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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第15章

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754話 黒銀は未だ遠く

 同時刻。

 警戒態勢を敷いているファントが、イゼルの町へ入った一団を見逃す筈も無く。その報告は既に放たれていた斥候が即座にファントへと持ち帰った。


「フリーディア様ッ!! 斥候より報告ッ!! ブライトさ……ブライト率いる兵がイゼルへ到着したと!!」

「っ――!! 来たわね。わかったわ。リック。全員に通達を。即座に迎撃態勢を敷きなさい」

「了解しましたッ!!」

「っ……! お待ちください」


 今や指令室と化した執務室にミュルクが飛び込み、叫ぶように報告を伝えると、テミスの席へ腰掛けていたフリーディアは小さく頷いて指揮を下す。

 しかし、フリーディアの命令を受けて部屋から飛び出そうとするミュルクを遮り、静かな声と共にマグヌスが進み出て口を開いた。


「今は全軍へ敵の接近を知らせるに留めた方が良いかと。連中とて長い行軍を終えた後なのです。疲労を残したまま、今すぐに攻め入ってくるとは考え辛いかと」

「っ……!! いや……でも待って。ブライトが前線に来ているのでしょう? 彼は戦いのやり方なんて知らないわ。むしろ、目の前にファントがあるのだもの……襲い掛かってきても不思議ではない……」


 一瞬。

 フリーディアはマグヌスの言葉に頷きかけるも、再び考えを翻して頭を悩ませ始める。

 その様子を、報告に駆けてきたミュルクが姿勢を正した格好のまま、チラチラと視線だけを走らせて盗み見ていた。


「いや……落ち着いて考えて。それは無いと思うよ」


 そこへ、マグヌスの背後から進み出たルギウスが、柔らかな声でそう紡ぐと、フリーディアの前へと進み出て言葉を続ける。


「ブライト……敵の指揮官がイゼルまで出てきているというのなら、その付き人であるクラウス氏も共に居ているはずさ。君達から聞く限りでは、主がそのような愚を犯すのを、ただ見ているだけの人物とは思えないけれど……。兎も角、先に詳しい報告を聞くのが先じゃないかな?」

「っ……! そうだわ……私ったら、報告の詳細も聞かずに何を……。御免なさい。気が急いているわね。リック。イゼルに到着した敵の規模は? その中にクラウスの姿は確認できたの?」

「えっ……? いや……それは……」


 マグヌスの制止とルギウスの説得により、フリーディアは平静を取り戻すと、静けさの戻ったその瞳をミュルクへと向けて問いかけた。

 しかし、問いを向けられたミュルクは途端に目を泳がせると、しきりに身体を揺らしながら言葉を濁らせる。


「リック? どうしたの? 早く報告の続きを――」

「――あの、ごめんなさい。俺……それだけしか……聞いてなくて……」

「え……? 待ってリック。確認したのはあなた達では無いの?」

「は……はい……すぐに聞いて……いや連れてきますッ!!」


 ミュルクが返答を言い淀めば言い淀む程、執務室に集まる面々の刺すような視線がミュルクへと向けられた。

 その返答を聞いたフリーディアが、驚きに目を見開いて問い返すと同時に、ミュルクは涙声でそう叫びをあげると、脱兎如く執務室から駆け出していく。

 そして、緊張感だけが高まった重苦しい空気だけが、執務室の中に残されていた。


「……。ハァ……アホらし……。この緊急時に何をやっているのよ……」

「同感だな……」

「っ……!」


 そんな空気の中、大きなため息と共に椅子の背もたれへ身を投げ出したサキュドが苦言を呈すと、それまで部屋の隅で壁に背を預けていたレオンがボソリとそれに同意する。

 そしてその全ての言葉は全て、ミュルクの本来の上司であるフリーディアを針でつつくように苛んでいた。


「あ~……奴もまだまだ青いですから……。再び戦いが起こりかねない事態に気が急いていたのでしょう」

「馬鹿ね。あんな緩んだ表情浮かべてたクセにそんな訳ないじゃない。変に庇うとフリーディアが可愛そうよ? これが一刻を争う報告なら処刑モノだわ」

「グ……ム……ウムゥ……」


 ただ俯く事しか出来ないフリーディアを見かねてか、マグヌスが差し出した苦し紛れの助け船も、サキュドの言葉によって粉々に粉砕される。

 こういった事態を防ぐため、テミス率いる黒銀騎団では立場の如何に関わらず、報告は本人が行う事を徹底していたのだが……。


「……我々の騎士団のミュルクが大変な失態をお見せしてお恥ずかしい限りです。彼には後程、厳しく言い聞かせておきます。併せて改めて、白翼騎士団にも厳しい通達を出しますので、この場はどうかご容赦を……」

「っ……!!」

「フン……当然よ……」

「は……ハハ……」

「…………」


 次第に、遠くからバタバタと騒がしい足音が近付いてくるのを聴きながら、フリーディアは俯いたまま深々と頭を下げると、瓦解しかけた場を治めるべく、殺意とも思える程の気迫の籠った震え声で執務室の面々に告げる。

 その余りの気迫に、一同は胸の中に抱いた感情こそ異なれど、ミュルクがただ(・・)では済まない事密かに確信するのだった。

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