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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第3章

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68話 反逆者同盟

テミスの目の前には、無数のウィンドウが展開されていた。そのどれもがグラフや数値を映し出しており、全てが秒刻みで激しく上下している。


「ですが……あれだけ連れなかったのに、本当にこうして頼って来てくれて嬉しいですよ」


 ウィンドウの陰からひょっこりと顔を出したケンシンが笑顔を浮かべると、その手が翳された先にまた新たなウィンドウが展開される。

 ここは、テプローの町の領主館の執務室だ。以前に訪れた時よりも物が増えてはいるが、あれから大して時間も経っていないせいかそこまで大きな変化は無かった。


「正直、お前以外に方法が思い付かなかったのでな。だが、驚いたぞ? 私はてっきりこの体で一戦交える覚悟をしていたからな」


 ウィンドウの海に文字通り頭の先まで埋もれながら、テミスは苦笑を浮かべてケンシンに応えた。

 無駄だとわかりつつも外套を深くかぶり、その下でギルティアに借りた細剣の柄に手を添えながらテプローの門を叩いたテミスは、何故か町人総出の歓待を受けながらこの領主館へと通されたのだ。


「ふふ……事実の伝聞はイメージよりも浸透が遅い。と言った所ですかね……あなたが本当に我々を救ってくれたという事が、ようやく彼等にも伝わったのですよ」


 ウィンドウの陰に隠れて今はケンシンの表情が見えないが、何故かテミスにはケンシンがあの薄ら笑いを浮かべているのがわかる気がした。


「だからと言って、魔王軍の軍団長をこうも簡単に招き入れるのはどうかと思うがな」


 あくまでもテプローは人間領。以前は利害が一致したため共闘することになったが、お互いの立場上対立しなくてはならない事もあるはずだ。


「良いじゃないですか。我々が対立する事などそうそう無いでしょうに。それに対立したとしてもテミスさん……絶対に攻めて来ないでしょう?」

「まぁ……な」


 妙な角度で再び姿を現したケンシンの顔には、テミスの予想通り意地の悪い笑顔が浮かんでいた。だがしかし事実として、この男の持つ能力は無敵に近い防御力を誇っている。故にテプローと事を構えるのであれば、ここからケンシンを引き摺り出す事を考えなければならない。


「……極力。そのような事態は避けたいな。面倒だ」

「怖いなぁ……面倒程度……なんですねっ……っと。わかりましたよ」


 軽口と共にケンシンが立ち上がると、無数に展開されていたウィンドウが一気に姿を消した。


「どうだ? お前の力を使って元に戻すことはできそうか?」


 テミスは不敵な笑みを浮かべながらケンシンに問いかける。現状、敵の多い魔王軍に籍を置くのならばあの力は必須だ。個の強さが最大限に評価される魔王軍において、多少策を弄する事しかできない小娘などすぐに放逐されるだろう。


「………………」

「気を使わなくていい。私はこれでも気楽に構えているんだ」


 テミスの目から一瞬だけ視線を逸らしたケンシンに、テミスは笑みを崩さぬまま語りかけた。ここで力が戻らないのならば、本格的にファントの宿屋の娘にでもなるしかないだろう。


「結論から言うのであれば、僕にテミスさんの能力を戻すことはできません」

「……そうか。世話になった」


 何故か苦し気な顔を浮かべたケンシンがそう告げると、テミスは軽く頷いて椅子から軽い調子で腰を上げた。


「まっ……待って下さい。それでもわかった事はあります」

「わかった事?」


 まるで、もうここに用はないと言わんばかりに歩き出したテミスの足が、ケンシンの声によってピタリと止まる。


「はい。まずテミスさんの力は、ただ封印されているのだけではなく……奪われています」

「……奪われた?」

「はい。正確には写し取られたうえで塗り固められた……そうですね、ハードディスクを無理矢理フォーマットされている感じと言えば伝わるでしょうか」

「ああ……なるほどな」


 久々に聞いた懐かしい言葉に、テミスはフッと笑みを漏らして頷いた。聞きかじった話だが、ハードディスクをフォーマットするという作業は何も、中のデータを全て消している訳ではないらしい。


「確か……記憶領域に、データが空になったという情報を上書きすることで空き容量を創り出す作業……だったか? すまんな。あちらでも大してパソコンには詳しくなくてな」

「ええ。あってますよ。僕が見た所、テミスさんの力の核を同質の何かが覆っています。ああ、あくまでも比喩表現ですがね」

「ならば、お前の力でそれを除く事は出来ないのか?」


 ふと気になってテミスは疑問を口にした。原因がわかっているのであれば、領域内という限定空間ではあるものの、神に等しい力を持つケンシンならばどうにかできるようにも思えるが……。


「それも既に試しましたが効果はありませんでした。どうやら継続的に力が外部から供給されているようでして……膜の内部の力の強さが変動しているのはわかりましたので、供給が断てれば何とかなるとは……」

「な・る・ほ・ど・ね……」


 テミスは一音づつ区切って発音すると、腰掛けていた椅子に戻ってドカリと身を投げ出すように腰掛けた。


「懲罰部隊……噂では聞いていましたが、まさか実在するとは……」

「能力者……いや、この場合は転生者か。転生者を狩る転生者なんて、おあつらえ向きにも程があるな」


 もしもあのべっとりとした声の持ち主が、自称女神の手で俺の後に生み出された存在だとしたら……? それはつまり、あの自称女神がこの世界を監視していて、自らの意に背いた私に対して刺客を放ってきた事になる。


「……どうしました?」


 ケンシンは黙って皮肉気な笑みを浮かべるテミスを見て首をかしげると、自分も奥に設えられた椅子へと腰掛けて首をかしげる。


「いやな。本当にそうなのなら神様も狭量な事だと思ってな。ケンシン、お前も気を付けた方が良いんじゃないのか?」

「……確かに、そうかもしれませんね」


 若干の沈黙と共に目の前に一枚のウィンドウを出現させたケンシンが微笑むと、執務室の中に二人の反逆者の笑い声が満ちた。


「……では、大罪人仲間が見出してくれた一筋の光を、追うとしますかね」


 いつもの皮肉気な笑みと共にテミスはそう言い残すと、見送るケンシンに手を振って執務室を後にしたのだった。

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