782話 恐れ無き剣
「インパクト・バレット」
カチリ。と。
ヒロとトーヤの攻撃が迫る中、レオンは銃把を握り締て引き金を引き絞る。
瞬間。速射性を重視した魔導弾はその効果を遺憾なく発揮し、強烈な衝撃と反動を以てレオンの身体を前方へと射出した。
「なっ……!?」
「ゲぇっ!?」
その直線的で迅速な軌道は、左右から挟撃を仕掛けていたヒロとトーヤの間をすり抜け、レオンは一瞬にしてその背後へと回り込む事に成功する。
「っ……!!!」
だが、爆発に等しい衝撃とその反動を、疲弊した身で一身に受け止めたレオンの身体も無事で済むはずも無く、全身の骨がギシギシと音を立てて悲鳴をあげていた。
しかし。
「インパクト……バレットッッ!!」
固く歯を食いしばったレオンは、構えた剣の切っ先を向けた先を変え、再びその引き金を引き絞って弾丸を放つ。
次に狙う先は地面。爆音と共に放たれた衝撃は、まるで木の葉のようにレオンの身体を宙へと舞い上げていた。
力も速度も相手が上……二対一を強いられているこの戦いでは、平面的な動きをしていては絶対に勝てない。
ならば……連中の想像の上を行く。
奴等もよもや、追い詰めた瀕死の人間が空を飛ぶなど予想だにしていないはずだ。
「ッ……!!! イン……パクトッッ!! バレットッ!!!」
三度。
自らの放った弾丸の衝撃によって宙へと舞い上がったレオンは、間髪入れずに切っ先の向きを変えて引き金を引き絞る。
剣を向けた先は遥か上空。しかし、眼光鋭くギラリと見開かれたレオンの瞳は、地上で驚愕の表情を浮かべて自らを見上げるトーヤへと向けられていた。
「なっ――」
「――遅いッッッ!!!!」
爆音が鳴り響いた後、交叉は一瞬だった。
まるで、自らの身を弾丸としたかのような速度で射出されたレオンの身体は、刹那の間にトーヤとの間に開いていた距離を詰め、トーヤが反応する暇もなくその真横を通り抜ける。
「トーヤァッ!!!」
「っ……あ……ぁぁ……」
直後。
盛大に土煙を上げながら地面へと着地するレオンの事など眼中にないかのように、目を見開いたヒロが悲痛な声で友の名を叫ぶ。
だが、トーヤはただ立ち尽くしたままうめき声を上げるだけで、ヒロの声に反応を示す事は無く、怒声と爆音の鳴り響いていた戦場に僅かな沈黙が帳を下した。
「グッ……アッ……!! っ……!! フン……キーン・ブリッツ。……と云った所か」
「ちく……しょうッ…………!!!」
僅かな間を置いて、苦悶の声と共に静かな呟きがもうもうと立ち込めた土煙の中から響くと同時に、それまで呆けたように立ち竦んでいたトーヤの身体がぐらりと大きく傾ぎ、鈍い音を立てて地面へと倒れ伏す。
そして、舞い上がった土煙が晴れる頃には、レオンが自らのガンブレードから薬莢を振り出しながら、ゆらゆらと覚束ない足取りで残ったヒロへと身体を向けていた。
しかし。
「トーヤッ!!! トーヤァッッッ!!!」
「ッ……ガハッ……」
「…………」
臨戦態勢を崩さないレオンに対して、ヒロは明らかな狼狽を露わにすると、自らの友の名を叫びながら、地面に倒れ伏したトーヤへと駆け寄っていく。
そんなレオンの前でヒロはトーヤの傍らへと辿り着くと、自らの武器すら投げ出して友の肩へと手をかけて揺さぶり始める。
「嘘だろッ……!? おいッ!! 何とか言えよッ!! トーヤッッ!!!」
「ウ……グッ……馬鹿……野郎……」
「っ……!! よかったッ! 無事なんだなッ!!」
「無事な……ものかよッ……!! 馬鹿がッ……!!」
「…………」
苦痛に耐えながらも言葉を漏らすトーヤと、友を喪った絶望の表情から一転、胸を撫で下ろしたかのように笑顔を浮かべて声をあげるヒロを眼前に、レオンはただ黙ってその様子を見つめながら、新たな弾丸をガンブレードへと込めてゆっくりと構え直す。
「っ……!!! よくも……よくもトーヤをやってくれたなこのクソ野郎ッ!!」
「…………」
「テメーだけはぜってぇに許さねぇッ!! ギタギタのボロボロにして殺してやるよッ!!」
ボゥッ……。と。
怒りと怨嗟に塗れたヒロの叫びと共に、その身体がみるみるうちに炎を纏っていく。
同時に、傍らへと投げ出した棒を拾い上げると、ヒロが身体に纏った炎はユラユラと揺らめきながら武器を包み込んでいく。
「っ……!! こちらは最初から……そのつもりだ」
犬歯をむき出しにしたヒロが、全身に纏った炎を滾らせてレオンを睨みつけると、レオンはビキビキと体内から響く異音を無視して、剣を構えたままその怒りに応じたのだった。




