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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第15章

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746話 彼方から来た同胞

「フン……ここはいつから託児所になったんだ?」

「――っ!!!」


 静かに響いた皮肉の言葉に、その場に居合わせた全ての人物が動きを止め、その視線を声の元へと向ける。

 そこには、腰に提げた武器に掌を乗せたレオンが、不敵な笑みを浮かべて佇んでいた。


「な……何だコイツはッ!? 何故部外者がここに居るッ!?」

「……いや、動物園の間違いか……」

「なっ……にィッ……!?」

「フ……。どうでも良い話だ……」


 クスリ。と。

 口元を手で隠したレオンが、冷めた視線を怒鳴り声を上げたブライトに向けて告げると、ブライトの顔が一瞬で茹で上がったかのように怒りで赤く染まる。

 だが、レオンはそれだけで動きを止める事は無く、そのままサキュドとマグヌスの横へ並ぶと、ボソリと呟くような声で問いかける。


「――状況は?」

「っ……!! 敵は喧しい男と奥の老人よ。テミス様を探ってる」

「……解った」

「……気を付けて。あの老いぼれ、只者じゃない」


 ほんの一瞬。

 レオンはサキュドとマグヌスの隣で歩く速度を緩め、その刹那の時間の間で言葉を交わす。

 サキュド達にとっても、今レオンがこの場に現れた理由はわからない。だが、眼前の状況は明らかに危機的であり、サキュドにはひとまずは協力関係にあるレオンを信じるしか選択肢は無かった。


「フリーディア貴様ァッ!! 私を謀るだけでなく、部外者まで招き入れるとは何事だッ!!」

「心外だな。俺はただ、報告に来ただけだ」

「報告……? 貴方一体何故――ッ!!」

「…………」


 レオンは喚き立てるブライトの絶叫を無視すると、その切れ長な目をフリーディアへ向けて静かに告げる。

 しかし、レオンはフリーディアにとっても不確定要素であることに変わりは無い。

 故に、フリーディアが問いを口に仕掛けた刹那。レオンは自らの得物であるガンブレードに添えていた手でその鞘を掴み、己が武具を示して見せた。

 その瞬間。フリーディアはこの町に留まるミコトと同じ形状の武具を持つレオンの存在を正しく認識し、すんでの所で言葉を呑み込んだ。


「……。……お前達の主。テミスだが、少しばかり長く借り受ける事になりそうだ」

「っ……! そう……」

「なっ……?」

「ああ。面倒な事に、敵の勢力が想定を超えていた」


 レオンはチラリと周囲に視線を走らせた後、ゆっくりとした口調でフリーディアに語りかけると、隣でその会話を聞いていたブライトは表情を歪めて大きく息を呑む。

 だが、レオンとてこの状況を全て把握している訳ではなく、この町に到着した足でたまたま病院に足を向けた際に、この騒動にぶつかってしまっただけだ。

 故に。漏れ聞こえてきた口論から窺える、敵である二人の目的であろうテミスの安否を有耶無耶にする以上に語る事のできる言葉を、レオンは持ち合わせていなかった。


「貴様ッ……何者だッ!!? 無礼だぞ! 名を名乗れッ!!」

「……必要無い。それに、無礼なのはお前だ」

「なん……だっ……とぉッ……!!?」

「名を訊ねるのならば、まずは自ら名乗りを上げろ。あのテミスでさえ、その程度の常識は弁えていた」

「ッ……!! ク……ク……ッ!!! 言うに事欠いてッ……!!」


 だからこそ、レオンは噛みついてきたブライトに言葉を合わせる事で時間を稼ぎ、フリーディアが動き出すのを待っていた。

 しかしその間も、レオンの手が腰のガンブレードの柄から動く事は無く、ブライトの怒声を受け流しながらも、その視線は背後に控えるクラウスへと注がれ続けている。


「……了解したわ。報告ありがとう。それで貴方は……?」

「暫くは滞在する」

「わかりました」

「わ……私を無視するな痴れ者がッ!! 私はッ!! ブライト・フォン・ローヴァングラム。ロンヴァルディア内政議会議長だぞッ!!」


 冷静さを取り戻したフリーディアがレオンに応ずると、レオンもまた端的な言葉で会話を進める。

 すると、話題を掠め取られた形となったブライトが業を煮やし、叫ぶように名乗りを上げた。


「……。ロンヴァルディア……?」

「っ……」

「そうだ! 貴様は畏敬訪問の場に飛び込んできた無礼者という訳だッ!!」


 その名乗りに、レオンがピクリと眉を動かして反応を見せると、その視線の先でフリーディアは小さく頷き、ブライトの言葉が真実である事を示す。

 同時に、ミコトから僅かながらも事前に情報を得ていたレオンは、この場のあらかたの事情を察して口角を緩めて口を開いた。


「フッ……ならば猶更、お前に名乗る名など無い。役目は果たした。……あと、機密事項は守れ」

「っ……!! 待てッ!! どういう意味だ貴様ッ!!」


 そしてそれだけ言い残すと、レオンは喚き立てるブライトに背を向け、足早に病院の外へと歩き始めたのだった。

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