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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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717話 望まぬ戦い

「――ふっ……!!!」


 始まりは、突然訪れた。

 だくだくと血を流しながらも、片手で大剣を構えたまま不敵な笑みを崩さぬテミス。

 その身体が重心を低く屈めた刹那。

 中空に血飛沫を残し、姿が掻き消える。

 次の瞬間。


「わぁっ……!?」


 高々と大剣を振りかぶったテミスの姿は瞬時に襲撃者の眼前へと移動し、その小さな体をめがけて漆黒の大剣が猛然と振るわれる。

 その斬撃に、生け捕りや手加減などいった甘さは微塵も無く、ただ目の前の外敵を断ずるためだけに、甲高い音を立てて空気を裂きながら、未だに奇怪な笑みを浮かべる襲撃者に肉薄した。


「アハッ……!!」

「っ……!!!」


 しかし。

 大剣が肉を断ち、骨を砕く鈍い音が響く事は無く。その代わりに嬌声のような少女の笑い声と、くぐもったテミスのうめき声が周囲へと響き渡る。


「クク……。グフッ……大した奴だ……」

「そう言うお姉さんは、大したことないね?」


 剣を振り抜いた直後の格好のまま、二人が短く言葉を交わすと、テミスの口元から一筋の血が顎を滴り地面へと落ちた。

 刹那の交叉。その結果、テミスの剣が襲撃者の身体を捕らえる事は無かった。

 それどころか、この幼い襲撃者は返す太刀で、その両手に持つショートソードをテミスの胸に突き立てるべく突進したのだ。

 玉砕覚悟の特攻ともいうべきその反撃に気が付いたテミスが、寸前で地面を軽く蹴ったお陰で、胸を穿つはずの剣は深々と腹に突き立ち、辛うじて致命傷だけは逃れていた。


「そうだな……不意打ちで深手を負い、敵を見誤ってこのザマだ。反論の余地も無い」


 しかし、テミスはその血が流れる口元を不敵に歪めたまま襲撃者の挑発に頷くと、ぐらりとその身を大きく傾がせる。

 まさに紙一重。

 己が身に斬撃が迫る最も恐ろしいであろうその瞬間に、この少女はその小さな体躯を生かして前へと進み出た。

 それは片腕で無理矢理に大剣を振るった所為で、普段のそれと比べてテミスの剣速が遅かった事を鑑みても異常な光景だった。

 その技術(・・)は一流の戦達が血反吐を吐くような訓練を経て、数多の地獄のような実戦の果てに手に入れる一つの境地でもある。

 けれど、目の前の少女にそういった痕跡(・・)は一切無く、それは彼女が、己が内の恐怖を飼い馴らしたのではなく、己の恐怖を捨て去っただけであることと……。

 襲撃者の少女が、既にどうしようもない程に壊れてしまっている事を意味していた。


「っ……。……だが。甘い」

「へっ? わわっ!? なんでッ……!?」


 次の瞬間。

 何処か間の抜けた声と共に、襲撃者の少女の身体が宙に浮いた。

 少女の襟首はいつの間にかテミスの手によって掴まれており、テミスの手が握っていた筈の大剣は、少女の後ろの地面に突き立っている。

 だが。


「あははっ!! 無理しちゃ駄目だよ? それに……ほら」

「…………」


 まるで猫のように襟首を掴まれ、中空にぶら下がった少女は、危機感も緊張感も無い笑い声を上げると、視線をテミスの腹部へ向けて言葉を続けた。


「……何をするにしても。私がお姉さんのお腹を切っちゃう方が早いよ?」


 少女の言葉通り、テミスの腹部にはまだ、先程の交叉で突き立てられた二本のショートソードが刺さっており、その柄は未だ少女の手が固く握り締めている。

 重症に次ぐ重症。

 どちらも致命傷でこそないものの、片方だけでも処置をしなければ命を落としかねない深手だった。

 これまでに流した血に加えて、腹の刺し傷を裂かれれば失血死は免れない。

 だというのに。


できるものなら(・・・・・・・)やってみろ(・・・・・)

「っ……!!!!」


 テミスは無垢な表情で己を見上げる少女を嗤うと、少女を掴んだ腕に力を込めて宙へと放り投げた。

 同時に、少女が先刻の宣言通りにテミスの腹を裂くべく剣に力を籠めるが、少女の身体が宙へ舞うと共に、テミスの腹に突き立っていたショートソードは傷口が吐き出す血液に圧し返されるようにして引き抜かれていた。

 結果。

 少女が両の手に持つ剣は空を切っただけに終わり、その身体はすぐに無防備に両腕を開いた格好で落下を始める。

 無論。重症の身とはいえ、テミスがその隙を逃すはずも無く。神速の速さで伸ばされたテミスの手が、落下を始めた少女の胸倉を固く掴み取った。


「あっ……!!」

「望み通り。おいた(・・・)の罰は、お前の選んだ世界の理に則ってやる」


 そして、テミスは頭上を舞う少女に向けて、氷のように冷たい声で呟いた後。


「やめ――ギャッ……がッッッッッッッァ…………!!!!」


 地面に敷かれた石畳へ向けて、渾身の力で襲撃者の少女の身体を叩きつけたのだった。

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