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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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712話 もう一つの虚像


「……様子は?」

「変わらずね……。他の商品と一緒に武器も売ろうとはしているみたいだけれど、買った人はいないわ」


 天頂に輝いていた太陽が傾き始め、町を賑わせていた活気が僅かに落ち着きを見せてきた頃。

 テミスとフリーディア、そしてマリアンヌは、屋根の上から追跡する馬車の様子を窺っていた。

 この町に入ってから、馬車は何軒もの店を回って荷を卸しており、行商人だという肩書に間違いは無いらしい。


「ねぇ、テミス? やっぱりあの人はハズレ(・・・)なんじゃない?」

「いや……」

「でもバニサスさんの書類によると、荷役が一人居るはずでしょう? だったら言い方は悪いけれど、彼は『運んだ』だけで関係は無いんじゃないかしら?」


 軽快な笑い声が響いた後、行商人が馬車へと乗り込むのを確認しながら、フリーディアは眉根を下げてテミスへと問いかける。

 しかし、テミスはフリーディアの言葉に沈黙で返すと、鋭い視線を馬車へと向け続けていた。

 確かに、これまで何度も荷下ろしをしているにも関わらず、馬車に乗っている筈の荷役の姿は一度も確認できていない。

 安直に考えるのならば、あの商人は既に『役目』を終えており、武具の類はその報酬だという可能性もあるだろう。

 だが、荷役として町へ入ったのならば、荷役を置いて町を去る訳にもいかない。

 ならば必ず、あの商人はどこかで荷役を演じる何者かと接触はずだ。

 仮にその何者かが、この町に入った時の者とは別人であっても、集まった所をまとめて捕縛するのが正解だろう。


「クク……甘い。甘いぞフリーディア。仮に荷役がどさくさに紛れて町へ出たのだとしたら、あの馬車がこの町を去る時には何が起こる?」

「っ……!! そう……そうだったのね……!! だから貴女は、荷役が馬車へ戻る瞬間を待っているッ!!」

「ど……どういう事ですか……?」


 問われて初めて、フリーディアはテミスの意図を理解し、目を見開いて驚愕を露わにした。

 そう。居たはずの荷役が居なくなれば、当然この町を出る時にバニサス達が見咎めないはずが無い。

 だが、政治に携わるでもなく、戦略にも縁遠い生活を送っていたマリアンヌには少々難しかったのか、目を瞬かせて首を傾げている。


「ふふ……。いい? まずは……」

「は、はいっ……!! えぇっ……!? ですが……。なるほどぉ~!!」


 そんなマリアンヌに、フリーディアは得意気に肩目を瞑って人差し指を立てると、意気揚々とテミスの予測の解説を始める。

 だが、あくまでもそれ(・・)は希望的観測だ。

 あの行商人が使い捨てならば荷役が戻る事は無いだろうし、不確定要素は山のようにある。


「フン……何処のどいつかは知らんが、今にその尻尾を掴んでやる……」


 馬の嘶きと共に動き出した馬車を冷たい視線で見下ろしながら、テミスが静かに呟いた時だった。

 テミスは、自らの後ろでマリアンヌに得意気に解説をしていた筈のフリーディア声に、まるで白熱する議論を交わすかのような熱が籠っているのに気が付いた。


「……お前達。仮にも我々は追跡任務中……隠密行動を心掛けなければならん身の上だ。議論百出を楽しむのは構わんが、それは任務が終わってから――」

「――違う!! 違うのテミスッ!! そう……そうだわ……。私は……私たちはその可能性だけを見落としていたッッ!! お手柄よ! マリアンヌッ!!」

「なに……見落としている? 言ってみろ」


 先程までとは一転して、フリーディアは鬼気迫る表情でテミスの肩を掴み寄せる。

 幾らテミスといえども、そんな表情をしたフリーディアの意見を捨て置く事はできず、正真正銘の素人であるはずのマリアンヌへと視線を向けた。


「はい……察するに、あの馬車自体が囮なのでは……? と。戦いの事とかは良く解らないですけれど……。ここまでテミスさん達を相手に情報を隠し通した相手が、末端とはいえそう簡単に仲間を差し出すような真似をするでしょうか?」

「ム……」

「だというのに、あの馬車には尾行の対策が施されていないどころか、護衛の一人も付いていません。私としては、とても不自然に映ります。まるで、こうして追っている私たち……いえ、テミスさん達を狙っているように見えて……」


 自信無さげに語りはじめられたその言葉に、テミスは思わず馬車を追うべく移動しようと差し出していた足を止めてマリアンヌの瞳を覗き込んだ。

 まさかとは思うが、この女は自分を見放し、絶望に突き落とした私の事を、心配でもしているのか?

 あり得ない。自らの縋る希望をすげなく振り払った私を怨む理由こそあれど、マリアンヌが私の身を案じる理由など、我々を惑わそうとして放った苦肉の虚言を除けば一つも見当たらない。

 もしも真にマリアンヌが我が身を案じているのならば、この女はフリーディア以上のお人好し(大馬鹿)だという事になるだろう。

 故に。


「クク……カハハッ!! 我々を狙ってかッッ!! 斬新な発想だ」

「テミスッ!! 貴女……もう少し真剣に話を聞きなさい! 可能性は――」

「――解った解った。可能性の一端として考慮しよう」


 内心で標的を眼下の馬車に定めつつ、フリーディアのあげる抗議の声を聞き流しながら、屋根の上を駆けたのだった。

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