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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第15章

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762話 黙する英雄たち

 名も知らぬ男の骸から流れ出る血が戦場を赤く染め、時折響くうめき声に耳を傾けて佇むレオン達の元へフリーディアが到着したのは、戦闘が終わってから十数分後の事だった。

 身に着けた甲冑をガシャガシャと鳴らし、姿を現すフリーディアを出迎えるべく、レオンは黙したまま静かに体の向きを変える。


「っ……!! これ……は……っ!? どうして……ッ!?」


 しかし、直後にレオンの耳へと届いたのは、フリーディアが鋭く息を呑み、押し殺したような小さな声で零された呟きだった。


「……大したことじゃない。敵を迎撃した。それだけだ」

「倒した敵の数は十二。全て冒険者将校でした。装備などから強襲先遣隊かと思われます」

「え……えぇ……」


 それでも尚、淡々と報告を続けるレオンとミコトに、フリーディアはゴクリと生唾を呑み下した後、努めて冷静に頷きを返す。

 問いたい事はある。言いたい事もある。しかし今、自分達が立っているのは戦場なのだ。

 その事実を糧にフリーディアは心を静め、大きく息を吐いてから口を開く。


「想定外の敵の夜襲に対する迅速な即応。感謝します」

「気にするな。俺達には……想定の内だっただけだ」

「それは……どういう……?」

「っ……! いや……」


 そのねぎらいの言葉にレオンが言葉を返すと、フリーディアは目を丸くして首を傾げ、真正面から視線をレオンへと注ぎ込む。

 瞬間。レオンは鋭く息を呑んで口を噤み、フリーディアから視線を外した。


「…………」


 これはどう考えても、俺のミスだッ……!!

 冷たい無表情の仮面の裏で、レオンは自らが零してしまった失言に、急激に心臓が早鐘を打ち始めたのを自覚する。

 自分達はあくまでも、ファントへ力を貸しているだけの雇われに過ぎない。

 ならばこそ、この世界に未だ存在しない筈の発想から作られた技術である照明弾の情報は、テミスから伝えられなくてはならない。

 ともすれば、自分達が敵のスパイであるなどという疑いがかけられるだけでなく、テミスの配下に彼女の意図無くこの手の知識を吹き込んだとなれば、最悪自分達が寄る辺を失う可能性もある。

 突如として訪れた危機にレオンは言葉を失うが、そんなレオンを見つめ続けるフリーディアに、横から進み出たミコトがにこやかな笑みと共に語り掛けた。


「ただ……可能性の一つとして考えていただけです。用心深いのは、僕たちの癖のようなものですから」

「……そう。現在、こちらの迎撃部隊は全員所定の配置に向けて出た所よ。町を狙う術式が止んだ今、敵の本隊の進軍が予想されます。あなた達には引き続き、この一帯の守りをお願いするわ」

「わかりました。お任せください。ここは僕とレオンが居れば大丈夫です」

「……了解した」


 一方で、フリーディアはミコトに対してただ小さく頷いただけで話を断ち切り、極めて事務的な口調で話を次へと進める。

 その言葉によれば、レオン達が稼いだ時間は無駄ではなかったようで。フリーディアは二人が新たなる指示に頷いたのを確認すると、ヒラリとその身を翻して草原の向こうへと立ち去って行った。


「……珍しいね?」

「あぁ……」


 そんなフリーディアの背が十分に小さくなってから、レオンに背を向けたままボソリとミコトが口を開く。

 その口調は問いかけるようでありながらも、レオンの様子を伺う色を帯びていた。


「……初めてだったからな」


 そしてレオンもまた、ミコトへ視線を向けずに、ただ呟くような声でその問いに答えを返す。

 魔族に人間に転生者。この世界へと流れ着いてから、今まで山ほどの命を絶ってきたのだ。今更、人殺しがどうこうなどと論ずるつもりは無い。

 だが。

 この手でヒトを殺めた瞬間。こうも誇らし気な達成感に似た、胸が透くような思いが去来したのは初めての事だった。


「凄いよね。テミスって……」

「……そうだな」


 レオンの心中を察してか、はたまたミコト自身も同じ思いだったのか。

 二人は自然と、足元に転がる名も知らぬ男の骸へ視線を向けると、大きく息を吐いて言葉を交わす。

 間違いない。この胸の中に滾る思いは、自らがいかに悪逆極まりない者を誅したのかという事実を語りたいという、一種の承認欲求のようなものだ。

 だがあの女は、常日頃から口癖のように、自分が力を振るう理由を、自らの怒りの為だと繰り返していた。

 それはつまり、テミスはあの皮肉気に歪ませた笑顔の裏側で、レオンですら冷静さを欠かせるほどのこの思いを、御し切っている事を証明している。


「フッ……土産話には、十分だな……」

「そうだね。秘密にすると二人共、うるさそうだし」


 二人は小さく笑みを交わした後、自分達の中に湧き出る欲求の行き先に目処を付けると、次なる戦いに備えて草原の彼方へと目を向けたのだった。

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