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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第15章

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760話 獅子の好餌

「……終わったか」


 カシャリ。と。

 周囲にもうもうと拡散していく爆炎の中心で、レオンは小さく呟くと、その銃口から薄く白い煙を吐き出すガンブレードに薬莢を吐き出させる。

 同時に、空いた片手で新たな弾丸を懐から取り出し、空になったシリンダーへ手際よく再装填していく。


「痛……たた……。信用してはいたけど、やっぱり自分の目の前を爆発が通り過ぎていくのは心臓に悪いね……」

「フッ……。だが、良い判断だ」


 その傍らでは、仰向けに地面へと倒れたミコトが、背中をさすりながらムクリと体を起こす。

 恐らくは、レオンの攻撃を余分に避けたせいで受け身を取り損ねたのだろう。戦闘を終えて静かになった戦場の中で、レオンはクスリと小さく笑みを零した後、労いの言葉と共にミコトへと片手差し出した。


「ん……ありがと」

「大した事じゃない。じきに増援も来る」

「そうだね……。敵も味方も……」


 ミコトを助け起こした後、ぶっきらぼうに言葉を投げかけるレオンに、ミコトは小さく笑みを浮かべた後、抜き身のまま手に携えていたガンブレードを腰の鞘へと収める。

 まずは第一波。敵の強襲を防ぐ事に成功したと考えて良いだろう。

 レオンの攻撃によって意識を刈り取られ、もしくはその身に甚大なダメージを受けた者たちは、装備や人数から予測するに、兎も角速度に特化した強襲部隊であると見て取れる。

 ならばその狙いは恐らく、こちらの態勢が整う前に守りの内側へと食い込み、撹乱する事の筈だ。

 それが失敗に終わった今、次に押し寄せてくるのは敵の本隊。それまでにこちら側の迎撃準備が整うか否かが勝負の分かれ目だ。


「レオン! 座らなくて良いの? 少しでも休まなきゃ」

「問題無い」

「本当? 無理しちゃ駄目だからね?」

「……。あぁ……」


 言葉と共に、自らの側へと駆け寄ってくるミコトから視線を逸らすと、レオンは静かに返事を返す。

 確かに、ガンブレード内に込めた弾全てに、同時に魔力を注ぎ込む全弾発射(フルバースト)は消耗の激しい技ではある。しかし今のレオンは、たった一度この技を使った程度では揺るがぬ程の実力を手に入れていた。

 だからこそ。

 敵の全滅を確信したミコトが気を緩めている今でも、そのこと(・・・・)に気付けたのだろう。

 レオンを見上げて言葉を紡ぎ続けるミコトの背後。

 急襲してきた仲間達と共に吹き飛ばされ、地面に転がっている男の手が、ぎしりと密かに握り締められた事に。


「でも、流石レオンだね! 僕もファントに来てから少しは追い付けたんじゃないかと思ったけれど……まだまだ頑張らなきゃ!」

「…………」

「……? レオン?」

「いや……俺も負けていられないな」


 剣を担いだまま黙り込んだレオンに、ミコトは不思議そうに首を傾げて問いかけるが、レオンはただ静かに言葉を返しただけに留める。

 どんな方法でダメージを軽減したのかは知らないが、このまま負けを認めて地に伏して居るのならば、わざわざ止めを刺す必要も無いだろう。

 そんな事を思いながらレオンが空へと視線を移すと、頭上で繰り広げられていた砲撃合戦はいつの間にか止んでおり、煌々と辺りを照らし出す照明弾だけが、煙った空で静かに佇んでいた。

 だが。


「――ッ!!! ラァッ!!」

「なっ……!?」

「フン……」


 レオンが敢えて見せた大きな隙に、伏して居た男が食らい付く。

 男は倒れた姿勢のまま猛然と地面を蹴ると、完全に背を向けていたミコトへ向けて拳を突き出した。

 しかし、レオンは驚愕して身を縮ませるミコトと、己の体を入れ替えるようにして男の前に立ちはだかると、肩に担いでいたガンブレードの刀身で男の拳を受け止める。


「レオンッ!? そんな……なんでっ……!!」

「馬鹿な奴だ。寝ていれば見逃してやったのに」

「ハッ!! なにビビってんだ? コイツはセンソウだぜ? 好き勝手に気に入らねぇ奴ブチ殺していい場所だろォがッッ!!」


 己と相対していた男の唐突然の復活にミコトは息を呑むが、レオンは不敵な微笑みを浮かべたまま剣を構えて男と相対する。

 同時に、レオンはべらべらとがなり立てる男の言葉を完全に黙殺しながら、油断なく男の全身に視線を巡らせて観察をした。

 見た所、先程与えたダメージが回復した訳ではない。だが、周囲の連中と比べて、男が受けたダメージは明らかに少なかった。

 けれど、こうして武器を構えて相対しているというにも関わらず、男は構えを取る事すらせずに胸を張り、ただこちらを威圧するようにがなり立てているだけだった。


「……素人か」

「ンだとォ……?」


 男の粗暴な言動や、低級の冒険者にも劣る立ち振る舞いにレオンはそう断ずると、嘲笑を浮かべてぽつりと呟きを漏らした。

 おおかたこの男も、この世界に流れ着いてから、その立場や与えられた能力に溺れて我欲のままに振舞ってきたクチなのだろう。

 なるほど。そう考えると確かに、侮蔑や嘲笑といった不快感だけではなく、怒りにも似た感情が湧き出て来る。


「フ……少し、奴の気持ちが理解できた。ミコト。こいつは俺の得物だ。クク……少し遊んでやる。吠えてないでかかって来い」

「の……ヤロォッ!!! 舐めンじゃねぇッッ!! ブチ殺すッ!!」


 レオンは何処となく納得したように頷いた後、不敵な笑みを浮かべて男を挑発する。

 瞬間。挑発に乗った男は額にビキビキと青筋を立てると、目を剥いて拳を握り締め、レオンへと殴りかかったのだった。

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