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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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711話 小さな一歩

 ファントの町を吹き抜ける風が外套をはためかせ、その内側に隠された白銀の髪が、僅かに太陽の光を受けてキラリと輝く。

 あの世界(・・・・)の町とは異なり、このファントの町の殆どは、平屋か二階建て・三階建てといった低階層の建物だ。

 故に。資格こそ存在するものの、屋根の上から見下ろせば、その視界は格段に開ける。

 だがそれは同時に、誰かがふと気紛れに視線を上げれば、自らの姿をも晒してしまう、追跡術としてだけ考えるのならば、分の悪い賭けだった。


「フム……少なくとも、尾行を警戒している訳では無さそうだな……」


 眼下を進む標的の馬車を屋上から眺めながら、テミスは外套を剥ごうと吹き抜ける風に抵抗しつつ呟いた。

 真に尾行を警戒するのであれば、馬車の前方と後方に一部隊づつ、本隊の護衛とは別に斥候役を配置している筈だ。

 それが無いという事は、そもそもこの商人モドキ自体がハズレなのか、はたまた大層な護衛を付けずとも問題無いレベルの者なのか……。敵を過小評価しないのであれば、どちらにしてもテミス達にとって、喜ばしいとは言い難いだろう。


「チッ……遅いな……」


 チラリ。と。

 テミスは馬車に注いでいた視線を後方の人混みへと向けると、小さな舌打ちと共に隣の建物の屋根へと飛び移る。

 体感では、当の昔に五分など過ぎているが、事実テミスの仕切った制限時間までは、まだ僅かな時間が残されていた。

 例え、敵にとっては大層な守りを割くまでも無い者であっても、全く情報を入手できていないテミス達にとっては、僅かであろうと大切な情報源だ。

 無論。捕縛した暁には、丁重にお話を聞く事になる。


「やはり……無理だったか……」


 テミスは視線を馬車へと戻すと、小さなため息と共に言葉を漏らす。

 極限まで鍛え上げているとはいえ、フリーディアとてただの人間だ。その身体能力には限界があるし、ましてや一般人であるマリアンヌを伴って、行き先すら告げずに、こんな場所まで辿り着けという方がどだい無理な話なのだ。


「もしかしたら……」


 何処か、淡い期待もあったのだろう。

 私と対等以上に渡り合い、そして共に戦ってきたフリーディアならば……。このような無理難題であっても、越えてみせてくれるのではないか……と。

 しかし、現実というのはやはり、そんなに生易しいものでは無いらしい。

 何度、眼下の人混みに視線を走らせても、馬車を追うように駆ける二人組の姿は無く、ただ平和な日常だけが流れている。

 結局、追跡失敗の危険を冒して得たものは、テミスの標的であるあの馬車には、尾行や追跡を警戒した護衛は付いていないという情報だけだった。


「……。行くか……」


 バサリ。と。

 微かに微笑んだテミスは、外套をはためかせて身を翻した。

 敵が尾行に対する警戒を怠っているのならば、一人であってもやり方はいくらでもある。

 そう考えたテミスが、次の屋根の上へと飛び移るべく、身を沈めた時だった。


「テミスッ!!」

「――っ!!?」


 突如として後ろから響いた声に、テミスは即座に背中に背負った剣の柄に手をかけて臨戦態勢を取る。

 しかしそこに居たのは、ぜいぜいと息を切らせるフリーディアと、その足元で目を回しているマリアンヌだった。


「馬鹿が……名を呼んだら斬ると忠告したはずだが?」

「それは……ごめんなさい。声をかけないと行ってしまいそうだったから」

「っ…………。まぁ、標的には気付かれていないようだし良しとするか……」


 テミスが剣の柄から手を降ろすと、嗜めるようにフリーディアへと問いかける。

 ここは屋根の上。眼下の喧騒から少し離れている分声は通るが、私たちの発する声は地上まで届いてはいないらしい。


「資料は?」

「マリ……あぁ……。はい、コレよ」

「ん……」


 テミスの問いに応じたフリーディアが、足元に蹲るマリアンヌの名を呼んで視線を向けるが、その様子に苦笑いを浮かべた後、固く抱きしめるようにして持っていた数枚の書類を抜き取ってテミスへと手渡した。


「それにしても……よくこの場所が分かったな?」

「貴女を信じて、貴女ならどうするか……そう考えた結果よ。こと作戦中において、貴女は無駄な事を言わないから」

「クク……。ま……素直に驚いたよ。元々予定していた訳でも無いしな」

「……でしょうね。無茶を重ねた貴女がどうするか……その選択を私は、敵としても味方としても見てきたもの」

「フッ……」


 書類を手渡すと同時に、テミスとフリーディアは言葉を交わした後、どちらからともなくニヤリと不敵な笑顔を交わす。

 本来ならば、フリーディアに作戦を先読みされたことを悔しがるべきなのだろうが、この時テミスの胸中には、どこか清々しくもある喜びが満ち溢れていた。


「よし……では、このまま追跡を開始する。私は追いながら資料に目を通す。フリーディア、マリアンヌの運搬(・・)はお前に任せるぞ」

「っ……。ハァ……了解よ。マリアンヌ? 抱えるわよ?」


 一瞬の沈黙の後。テミスは満足気にコクリと頷くと、フリーディアに指示を出して身を翻す。

 その指示に、フリーディアは一瞬だけ眉を顰めた後、小さくため息を吐いてからその指示に従ったのだった。

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