表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

755/2313

731話 多忙な代行者

 数日後。

 まるで、先日の騒動が嘘だったかのように、ファントの町には平和で穏やかな時間が流れていた。

 人々は日々の生活を笑顔で謳歌し、ファントの町の平穏は確かに今日も守られている。

 ……だが。


「っ……。ハァ~……」


 ファントの町の片隅に建つ軍団詰所の執務室では、目の下に濃い隈をこしらえたフリーディアが深いため息を吐いていた。


「……参ったわね。これで何日目よ……? 日にちの感覚も無くなってきたわ……」


 そう呟いたあと、フリーディアはその席の主であるテミスのようにべしゃりと机の上に身を投げ出すと、呻くような声で呟きを漏らした。

 あの事件から数日。

 事態は多少の進展を見せたものの状況はほとんど変わっていなかった。


「……フリーディア殿。お疲れでしょう……少し休まれては?」


 その傍らから、マグヌスが静かな声と共に香り高いコーヒーを差し出すと、フリーディアは机の上に投げ出していた身体を気だるげに起こし、今度は腰掛けた椅子の背もたれへと体重を移す。


「マグヌスさん……ありがとう。でも、大丈夫よ。これから町の見回りをしながらテミスの様子を見に行ったあと、マリアンヌの所へ戻らなきゃ……。あ、あとマーサさんのお店の手伝いもあったわね」

「っ……」


 マグヌスの差し出したティーカップを持ち上げると、フリーディアは柔らかな笑みを浮かべて微笑んだ後、自らの予定をすらすらとあげつらっていく。

 時間は既に昼を過ぎ、あと数刻もすれば日も傾いてくる頃。

 だというのに、フリーディアが座る机の上には、未だ山のような書類がうず高く積み上げられていた。


「お言葉ですがフリーディア殿……。貴女まで倒れられてしまってはどうしようもありません。どうか……どうかくれぐれもご自愛ください」

「フフ……わかっているわよ。……テミスじゃないんだから。それで? 彼等(・・)の様子はどうかしら?」

「…………。はい……」


 眉根を寄せて告げるマグヌスの言葉に、フリーディアは苦笑を浮かべて笑い飛ばすと、マグヌスへ任せていた仕事の報告を求める。

 しかし、それでもマグヌスの表情が優れる事は無く、長い沈黙と共に手に持っていたティーポットを傍らに置いた。

 確かに、フリーディアは自分達や白翼騎士団、そしてサキュドにも仕事を任せている。

 しかし、単純な仕事の量だけで言えば、以前のテミスよりも今のフリーディアの方が遥かに勝っており、その証拠が目の下にありありと浮き出ているのだ。

 だが、テミスと同じ(・・・・・・)で口で幾ら言った所で、決して聞き入れぬだろうと察したマグヌスは、小さなため息を吐いて報告を始める。


「主張と……証言の内容に変わりはありません。ただ……」

「……何か問題が?」

「はい。彼等の中にも、聴取に協力的であろう者は居るようなのですが、どうも同じ部屋の仲間の事を酷く気にしているらしく……」

「そういう事ね……。わかったわ……なら、今日から全員牢を別けましょう。単独用の房にまだ空きはあったわよね?」

「はい。ですが、彼ら全員に割り振ると、現在の空きが全て埋まってしまいます」

「大丈夫よ。情報が聞きだせるのなら、そっちが優先だわ」

「承知しました。では、そのように」


 フリーディアの指示を受けたマグヌスが、手元の書類を引き寄せて何やら書き込むのを眺めながら、フリーディアは静かにコーヒーへと口を付ける。

 テミスを眠らせた後、小屋の中に散乱していた物品を全て回収し、部隊を撤収させたフリーディアが最初に行ったのは、捕縛した者たちへの尋問だった。

 曰く。彼等はマリアンヌと共にこの町へ入り、テミスの決定した処遇に反発して去っていった者達の一部らしい。

 彼等の主張はただ一つ、自分達を含む、現在ファントに身を寄せているマリアンヌ達女神教徒の解放だった。

 フリーディアが直接行った尋問で、それと引き換えで無くば、何一つ喋る事は無いと口を閉ざして以降、ここ数日押し問答が続いている。


「全く……テミス……。いつまで寝ているつもりなのよ……」


 ここ数日の激務に、流石のフリーディアであっても愚痴がその口を突いて出る。

 フリーディアが意識を断ってからこれまで、テミスがただの一度も目を覚ます事は無かった。

 彼女の治療を請け負うイルンジュ曰く、これまで無茶を重ねてきた代償だという。

 しかし、あの日前線に出るために使った薬や術式の後遺症は既に抜けている筈で、それでもなお目を覚まさないのは、これまでの戦いでテミスの身体と心に蓄積したダメージが原因らしく、ただ待つ事しかできないそうだ。


「でも……無理をさせちゃったからね。少しは休ませないと……!!」


 暫くの間、その視線を何処を見るでも無くぼんやりと彷徨わせた後、フリーディアは残ったコーヒーを一気に飲み干すと、パシリと自らの頬を叩いて活を入れて積み上げられた書類へと取り掛かるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ