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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第15章

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781話 切り札の欠陥品

「ハハッ!!」


 狂笑と共に身を沈めると、トーヤはレオンを目掛け、剣を構えて駆け出した。

 否。それは構えと称する事ができるようなものでは無い。まるで剣をひけらかすかのように高々と振り上げたその格好は、獣のように沈めた体勢も相まって、剣技など習得していないかのような様相だった。

 だが、右へ左へと不規則な軌道を描く彼の駆け方や、常人足り得ぬ速度は確かに彼が戦士であることの証左であり、その感覚の差異が相対するレオンを困惑させる。


「ッ――!!」


 トーヤは滑り込むように滑らかな動きでレオンの元へと肉薄し、高々と振り上げた剣を身体ごと回転させて下段から斬り付ける。

 しかし、トーヤのトリッキーな動きに惑わされながらも、レオンは堅実に守りを固めてその剣を受け止め、反撃に転ずるべく身体に力を込めた。

 瞬間。


「フッ――」

「――ッ!!!」


 ニタリ。と。

 トーヤはまるでレオンを嘲笑うかのように笑みを浮かべ、切り上げた剣に力を籠める事無く、衝撃に流されるままに身体を傾がせている。

 その背後では、ヒロが手にした棒を大上段に振りかぶっており、それは間髪入れずレオンの脳天をめがけて振り下ろされた。


「オオオォォォォォォルァァァァァァアアアッッッ!!!」

「クッ……」


 躱せない。

 獣を思わせる吠え声と共に迫り来る棒を目前に、レオンはそう直感した。

 同時に、レオンの身体は思考から離れ、刹那の時間の中で銃爪(トリガー)を引き絞る。


「ぐあッッ!?」

「痛ゥ……」


 直後。

 ひと際大きな銃声が鳴り響くと、レオンに目掛けて飛び掛かっていたヒロがその身体ごと吹き飛ばされる。

 同時に、直撃こそ免れたものの、突如として放たれた衝撃の余波を受けたトーヤが、ゴロゴロと地面を転がった。

 一方。

 反撃を仕掛けたはずのレオンの姿もその場には無く、数瞬の間をおいてから、先程レオン達が剣を打ち合わせた場所から、数メートルほど離れた位置でムクリと立ち上がる。


「……インパクト……バレット……ッ!!」


 その身を襲う衝撃の余波に、レオンは足をふらつかせながらも再び剣を構え、再び距離の空いた前方で立ち上がる二人を睨み付けながら呟きを漏らした。

 インパクト・バレットはその名の通り、衝撃だけ(・・・・)を撃ち出す魔導弾丸だ。けれど、他の弾丸に比べて実戦で扱い得るような代物では無かった。

 故に、彼等が身を寄せるエルトニアでは、長年魔導弾丸開発の『失敗作』として、その術式が見向きもされる事は無かった。

 しかし、大威力での術式行使が可能なレオンはトーマスからこの術式の存在を教えられた時、緊急回避用の手段として真っ先にその開発を再開させたのだ。


「グッ……ガハッ……!! 流石に……無理があったかッ……!!」


 レオンはひと際大きく咳き込んだ後、グラリと態勢を大きく傾がせて地面に膝を付く。

 あくまでも、このインパクト・バレットは緊急用。故に速射性と威力だけを追求したその術式には、指向性制御はおろか、反動制御も組み込まれてはいない。

 つまり、銃口の先で爆弾が爆発したのと同義で、その衝撃は周囲の者に等しくダメージを負わせていた。


「ハッ……自爆かよ……」

「痛ってぇなァクソッ!! ま~だ耳がキンキンしやがる……」


 そんな弾丸を放てば、消耗しているレオンと比べてトーヤ達がより早く体勢を立て直す事ができるのは自明の理で。レオンが地面に剣を突き立て、傷付いた身体を無理矢理起こした頃には、怒りに顔を歪めた二人が目前まで迫っていた。


「フ……」

「あ? んだコイツ」

「ビビってイカれちまったか……? 泣いて謝っても許さねーけど……」


 ユラリ……と。

 疲弊した体を揺らめかせたレオンは、口元に僅かな笑みを浮かべて地面から剣を引き抜く。

 ここまでの強敵との連戦でかなりの魔力を消耗している。更に、相手は全弾発射(フルバースト)でさえ倒し切れない強敵が二人。仮に今この瞬間にミコトが駆け付けたとしても、万に一つの勝算も無いだろう。

 だが……。


「アイツなら……斬り拓くんだろうな……」


 レオンは頭の中で皮肉気な笑みを浮かべるテミスを思い浮かべながら呟くと、引き抜いた剣を両手で握り、その切先を自らの後方へと向けて居合のような構えを取る。

 そうだ。エルトニアの大軍勢を前に、最前線にたった一部隊で取り残されたあの時のように。テミスならば思いもよらぬ手段で絶望を覆すだろう。


「ならば……負ける訳にはいかないッ!!」

「ンな事知るかよッ!!」

「……いい加減うぜェよ」


 レオンがギラリと眼光鋭く吠えるように叫ぶと、それに呼応するかのようにトーヤとヒロは怒声をあげ、左右から同時に武器を振りかぶって飛び掛かったのだった。

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