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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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722話 同胞の警告

「まずはAパターン。敵戦力が存在しないと判明した場合は、情報の収集に入ると共に即座に私を呼べ」

「なら、テミスが到着するまでに罠の確認をしておくわね」

「あぁ……」


 兵士たちの前での演説を終えたテミスは、小屋をぐるりと取り囲んだ兵士たちの背後で、前線指揮官であるフリーディアと共に作戦の最終確認を行っていた。

 その傍らでは、場の雰囲気に気圧され、苦笑いを浮かべたマリアンヌが所在無さげに立っている。


「それで……本当の所はどうなんですか?」

「っ……!?」

「ライゼルっ……!? 貴方、こんな所で何をしているのッ!!」


 そこへ突如、フラリと姿を現したライゼルが、薄い笑みを浮かべながらテミスに向けて声をかけると、作戦を煮詰めていたフリーディアが怒りの声をあげる。


「失礼。……ですがどうかお許しを、フリーディア様。私も、敵の戦力は正しく認識しておきたいので」

「っ……!? それって……どういう意味……?」

「言葉通りの意味です。フリーディア様ならばご理解いただけると思ったのですが? 幾度も白翼騎士団や冒険者将校、そして魔王軍との戦いを切り抜けたテミスともあろう者がここまでの傷を負ったのです。少なく見積もっても、敵の首魁の実力は魔王軍の軍団長相当……いえ、あるいはそれ以上でしょうか」

「っ……」


 フリーディアの言葉に頭を下げたライゼルがつらつらと言葉を並べると、テミスとフリーディア、そして傍らのマリアンヌは顔を見合わせた後、一様に口を噤んだ。

 どうやらライゼルは、今回のテミスの負傷を非常に重く捉えているらしい。

 テミスと同じ転生者の身であり、刃を交えた事すらある彼が自体を重く捉える理由も、テミスであらばこの含みのある言い方も理解はできた。

 つまり、ライゼルの真の問いは、敵が転生者であるか否かの確認なのだろう。

 だがその一方で、マリアンヌやフリーディアは、テミスの心情を慮り、言及することを避けていた。


「……すまないが、それについてはまだわからん」

「っ……!? どういう意味です?」

「言葉通りの意味さ。私が今回刃を交えたのはほんの末端。皆の前で先程述べた事に偽りはない」

「つまり……本当に油断をしていたと?」

「油断……。あぁ……慢心や気の緩みと言っても過言ではないな……」


 ライゼルの問いにテミスが答えると、ライゼルは静かに目を細め、テミスを責めるかのように冷たい口調で言及する。

 その言葉に対してテミスは、何処か思案するかのように視線を彷徨わせた後、愁いを帯びた口調で言葉を続けた。


「そう……よもや平和を取り戻したこの町で襲われるとは思わなかった。予測を怠っていたと言っても良いだろう」

「テミス……」


 どこか沈んだように紡がれた言葉に、フリーディアは痛まし気な視線を向けて呟きを漏らす。

 これまでずっと、テミスは戦い続けてきた。

 それは、この町を護る為であると同時に、他者を不幸に突き落とす悪人を斬る事で、災禍の元を断つという彼女の信念なのだろう。

 けれどだからこそ、そんな彼女が張り詰めた気を、唯一緩める事ができたのがこの町の筈だ。

 だがライゼルは、そんな安息の場所ですらも、テミスに気を張らせようとしている。


「フッ……それは――」

「――待ちなさいライゼル。それ以上の発言は許しません」

「っ……! フリーディア様……?」


 ライゼルの意図を予測したフリーディアが会話に割り込むと、ライゼルは驚いたような表情を浮かべて言葉を止める。

 しかしテミスは、歯を食いしばってライゼルを睨み付けるフリーディアの肩に手を置くと、平坦な声で言葉を紡いだ。


「良いんだフリーディア。ライゼル、皆まで言わずとも解っているさ」

「っ……!!」

「……」

「よもや、相手が年端も行かぬ子供だとは思わなかったし、斥候に対して更なる援軍など想像もしていなかった。このような無様は二度と晒さんさ。私は……」

「自惚れるなよ、テミス」

「なっ……!?」


 まるで自嘲するかの如く、自らの失態をあげつらっていくテミスの言葉を、ライゼルの低い声が制した。

 それは、普段の彼が発する、何処か優し気で掴みどころのない声色とは異なり、冷たく明確な怒りが込められていた。


「自惚れる? ……私が?」

「えぇ。そうですよ。何もかも自分でできると思い込んで出て行って、いざ失敗したら全部自分だけで抱え込んで次に生かす? 笑わせるなよ」

「ライゼル!! 口を慎みなさい!! 貴方という人は――」

「――いいえ、言わせて貰いますよ。フリーディア様。貴女もです」


 スチャッ……。と。

 ライゼルは声を荒げて進み出たフリーディアにも身体を向けると、その右手を己が武器が仕舞われているカードケースに番えて言い放った。


「戦場では無類の強さを誇ると言えど、貴女方は諜報戦には不向きだ。だというのに、聞けばマリアンヌ(お荷物)まで抱えて挑んだそうじゃないですか」

「ハッ……言うに事欠いて不向きだと? フリーディアは兎も角、私に向かってよくぞ言えたな? 追跡に関して問題は無かった」

「ハァ……なら、何故私を使わなかった? そもそも、監視や追跡など、わざわざ後を付けるような真似をせずとも、魔法を使えば良いでしょうに」

「ッ……。ハァ……お前の言いたい事はわかった。だが今は作戦中だ。文句ならば後でまとめて聞いてやるさ」


 数秒。テミスとライゼルは真正面から睨み合った後、小さなため息を漏らしたテミスが視線を外してそう告げる。

 ここで言い合ったとて時間の無駄だし、そもそも話の趣旨がズレてきている。それに、癪には触るがライゼルの言葉に一理があるのも事実だった。


「ひとまず今は、お前もフリーディアの部隊に加わって突入しろ……。これで満足か?」

「……。えぇ、ひとまずは。ですが、指揮を執るのならしっかりとして欲しいものです。命の恩人が目の前で吹き飛ぶ可能性は見過ごせませんからね」


 憮然とした表情で言葉を返したテミスに、ライゼルはクスリと皮肉気な笑みを浮かべた後、テミス達に背を向けて立ち去って行ったのだった。

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