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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第15章

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784話 数奇なる共闘


 紅蓮が煌めき、灼熱の熱風がレオンの頬を焦がす。

 この一撃を防ぐ事ができる者は、この場には居ない。ミコトが今、この場に居ない事だけが救いだった。

 アイツならば間違い無く、自分の身が燃え尽きたとしても、もう戦えない俺を守るだろうから……。


「くた……ばり……やがれぇぇぇぇっっっ!!!」

「フッ……」


 身勝手極まりない怒りの咆哮と共に、レオンの頬を舐める焔が勢いを増した。

 悔いはある。

 俺が万全の状態ならば、たとえこの二人を同時に相手取ったとしても、遅れをとる事は無かっただろう。

 そこにあるのはただ、戦場という名の理不尽だ。

 戦いというのは平等ではない。常に互いが万全の状態で、同時にスタートを切るなんて綺麗事は、あの世界ですら殆どなかった。

 ならば、それを覆す事ができなかった自分が弱かったのだ。


「っ……畜生ッ……!!!」


 だが死の際で、レオンは自らの胸の中にわだかまる感情を発露させ、そんな綺麗事や格好付けが無意味だと悟る。

 悔しい。無理を重ねていたとはいえ、まさかこんな低俗な子供に負けて死ぬなんて。

 冗談じゃない。ふざけるな。こんな所で死ぬなんて御免だ。こんなクズに殺されてなどやるものかッッ!!

 しかし、いくら心の中で雄叫びを上げても、限界を超えて動き続けていたレオンの身体が動く事は無く、ただその指先がピクピクと痙攣するように蠢くだけだった。


「――ッ!! シルト……」


 ガキン。と。

 それでも尚、全精力を込めて動かしたレオンの指先が、辛うじてガンブレードのトリガーを引いていた。

 刹那。

 残り僅かなレオンの魔力を吸い上げて、発動した一つの術式がレオンの前に姿を現す。

 それは、仄かに青く光る、薄っぺらい光の盾だった。

 けれど、顕現した盾はその瞬間から情け容赦の無い熱風に晒され、カシャンという淡い音を立てて一瞬で砕け散る。


「っ……」


 直後。

 今度こそ、残っていた魔力が全て尽きたのだろう。

 レオンは自らの足元がぐにゃりと歪むような感覚と共に、脳が捩じれ曲がるような気持ちの悪い痛みを覚えた。

 そして、あまりの痛みと気持ち悪さに目を瞑ったレオンの視界が、揺らめく赤い光に覆われる。

 しかし。


「レオンッッ!!!」


 直後にレオンを襲ったのは、自らの身を灼け焦がす灼熱の痛みでは無かった。

 ともすれば、幻聴だと意識を手放したかもしれない。しかしその声が、まるで自らの身体に飛び込んでくるかのような軽い衝撃と共に聞こえてきたのだから話が別だった。


「――っ!!!」


 せめて、自らの身を盾に。

 仲間の身を案じたレオンが反射的に目を見開き、その身に縋りつくミコトの身体を抱き寄せた時だった。

 その目に飛び込んできたのは、とても信じられない光景だった。


「……何よその顔。助かったんだからもっと喜びなさいよ」


 開いた瞳へ真っ先に飛び込んできたのは、血のように赤い紅の光。続いて、どこか拗ねたように唇を尖らせながら、チラリとレオンへ視線を送る一人の幼女……それは、携えた紅の槍を以てと競り合うサキュドの姿だった。


「馬鹿な……何故……ッ!!!」

「その小僧に感謝する事ね。前線に出てきたワタシを拝み倒して、ここまで来させたのはコイツよ」

「っ……ミコト……!?」


 炎を受け止め、ぎしぎしと音を立てる槍を握りながら、サキュドはレオンの腕の中で泣きじゃくるミコトにチラリと視線を向け、ぶっきらぼうにレオンへと告げる。

 だがサキュドとて、開戦直後の魔術砲撃戦での魔力消耗はかなりの筈……。


「ッ……!!」

「ミコト! いつまで泣きじゃくってんのよ! ソイツ抱えてても援護くらいはできるでしょ!!」

「う……うんっ……! ブースト!」


 ぐらぐらと揺れる頭で思考するレオンの前で、サキュドが鋭い声でミコトを叱咤した。

 すると、レオンに身を預けていたミコトは自らのガンブレードを手に取ると、その銃口をサキュドの背に向け、静かに呟いて銃爪(トリガー)を引く。


「っ……!! てぇッ!!」


 その直後。

 ミコトのガンブレードから放たれた光がサキュドの背に吸い込まれ、その小さな身体がうっすらとした輝きに包まれると、サキュドは気迫の籠った声と共に槍を振り回し、ごうごうと吹き付けていた炎を切り裂いて吹き飛ばした。


「ハ……ハッ……。っ……悪いけど、私も本調子じゃない。あんなチャチなクスリの回復量なんてたかがしれてるの……だから、アンタも力を貸しなさい」


 サキュドが浅い呼吸を繰り返しながら告げると同時に、振り払われた紅の槍にまるで存在そのものが揺らめくかのようにノイズが走る。しかし、即座にサキュドが槍の柄を握り締めた瞬間にその揺らめきは消え去り、槍から紅の魔力が迸った。


「ウフフ……皮肉ね。このアタシがアンタの手を借りながら、アンタ達を守ってるだなんて……」


 しかし、サキュドはチラリと背後の二人に視線を向けると、ニンマリと口角を吊り上げて意地の悪い笑みを浮かべながらそう告げたのだった。

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