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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第15章

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789話 人魔の一槍

「ぐぅぅッ……」

「オラオラァッ!! どォしたァッ!!」


 一方その頃。

 サキュドは槍を振り回しながら、ごうごうと音を立てて迫り来る炎の濁流を切り裂いていた。

 その後ろでは、地面に膝を付いたレオンとミコトが、苦しげな表情でただ一人戦うサキュドの背を見つめている。


「勢いがァッ……落ちてきてンじゃァねぇのかッ!?!?」


 高らかに響いたヒロの叫びと共に、先程切り裂いたはずの炎の壁が、再びサキュド達の前へと肉薄した。ヒロの狙いは明らかに真正面からこちらを削り切っての消耗戦だ。


「っ……!!!」


 刹那。

 サキュドは振り上げた紅の槍に再び魔力を込めると、熱波を感じながら押し寄せる焔の壁を両断するべく睨みつけた。

 この程度の攻撃、私一人なら躱す事なんて容易い。けれど……私が身を躱せば、後ろの二人が焼け死ぬッ!!


「うるっ……さいわねぇッ……!! しつこいのよアンタッ!!」

「ハハッ!! まだまだぁッ!!」


 咆哮と共に一閃。躱すという選択肢を排除したサキュドの槍が、魔力を纏わせた斬撃を以て左右に焔を裂いた。

 しかし、その後に待っている結果は変わらない。また新たな焔の壁が、サキュド達を焼き尽くすべく降りかかってくる。


「くっ……!!」


 このままでは、時間の問題だ。

 そう直感したサキュドが一瞬、視線を背後の二人へと向けかけるが、即座に迫る新たな炎の壁に追われて、再びその視線を前へと戻す。

 先程僅かに回復した魔力は今も尚、ただ身を守るためだけに削られていっている。このままでは……敵を倒す事なんてできないッ!!


「ッ……!!!」

「ハッハァッ!!! なかなか踏ん張るじゃねぇかッ!! よォッ!!」


 サキュドが新たな焔の壁を切り裂いた先。そこでは、まるで今の一撃をサキュドが切り抜ける事がわかっていたかのように、新たな一撃を携えたミコトが高笑いと共に炎を打ち出していた。

 しかし同時に、サキュドの身体を包んでいた淡い光が数度明滅すると、まるで力を失ったかの如く周囲へと霧散する。


「なっ……うっ――!?」


 直後。

 サキュドの身体を襲ったのは、言い知れぬ疲労感だった。

 それまで、自分の思い通りに動いていた腕の動きが突然鈍重になり、更に迫り来る炎を迎え撃たんと身構えていたサキュドの身体がぐらりと大きく傾ぐ。

 ――間に合わない。

 体勢を崩したサキュド視界に、燃え盛る紅蓮の炎が一杯に広がった刹那。


「――チッ!!」


 バヂィッ!! と。

 舌打ちと共にサキュドの背後から飛び出たレオンが、薄い殻のような防壁を張って代わりに炎を受け止める。

 だが、レオンとて満身創痍。その尽きかけた魔力で張った防壁の力など知れたもので、防壁は即座にピシピシと悲鳴を上げながらひび割れていく。


「ボケっとするな!! 長くは持たないぞッ!!」

「解ってるわよ!! ……この一撃だけで良い! 死んでも持たせなさいッ!」


 不吉な音を立てながらひび割れていく防壁の下で、サキュドはレオンに向かって叫び返すと、自らの身体に残った魔力をかき集めて槍へと集中させた。

 すると、サキュドの身体から集められた魔力が光となって彼女の槍へと収束し、キラキラと微かに光る紅の光となって槍から迸る。


「ハハッ……」

「どう……したんですか……?」

「いえね……どうにも、頼りない槍だと思って」


 背後からかけられたミコトの言葉に、サキュドは小さく皮肉気な笑みを浮かべると、微かな光を放つ自らの槍へ視線を落としながら答えを返した。

 どうあがいたとしても、この一撃で決めなければ負ける。そんな自らの命運をも賭けた一撃を放とうというのに、全身の魔力を振り絞ってもみすぼらしい力しか宿らない。


「なら……僕の力も……使って下さい」

「っ――!?」


 その言葉を発した時、ミコトはきっと笑顔を浮かべていたのだろう。

 何故か、顔を背けているサキュドにもそう分かるほどに、ミコトは力強く言葉を口にした後、一発の銃声が鳴り響いた。


「これ……は……ッ!! ミコト、アンタ……!?」


 すると、サキュドがピクリと僅かに身体を跳ねさせた直後。

 サキュドの魔力が収束していた紅槍が放つ光が微かに増大し、血のように真っ紅だったその魔力の中に、一筋の蒼い光が混じる。

 しかし、サキュドの問いに対する返事が返ってくることは無く、代わりにドサリという鈍い音をサキュドの耳が捕らえた。


「ちょっと――!!」

「――問題無い!! そろそろ……限界……だッ……!!」

「クソッ……!!」


 その音に、咄嗟に背後を振り返ろうとするサキュドを、苦し気なレオンの声が引き留める。

 気付けば、レオンの張った防壁は既に崩壊寸前で、炎の威力に耐え切れずに割れ落ちた隙間から噴き込む炎が、レオンの腕を焼いていた。


「タイミングを――」

「――五月蠅いッ!!! 穿ち抜くッッ!!!」


 そして、崩壊寸前の防壁が消し飛ぶ寸前。

 レオンの言葉を無視したサキュドはその肩を掴むと、全力で振りかぶった槍を障壁に向けて猛然と投げつける。


「なっ……」

「消し飛べ!! 火ザルッ!!」

「っ――!!!」


 瞬間。

 怒りの咆哮と共にサキュドの手から放たれた槍はレオンの障壁を難なく貫き、押し寄せる炎の壁をも穿ち抜くと、その後ろで意気揚々と炎を纏った手を空へと翳していたヒロを貫くべく肉薄したのだった。

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