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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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710話 全てを懸ける、その前に

 時は少し遡り、フリーディアとマリアンヌがバニサスと言葉を交わしている頃。

 人混みの中を縫い、疾風の如く駆け抜けたテミスは、メインストリートから一本外れた路地で足を止めていた。


「っ……。チィッ……想像以上にキツいな……」


 壁に背を預け、荒い息を吐いたテミスは、壁から覗き込むようにメインストリートを覗き込む。

 その視線の先では、テミスの追う商人らしき容疑者の牽引する馬車が、ゆっくりと町の中心部へと進んでいる。


「もっと馬車に張り付くべきか……? いや……」


 いまだ止まる素振りすら見せずに、ひたすら真っ直ぐに進んでいく馬車を視界に収めながら、テミスは苦々し気に呟きを漏らした。

 更に馬車へと近付いて追跡をすれば見失う危険性は無いし、得られる情報も格段に上がるだろう。

 だがそれは同時に、こちら(追跡者)の存在があちら側に露見する可能性が増える事も意味している。


「クソ……望み薄だが、フリーディア達を待つしか無いのか……?」


 テミスがそう吐き捨てると同時に、路地の端から見えていた馬車が姿を消し、テミスは再び人混みの中へと飛び込んでその姿を補足した。

 こんな無茶な追跡はそう何度も通用するものでは無い。本来ならばこの時点で、先に回り込んだ者に監視を任せ、私は次の引継ぎ地点へと赴くべきなのだ。

 それに、人混みの中とはいえ徒歩と馬車だ。何をどうあがいても、その進む速度には小さくないさが生まれる。


「ハッ……ハッ……!! ゼェッ……!! ハァッ……!!!」


 メインストリートの人の波を縫って進み、人目をなるべく避けた路地に飛び込む。

 そんな事を数度繰り返し、テミスは吹き出る汗を地面へと滴らせながら、まるで手負いの獣のような鋭い視線で、追跡する馬車を睨み付けた。


「フゥッ……ハァッ……ゴホッ……!!」


 本来ならば数人がかりでこなす作業を、テミスは今、力技でねじ伏せている。

 監視をすると同時に、標的が向かう方向を見定め、周囲に自らを追跡する護衛の影が無いかを確認しつつ、標的の先へと回り込む。

 テミスはその全ての役割を、自らの並外れた身体能力と経験だけで完遂させていた。

 標的との距離を縮める時には、大きく回り、かつ自らの姿を認識する者を最低限度に抑えるため、可能な限り身を低く落としている。

 故に、仮に追跡するテミスとすれ違ったとしても、走り回る子供がすれ違いざまにぶつかった程度にしか思わないだろう。


「これでは駄目だッ……!! とてもじゃないが……こちらの体力が持たないッ!!」


 苦々し気に紡がれたテミスの言葉には、途方もない悔しさが滲み出ていた。

 追跡するだけでは駄目なのだ。

 追跡し、この町で何かを企もうとしている連中を見つけ出し、一網打尽に捕縛する。

 だからこそ、こんな追跡程度で体力を使い果たしていては意味が無い。


「クッ……」


 そんなテミスの思いなど知るはずも無く。無慈悲にも馬車は、今にもテミス視界の中から消えようとしていた。

 今……私には二つの選択肢が横たわっている。

 一つは、多少の危険を承知の上で、このまま単独での追跡を続行するというもの。

 だが、これ以上単独で追跡をするならば、標的の護衛や協力者が居ないものだと判断して行動しなければならないし、標的に気取られかねない危険な橋を渡る事になるだろう。

 もう一つは、フリーディア達が合流してくるのを待つというもの。

 だが、マリアンヌというお荷物を抱えたうえで、フリーディア達が標的に気付かれぬように隠密行動を徹底したまま、ピンポイントに私の位置まで追い付いて来る事などほぼ不可能だろう。


「万事……休すか……ッ!!!」


 ぎしり。と。

 テミスは汗の滲む手を固く握り締めると、絞り出すような声と共に眼前の壁へと叩き付ける。

 無論。路地とはいえど人通りが全く無いという訳ではなく、今にも崩れ落ちそうな格好で壁に寄り掛かるテミスの姿を、人々は遠巻きに眺めて過ぎ去っていった。


「っ~~~!!!! ならば……賭けよう……」


 商人らしき容疑者の馬車が視界から消えた瞬間。

 テミスは大きく息を吸い込んでそう呟くと、壁に向かったまま身を低く沈めて全力で跳び上がる。

 私が選んだのは、自らが導き出した選択肢のどちらでもない。

 ともすれば、ただ危険性(リスク)だけを受け入れて時間を稼ぐ最悪の手段かもしれない。

 それでも。


待っているぞ(・・・・・・)フリーディア」


 作戦の成否を左右するような危険な賭けに出る前に、共にこの町を護ると誓った者として、一度ぐらいはあの能天気な女の事を信じてやろう。

 テミスは屋根の上へと着地すると同時に、不敵な笑みを浮かべてそう呟いたのだった。

 本日の投稿で本作、セイギの味方の狂騒曲は初投稿から丸二年となります。


 二年もの間、毎日投稿を続ける事ができたのは、本作を見付けていただいた皆様、そして本作を読んでいただいた皆様、そしてそんな皆様に応援していただけたお陰です。ありがとうございます。


 明日からは気持ちも新たに、三周年に向けて毎日投稿を続けていきたいと思いますので、応援の程是非よろしくお願いいたします!


 2021/07/15 棗雪

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