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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第15章

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739話 留守を護る者達

 その報せがファントへと届けられたのは、フリーディアが正式にテミスの代行を始めてから十日ほどが経った頃だった。

 無論。その間もフリーディアは欠かす事無くテミスの元を訪れ、その日あった出来事を細部まで語り聞かせている。

 その成果もあってか、ファントの町で生活するほとんどの者は、テミスは重症を負ったものの健在であり、テミスの指揮の元でフリーディアが動いていると認識していた。


「フリーディア様。こちらを……」

「わかったわ」


 フリーディアが豪奢な装丁が施された封書を受け取ったのは、白翼騎士団としての業務を遂行している時……テミスによってあてがわれた、白翼騎士団用の執務室でのことだった。


「これは……」


 ロンヴァルディア王家の封印が捺された蝋封を破き、封書の中身に目を通したフリーディアは、驚きの呟きを漏らすと共に息を呑んだ。

 そこに記されていた内容は二つ。

 一つは、内政議会議長であり、フリーディアの従姉妹にあたる男・ブライト・フォン・ローヴァングラムによるファントの表敬訪問。

 それに加えて、この町を訪問した際に、以前この町で執り行われた、ファント・ロンヴァルディア・魔王領の代表会談での無礼を、直接テミスに謝罪したいという。


「っ……!!!」


 その内容に、フリーディアは無意識にぎしりと歯を食いしばると、突如として高鳴り始めた心臓の鼓動を意識した。

 ロンヴァルディアという国家の行く末と生存を念頭に置くブライトと、常に弱き者を救う事を最優先とするフリーディアが折が合う訳も無く、二人はロンヴァルディアに居た頃から、事あるごとに意見の対立させていた。

 そんなフリーディアが、この封書の内容を鵜呑みにする訳も無く。

 厳重に封書を畳み直してから握り締めると、呆気にとられるカルヴァス達を尻目に、逼迫した表情を漲らせて部屋を飛び出した。


「マグヌスさんッ!! サキュド……さんッ!! 御免なさい!! 居るかしらッ!?」


 ドンドンッ! と。

 白翼騎士団の執務室を飛び出したフリーディアが向かった先は、普段テミス達が執務をこなしている執務室で。

 フリーディアはその戸を乱暴に叩きながら叫びをあげると同時に、返答を待たずに戸を開けて室内へと駆けこんだ。

 そこには、気だるげに書類仕事をこなしていたであろうサキュドが、陽に照り付けられた草木のようにへにゃりと歪んだ体勢で腰を掛けており、その首だけが僅かな驚きの色を浮かべて戸口へと向いている。

 そんなサキュドから少し離れて、恐らくは急に訪問した自分の応対に出ようとしたのだろう。

 自らの席から数歩離れたマグヌスが、目を見開いて突如部屋へと飛び込んできたフリーディアへ視線を向けていた。


「っ……!! どうか……された……のですか……? フリーディア殿」

「……私が言うのも何だけど。アンタがそうやって入ってくるの、少し懐かしいわね」

「…………」


 何気なく発されたサキュドの言葉に、フリーディアは胸の奥がジクリと痛むのを感じた。

 ついこの間までは、何か問題が起きれば私は、この部屋(テミスの所)へ駆けこんでいた。

 すると、テミスは深いため息を吐きながら、本当に心の底から厭そうな顔で私を見て皮肉を口にするのだ。

 でも、今この部屋に主たるテミスは居らず、その代わりを自分がしなくてはならない。

 そう自覚した瞬間。背筋に氷柱でも差し込まれるような感覚がフリーディアの全身を駆け巡ると共に、焦れ焦がれていた頭が、赤熱した鋼を水に浸したかのように一気に覚める。


「御免なさい、二人共。取り乱したわ」

「いえ……ご苦労をおかけします」

「ハン……いいのよ。アンタはそれで。余計な所まで、真似しないでよね」


 一気に静けさを取り乱したフリーディアの謝罪に、マグヌスとサキュドはそれぞれの表情を浮かべながら応えると、まるで招き入れるかのようにフリーディアをテミスの席へと誘った。

 そのぽっかりと空いた何処か寂し気な席は、塵一つ無い程ピカピカに磨き上げられており、傍らで保管されている漆黒の大剣と甲冑も、まるで主の帰還を確信して待ち続けているが如く、静かに鎮座していた。


「して……何事ですかな?」

「戦いなら、今度こそ私は最前線にいくわ? 最近は後衛ばっかりで退屈なのよ」


 何処か厳かで、そして静謐な雰囲気を醸し出すフリーディアがテミスの席へ腰掛けると、そんな彼女の前に立った二人の副官が、不敵な微笑みを浮かべて問いかける。


「……まずは、これを見て。かなりまずい事になったわ」


 そんなサキュドとマグヌスの顔を静かに見据えた後、フリーディアは手に握り締めていた封書を二人の前に差し出すと、極めて冷静な口調で語り始めたのだった。

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