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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第15章

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758話 禁忌の光

「……凄まじいな」


 軽々とファントの防壁を飛び越え地面へと着地したレオンは、遥か彼方で今も尚爆炎を上げ続ける空にチラリと視線を向けて呟きを漏らした。

 事前の情報が正しいとすれば、今ファントへと向けて放たれているモノは全て、転生を果たした者達の能力によるものだろう。

 だというのに、それをたったの十数人。しかも元来この世界に存在する魔法で撃ち落しているのだから、レオンは自らの腕と比較しても、その実力は驚愕に値するものだった。


「わかる? レオン。あのサキュドって子……化け物だよ。あれだけ数の弾が飛んできているのに、大半を一人でやってるんだ」

「あぁ……敵に回したくはないな……二度と」


 爆発を繰り返す空から視線を下ろしながら、レオンは傍らのミコトと言葉を交わすと共に、自らの腰に収められたガンブレードを抜き、ゆっくりと構えを取る。

 彼女たち(・・・・)の持つ戦力は異常である。故に、平和を求めるファントという形に留めておかねばならない。

 それが、ミコトを通じて報告を受けていたレオン達が、密かに下した判断だった。

 自分達の背後で今も尚、敵の爆撃を撃墜し続けているサキュド一人を取ってもそうだ。

 仮に彼女が己が力を人間の虐殺を目的として振るったのならば、堅固な守りを持つ城塞都市一つが陥落するのに一時間と掛からないだろう。

 そんな強大な戦力を持つ者たちと共闘関係を築けたのは、レオン達にとって僥倖以外の何物でも無かった。


「今回は僕もレオンの隣で戦う……いいよね?」


 武器を構えたまま静かに戦慄するレオンに、微塵も驚く様子を見せる事無く、カシャリと音を立てて弾倉を閉じたミコトが声をかける。

 そこには、エルトニアにいた頃の彼からは予想もつかない程の、自らの力に対する自身が含まれており、レオンは僅かに目を見開いた後、静かに口を開いて答えを返す。


「……背中は任せる」

「っ……!! うん!! 任せてよッ!!」


 聞きようによっては、ぶっきらぼうで冷たい一言に思えるかもしれない。

 しかし、常にレオンに守られ、その背からの援護を主として戦っていたミコトにとって、レオンから告げられたその言葉は、声を弾ませる程に喜ばしいものだった。

 そして、ファントの防壁の側で守りを固める兵士達から大きく突出した位置で敵を待ち構えるレオン達の耳に、地面を踏み鳴らす無数の足音が微かに聞こえ始めた頃だった。

 ぽしゅるるるるるるぅぅぅぅぅ…………。と。

 ともすれば、張り詰めた緊張が抜けてしまいかねない程に間の抜けた音を立てて、凄まじく低い射角でイゼルの側から飛来した一つの光弾がレオン達の頭上を通り過ぎた。


「……やはりな」

「まさか……そんな……ッ!!」


 だが、まるでその『弾』の存在を予測していたかのように、レオンとミコトが声を合わせて呟いた瞬間。

 小さな炸裂音が鳴り響くと共に、その光弾はまるで太陽のように鋭い光を放ち、ぎらぎらと周囲を照らし始めた。

 その『弾』の名は、照明弾。

 レオン達がかつて暮らしていた世界での戦争において、夜間戦闘の際に使用されていた兵器だ。

 無論。そんな兵器の存在を、この世界の住人であるフリーディアが知るはずも無く、平和な暮らしを望むレオン達もまた、自分達が備えるだけに留めて敢えて口にしていなかった。

 だというのに。


「チッ……。馬鹿が……」

「何処の誰かは知らないけれど、やってくれたね……。これでこの世界の戦争は、また一歩……僕たちの世界の戦争へと近付いた」


 照明弾の光に照らし出された二人の忌々し気に歪められた顔には、一目で分かるほどの嫌悪と憎悪が浮かんでいる。

 それもその筈だ。

 照明弾など、原理としては簡単な代物だ。道具によって少ない魔力をかき集めるこの世界の人間にとって、類似の魔法を作り出すのは簡単な事だろう。

 それは同時に、豊富な魔力を有し、その扱いに長ける魔族でも可能な事で。

 これからの戦いでは、いかに地の利が優れていようとも、敵の夜襲をも昼間の急襲と同様に警戒しなければならなくなった。

 つまるところ、照明弾の知識をこの世界へと流した大馬鹿は、同時にこの世界から夜の安寧をも奪い去っていったのだ。


「ねぇ……レオン……」

「ン……?」


 照明弾の登場によって、俄かに騒がしくなる背後を無視して、ミコトは冷たい声で静かに口を開く。

 その口調には、普段のミコトからは予測もつかない程に冷徹な怒りが秘められており、あまりの気迫にレオンはチラリとその視線をミコトへ向ける。


「初めてだよ……ここまで人を憎いと思ったのは……」

「……同感だ。行くぞ……」

「っ……!! うんッ!!!」


 だがその視線の先で、怒りに燃える瞳で迫りくる敵の部隊を見据え続けるミコトを見ると、レオンは小さく口元を歪めた後、静かな声でその思いに同調した。

 そして、二人は同時に力強く地面を蹴ると、照明弾の照らし出す光の下、構えた武器を振りかぶって真正面から敵の部隊へと斬り込んでいったのだった。

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