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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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714話 逃れ得ぬ暗剣


 以前。何処かで聞いた話が、脳裏を掠める。

 事故や事件。崩落する大岩から逃げ延びた者や、狂気に呑まれた犯罪者の刃を躱した者は口を揃えてこう言ってた。

 ――まるで、時が引き延ばされたかのように、迫りくる脅威がスローモーションとなって見えていた。と。


「…………」


 彼等の言葉は本当だったのだな。

 自らの首元へ迫る刃を眺めながら、テミスはどこか他人事のようにそんな事を考えていた。

 この刃を受けようとも、私の剣は既に抜き放たれ、御者台に居る行商人の首へと向けられている。既に首元まで迫ったこの刃に対するには、距離が遠すぎるというのが事実だろう。

 ならば、躱すか?

 確かに、全力を以って身を捩れば、傷は負うもののこの首が刎ねられるという最悪の事態は避けられるだろう。

 だが、その後はどうする?

 先程響いた声からして、フリーディアが交戦可能距離に到達するには、もうしばらくの時間を要するだろう。

 ならば、首を裂かれた状態で数合。敵の追撃と打ち合わねばならない。


「フ……」


 間延びした時の中で、テミスは様々な可能性を思案して小さく笑みを浮かべる。

 首を刎ねられるのは論外だ。だが、躱したからといって、避け切れる可能性は薄く、首に傷を負った状態での継戦は困難だ。

 何をどうあがいても詰みだ。

 認めよう。今の私は、この迫る刃から逃れる術を持ち合わせていない。


 ――ならば。諦めよう。


「――ッ!!! オオオオオオオォォォォォォォォッッッッッ!!!!」


 ぶしィッッッ!!! と。

 獣のような雄叫びと共に、大量の血飛沫が舞い上がった。

 直後。ドスリという鈍い音が響くと、馬車の影から小さな人影が転がり出る。


「グッ……あがああああアアアァァァァァァッッッ!!!」


 そして、その影を追うようにして、苦悶の声を血飛沫と共にまき散らしながら、長い白銀の髪を振り乱したテミスが、漆黒の大剣を振り下ろす。


「アハッ……!」


 だが。

 転がり出た小さな人影は身軽にテミスの一撃を躱すと、大きく跳躍して馬車の幌の上へ飛び乗った。

 同時に、渾身の力で振り下ろされたテミスの一撃が石畳を砕き割り、その大きな刀身を深々と地面にめり込ませる。


「死ね」

「――っ!!」


 その隙を逃す程、この襲撃者は甘くは無かった。

 馬車の幌の上から狂気に満ちた短い呟きが聞こえると共に、地面に剣を突き立て、がら空きとなったテミスの背に向けて、飛び抱えるように血に濡れた刃が突き立てられる。

 しかし。


「テミスゥッッ!!」


 その一撃は、叫びと共に斬り込んだフリーディアの剣によって阻まれ、けたたましい金属音が響き渡る。

 刹那の鍔迫り合いの後、返す太刀でフリーディアは剣を薙ぐも、小さな人影は刃を滑らせてフリーディアの一撃をいなし、その一撃の力を利用して飛び上がると、空中でクルリと一回転をしてから、軽い音を立てて着地した。


「テミス!! 無事!?」

「グ……クァ……。ぶ……無事な……物かッ!!!」


 襲撃者に視線を向け、剣を構えたまま鋭く問いかけたフリーディアに、テミスはボタボタと血を流しながら、息も絶え絶えに言葉を返した。

 何とか、首は刎ねられる事なく付いている。

 だが、その代償は大きかった。

 襲撃者の刃が首に迫ったあの瞬間。

 テミスは体を捻って回避行動をとる同時に、空いていた右腕を跳ね上げ、迫る刃に向けて叩きつけたのだ。

 しかし、戦場に出る時に身に着けるような甲冑を、もしくは手甲だけでも装備していれば話は別だっただろう。だが、ここは町の中。テミスの格好は平時と変わらない、軍服のような制服だった。

 無論。そのような格好で無茶をして無事で済む筈も無い。恐らくは、骨で止まった刃が流れたのだろう。襲撃者の刃を受けたテミスの右腕は切断こそされていないもののだらりと垂れ下がり、その腕の半分を削ぎ落されたような傷口からは、今も尚大量の血が流れ出ている。


「武器がッ……安物で助かったッッ!! ハァ……ッ……!! でなければ今頃、首と片腕の無い死体の出来上がりだ畜生ッ!!」


 大量の脂汗と血を滲ませたテミスは、吐き捨てるようにフリーディアに言葉に応じると、地面に突き立った大剣を引き抜いてその隣に並び立った。

 その傍らでは、大きく切り裂かれた馬車の幌が、風を受けて音も無くはためいていた。


「テミス!! 貴女は下がって!!」

「馬鹿が! この程度の傷……問題無いッ!!」


 剣を手に、襲撃者と相対したまま、テミスはフリーディアの言葉を一蹴しながら歯噛みをする。

 こちらの右腕は使い物にならない。痛みこそないが、このまま放置すれば五分と経たず私は失血死するだろう。そもそも、腕が繋がっているだけで儲けものなのだ。問題無い訳が無い。

 だがこの戦況で、テミスは襲撃者の相手をフリーディアだけに任せるには荷が重い事を確信していた。

 何故なら。

 襲撃者の後方からは、ぱたぱたと暢気な格好で走り寄ってくる、マリアンヌの姿があったのだ。


「――っ!! 御免なさい!!」

「話は後だ。すぐに終わらせるぞ」


 そして、即座にテミスの言葉の意味を理解したフリーディアが、短い言葉と共に、構えた剣に力を籠めると、テミスもまたそれに応えながら、残った片腕で大剣をピタリと半身に構え、フリーディアと背中合わせの格好で襲撃者と相対したのだった。

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