ続ける事は不可能だ。ならば能力が切れたその時、炎と化していたヒロの身体は元の形に戻るはずだ。

 そう……本来あるべき形。この忌々しい槍で胸を穿たれた無残な姿に。


「……!!」

「……んだよ。泣いてんのか?」

「っ……うるせぇ。泣いてねぇ」


 ヒロは背中の上で震える親友の身体を感じながら、自らの傍らをぽたりぽたりと流れ落ちる透明な雫を見て、静かに笑みを浮かべた。

 こいつは全部……全部わかっていたのだろう。

 それでも尚、俺が一撃で消し飛ばされちまうのを防ぐために、命を懸けて飛び込んできてくれた。


「へへ……なぁ、トーヤ……」

「っ……ぐっ……」

「なぁって」

「っ……!! なんだ……?」

「楽しかったよなぁ……今まで。強ぇえ力手に入れて……好きな事やって……。お前とも沢山馬鹿やってさ……」

「っ~~~!!!! なんで……そんな……事ッ……!!」


 明るい口調で紡がれるヒロの言葉に、トーヤはビクリと身体を震わせて言葉を詰まらせる。

 けれど、トーヤがその言葉を遮る事は無く、二人は背合わせのまま言葉を交わし続けた。


「俺、お前と一緒に居れて良かったよ。俺、頭悪ぃからさ……お前が居なかったら、もうとっくに死んでたか、どっかのアホに利用されてたと思う」

「やめろ……ふざけんな……何でそんな遺言みてぇな――」

「――良いじゃないか」


 しかし、その会話を遮る者が一人。

 漆黒の大剣を肩に担ぎ、白銀に輝く銀の髪をなびかせたテミスが、ゆっくりとした歩調で背合わせに縫い留められた二人の傍らへと戻ってくる。

 そして、不敵な笑みを湛えたまま二人を見下ろすと、何処か愉し気な口調で言葉を続けた。


「この時間はお前が命を賭して勝ち得た物だ。本来ならば、末後の言葉を交わす暇など無かったんだ。最期くらい素直になっておいた方が悔いなく逝けるぞ?」

「っ……!! おい待て! 勝負は付いただろ!! コイツは……トーヤだけはッ……」

「テミス……様……?」


 愉悦と共に告げられたテミスの言葉に、その様子を傍らで眺めるサキュドが、震える声でその名を呼んだ。

 確かにテミス様はこれまで、悪人を嬲る事はあった。けれどそれは、自らの歪んだ欲の為に、弱者を虐げた連中だけだった。

 なのに……。


「ハ……ハハ……クソ喰らえだ。お前が死ねよ馬ァ~鹿」

「そうか」

「待――」


 表情を歪めたトーヤが、ベロリと舌を出してせせら笑い、テミスへ向けて中指を立てた。

 刹那。

 テミスはただ一言だけ短く言葉を返すと同時に、まるでギロチンの刃を落とすかのように、二人へ目がけて大剣を振り下ろした。

そして……。


「お前達、見事な戦いだった。後は私に任せておけ」


 テミスは鮮血で濡れた大剣を再び担ぎ上げると、絶句するサキュド達にそう言い残して飛び立って行ったのだった。

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