772話 信頼を重ねて
「ミコト。合わせろ」
「……ッ!」
武器を手に迫り来る兵達を前に、レオンは手にしたガンブレードを水平に構えると、傍らを駆けるミコトへチラリと視線を向けて口を開いた。
直後。
レオンの構えたガンブレードの弾倉が薄く輝き、凄まじい魔力が圧縮されていく。
「わか……たっ!!」
同時に、レオンの言葉を受けたミコトは立ち止まると、迷いの無い動きでガンブレード振るい、弾倉に装填されていた弾丸を全て排出する。
そしてそのまま、ミコトは懐からたった一発の弾丸を取り出すと、淀みの無い動きでその一発の弾丸を弾倉に込め、祈りを捧げるようにガンブレードを垂直に構える。
「っ……!!」
この一発の弾丸は、ミコトにとって特別な弾丸だった。弾丸を込めて構えてはじめて、ミコトは自らの心臓がドクドクと早鐘を売っている事を自覚した。
そうだ。この弾は戦いが始まる直前、レオンから託された彼の弾丸。
膨大な魔力を持つレオンの扱うガンブレードは、ミコト達が使用している物とは異なり、その出力も耐久性も優れた特別製だ。
無論。その膨大な魔力を受け止める弾丸も特別製。たとえ弾丸に見合った魔力を注ぎ込めたとしても、ミコトの剣自体が持たないのは自明の理だった。
「それでも……僕ならッ!!!」
自らの中で昂り始めた感情に、ミコトは祈るように伏せていた顔をふと上げる。そこには、強力な弾丸に込めて尚、周囲に溢れ出んばかりの膨大な魔力を弾倉に収束させるレオンの背があった。
その光景は、ミコトが今まで見て来たものと全く同じで……。
「っ……」
「……? ミコト?」
それに気づいたミコトは、クスリと口元に笑みを浮かべた後、剣を構えたまま堂々とした足取りでレオンの隣へと並び立つ。
瞬間。
ぎらぎらと血走った敵の兵達の視線や、肌を突き刺すような殺気がミコトに襲い掛かった。
「……大丈夫。いつでも行けるよ」
しかし、ミコトはその頬に一筋の汗を流しながらも、口元には柔らかな笑みを浮かべたまま、隣に立つレオンの問いかけに答えてみせる。
この弾丸にはきっと、レオンからの思いが沢山込められているはずだ。
なら、見せるしかない。
レオンに守られるだけじゃなくて、隣に立って一緒に戦う事ができるくらい強くなったって事をッ!!
「フッ……俺も負けてられないな」
並々ならぬ決意を込めて、レオンの隣で構えた剣に魔力を注ぐミコトを見て、レオンは口元に小さな笑みを浮かべた後、視線を外して迫り来る敵を見据えた。
事と場合によっては、戦闘中であろうと即座にミコトを連れて帰還するつもりだったのだが、どうやらその必要は無いらしい。
その瞬間。喜びに似た、どこか満ち足りた気持ちがレオンの心の中を満たし、びしりと音を立てて迸る魔力が膨れ上がる。
「……いくぞ」
「うんっ……!!」
そして、ミコトの構えたガンブレードから光が漏れ始め、レオンの構えるガンブレードから、その刀身をも覆い尽くす程の光が溢れ出始めた刹那。
ボソリと呟かれたレオンの言葉に、傍らのミコトが力強く頷く。
「ハァッ……!!」
直後。
迫り来る敵の兵士達に向けて、撃ち出された弾丸のような速度で飛び出したレオンが、烈破の気迫と共に構えた剣を横薙ぎに振るうと同時にその銃爪を引き絞る。
「全弾発射・収束形態ッッ!!」
その瞬間。
レオンのガンブレードの弾倉に込められた弾丸に凝縮された魔力が、眩い光となって刀身に収束し、巨大な刃と化した破壊エネルギーが斬撃となって殺到する敵兵を薙ぎ払わんとその牙を剥いた。
同時に。
「全弾……発射ッ!!! ・収束形態ッッッ!!!!」
レオンの隣で剣を構えていたミコトが大きく跳び上がり、高々と剣を振り上げて銃爪を引き絞ると、一発の銃声が響き渡ると共に一筋の光が天を衝くようにそそり立つ。
そして、薙ぎ払われたレオンの斬撃と交叉するように、ミコトは叫びと共に高々と掲げた光の刃を全力で振り下ろした。
「断罪の十字撃ッッッ!!!」
「――ッ!!!」
二人の剣から放たれた光の斬撃が交叉すると同時に爆発的にその光量を増し、逃れ得ぬ絶望となって、次々と兵士達を呑み込んでいった。
しかし。
「――セェイッッッッ!!!」
バシュゥッ!! と。
突如響いた気迫の叫びと同時に、十字の斬撃の中心が切り裂かれ、収束していた力が小さな爆発となって周囲に霧散する。
「嘘……っ!?」
「っ……!! これは……!!」
爆発と共に急激に弱まる斬撃の光の向こう。
驚愕の声を漏らしたレオンとミコトの視線の先には、まるで、その振り下ろした一振りの剣を以って斬撃を両断したとばかりに立ちはだかる、クラウスの姿があったのだった。




