759話 開戦告げる銃声
「……喰らえッッ!!!」
「一撃で決めるッ!!」
ファントの町へ向けて殺到する敵の兵たちに、放たれた矢のように駆け出したレオンとミコトは、競い合うように数度その立ち位置を交叉させた後、各々のガンブレードを高々と掲げ、気迫と共に振り下ろした。
二人が相対する兵の数は十二人。恐らくは、強襲目的の先遣隊なのだろう。だが現在、彼等を迎撃すべく出撃しているのはレオンとミコトの二人のみ。そんな二人を打ち破り易しと踏んだのか、先遣隊の兵たちの顔には余裕の笑みが見て取れる。
「ハハッ……!! 出たよ。英雄気取りの勘違い野郎がさァッ!!」
「一撃……? やってみなさいよッ!!」
無論。襲撃隊列を組んでいる彼等が退くはずも無く、レオンの振り下ろした刃はギラギラと目を光らせた男の幅広の西洋剣が、ミコトの振り下ろした刃は唇を半月状に釣り上げた女の肉切り包丁のような片手剣が、それぞれけたたましい音と火花を立てて受け止める。
だが、四つの刃が打ち合わされた瞬間。
ミコトとレオンの唇が揃って動き、全く同じ言葉を紡ぐ。
「インパクト・バレット」
「なっ――!?」
バギィッッ!!! と。
言葉と共に、レオンとミコトの持つガンブレードの銃爪が引き絞られると、刃を受け止めた二人の武器が粉々に砕け散り、その衝撃を真正面から受け止める羽目になった二人が、まるでトラックにでも撥ね飛ばされたかのような勢いで吹き飛ばされる。
「……どうした? その程度か?」
「歯ごたえ……無いですね」
自分達が負ける事など、微塵も想像していなかったのだろう。
残った十人の兵たちは、呆気にとられた表情で目を見開いて、その視線を吹き飛ばされたまま地面の上でうめき声をあげる自分達の仲間と、レオン達との間で行き来させていた。
一方で二人は、そんな彼等を挑発しながら、レオンは悠然と振り下ろした剣を、肩に担ぐような独特の構えへと構え直し、ミコトもまた残心を解いて中段に構え直す。
「こ……の……っ!!! うおおオォォォッッ!!!」
「待てッ!! クッ……!! 囲んで潰すぞッ!!」
残った襲撃部隊の中でただ一人、いち早く我を取り戻した金髪の男が、雄叫びと共に拳を振りかぶり、レオンへ向けて突進する。
それに数瞬遅れて、襲撃部隊の中から放たれた鋭い叫びに合わせて、残りの面々がレオンとミコトを取り囲むように円状に展開した。
「……任せる」
「食らって死ねやァッッ!!!」
しかし、レオンは自らに向かって猛然と突進してくる男を無視するかのように体の向きを変えると、ボソリと呟くように一言だけ言葉を放つ。
だがそんな間にも、男が振りかぶった拳は叫びと共に無防備なレオンの顔面に向けて放たれる。
直後。固く握り締められた男の拳が、レオンの顔面へと突き刺さる刹那。
「――了解ッ!!」
ゴィィンッッ!! と。
レオンと入れ替わるように飛び出したミコトの剣が、鈍い金属音を響かせて男の拳を受け止めていた。
「ハッ……スかしやがってッ!! 邪魔すんなッ!!」
「丈夫な拳だね……行かせないよっ……!」
ミコトが男と相対したのを見届けると、レオンは僅かに口角を上げて背を向け、肩に担ぐようにして構えていたガンブレードを自らの前へと翳し、込められた弾丸へと魔力を注ぎこむ。
そんなレオンの背に、無視された形となった男が怒声と共に拳を繰り出すが、ミコトが次々と打ち出される拳を受け止め、目の前へと立ちはだかる。
「っ~~~!!! 雑魚がッ……!! ウゼぇんだよッ!! 砕け散れッ!!」
「っ……!!」
剣を構え、立ちはだかるミコトに対し、男は苛立ちを叩き込むように大きく拳を振りかぶって叩き付ける。
一際力を込めた殴打。それに対しミコトは、冷静に剣を構えて受けに回ると、その刀身でしっかりと叩き込まれた拳を受け止めた。
刹那。
拳を受け止めたミコトの剣の刀身にヒビが入り、パキリと言う音を立てて中程で二つに折れる。
「ハッハァッ!! 終わりだッ!! 飛び散れッ!!」
そして間を置かず、自らの拳でミコトの武器を砕いた男は、己が勝利を確信して唇を歪め、握り締めた拳を突き出した。
だが……。
「甘いよ」
「な……に……ッ!?」
静かに紡がれた言葉と共に、ミコトは自らに対して放たれた拳を、鈍い金属音と共に受け止める。その手には、つい先ほど男の拳によって真っ二つに折られたはずのガンブレードが握られており、その傷一つ無い刀身は力強く男の拳を受け止めていた。
「良いぞッ!! そのまま押さえてろッ!!」
「殺せッ!!!」
「っ――!?」
だが今度は、ミコト達の周りを取り囲んでいた敵の兵士たちが、一斉に二人をめがけて飛び掛かった。
その一斉攻撃には、連携などという言葉は微塵も含まれておらず、ただ九人が思い思いの瞬間に、一気にレオンとミコトに向けて攻撃を仕掛けているだけだった。
しかし、そんなお粗末な攻撃といえど、ミコトを含めたとしても迎撃できる剣は二本。
十対二という圧倒的な人数差を生かした攻撃。彼等の『作戦』通りなら、いくら個人の力量に差があろうと、レオン達にはどうあがいても勝ち目は無いはずだ。
「ミコト」
「解ってる」
刹那。
レオンが静かに言葉を紡ぐと、ミコトは男の拳を剣で受け止めたまま、地面へと倒れ込むように上体を宙へと投げだした。
それに合わせ、ミコトと鍔迫り合いの形で拮抗していた男は引き込まれるようにその体勢を崩し、ミコトの上へと覆い被さる形で宙を舞う。
直後。
「吹き飛べ。全弾発射・円状形態」
呟きと共に、ガンブレードを構えたレオンがその場でクルリと身を翻すと、彼等に向けて突撃を敢行している兵士たちの眼前に、微かに赤い光を放つ魔力が煌めいた。
しかし、兵士たちがそれを認識する前に。
指向性を持って円形に放たれた爆撃が、まとめて彼等を吹き飛ばしたのだった。




