幕間 救いの手は要りませんか?
「是非ッ!! お手伝いをさせて下さいッ!」
威勢のいい声が、ファントの路地に響き渡る。
そこは、ファントを十字に貫くメインストリートから少し外れた通り。この場所は町の外から来た冒険者や、物見遊山でファントへと訪れた人々ではなく、この町に住む人々を対象とした店が集まる区画である。
「いや……手伝いって言われてもなァ……。アンタが、あのマリアンヌさんかい?」
「はい……? 確かに私はマリアンヌですが……」
そんな区画の一角で店を構える主人は、目の前で瞳をキラキラと輝かせる一人の女を先頭に、ずらりと並んだ修道服の集団を前にため息を吐いていた。
最近、こういった手合いの連中が町を騒がせている事は、店の主人とて知っていた。
だが、こんな小さな自分の店には来ないから大丈夫だろう。
そんな、どこか他人事のような考えで居たというのに、現実はそう甘くは無かった。
「悪いが、他を当たっちゃくれないか? 正直ウチは、ひと様の手伝いが必要なほど忙しくは無いんだ」
「待って下さいッ!! 商品の数の管理からお店のお掃除まで!! お手伝いと言っても私達、できる事は沢山あるんですッ!!」
「あ~……」
断って尚、食い下がってくるマリアンヌに店の主人は辟易としながら、深いため息を吐いて空を仰いだ。
できる事は沢山ある。何でもやる。そういう彼女の口車に乗せられた者たちの末路を、店の主人はよく知っていた。
確かに、彼女たちの言葉に偽りはない。だが彼女達が仕事をした後は全て、彼女たちの流儀に塗り替えられてしまう。
酒場では、酒の種類ごとに、開封した順に分けられていた酒を、名前ごとに並べ直してしまったり、雑貨屋はお得意様に向けた秘蔵の品を集客として店頭に並べられ、大損を被ったという。
故に。できればここは穏便に、ウチの店に関わる事なく立ち去ってほしいのだが……。
「まぁまぁ! まずはお試しにお掃除でもッ!! 大丈夫です! 女神様に誓って、お金を要求したりはしませんッ!!」
「いや……だが……ッ!!」
「絶対に後悔はさせませんからッ!! ささっ!! 皆さん! 腕によりをかけてピカピカにしますよッ!!」
「はいッッ!!」
店の主人が止める間も無く、にっこりと笑みを浮かべたマリアンヌが号令をかけると、後ろに控えていた者たちが一斉に声をあげる。
そんな、奇妙に統率の取れた者達の異様な迫力に、ただのしがない商人である店の主人が気圧されない訳が無く。
「あぁ……頼むから……頼むから変な事はしないでくれよぉ……」
渋々と小さく頷いたが最後。
自らの店の中へ突入していくマリアンヌ達の背を見送りながら、店の主人は祈るように呟く事しかできなかったのだった。




