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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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707話 張り込みの朝

 翌朝。

 ファントの町の門は日の出と共に開かれ、日の入りと共に固く閉ざされる。

 門が閉ざされたあとは、町に住居を構えるものか滞在許可証を持つ者だけが通用門から出入りを許されている。

 今日も今日とて、重厚な音と共に門が開くと、外には既にファントの町を訪れた人々が、行列となってその瞬間を待っていた。


「ようこそファントの町へ。一人づつ手続きをしていくから、順番に進んできてくれ」


 開門と同時に腰を上げ、町へと入ろうとする人々の前にバニサスが立ち塞がってそう宣言すると、幾名もの衛兵がそれに倣う。

 一瞬。開門を待機していた者達の間にざわめきが走るが、一人、また一人と指示に従うと、誰もがそれに倣って自らの順番を待っていた。


「っ……。驚いたな……」

「当り前でしょうッ! 何を考えているのよッ!!」


 その傍ら。

 今日は防壁の中に埋める形で設えられた部屋の中で、バニサス達の毎朝の仕事を見守る三つの影があった。

 その内の一人。

 いつもより髪の所々を跳ねさせたテミスが、背中の大剣に手をかけ、それに縋り付くようにして、共に様子を見守っていたフリーディアとマリアンヌが、必死の形相で押し留めている。


「町を訪れた人たちにいきなり斬りかかろうとするなんて、何を考えてるのよ貴女はッ!!」

「そ……そうですよっ!! 私たちの目的は怪しい人物の捕獲……ですよね!?」

「いや……うむ……。すまん。バニサス達では、あの人数の暴動は鎮圧できんと思っただけだ」


 町への入場が開始される傍らで、テミスは鯉口を切った大剣を鞘へ戻すと、自らの身体に縋りつく二人から身体を離しながら声を潜めて言葉を返した。

 訪れた人々の様子を見るに、町に入るだけでこうも手続きを踏んでいる町は多くは無いのだろう。

 そういった環境下では、得てして自らの不満をぶちまける、幼い子供のような浅ましい奴が居るものだが……。


「……流石に馬鹿にしすぎじゃない? そりゃ確かに、自分の思い通りにならないとすぐに武器を手に取ったり、暴力に訴える連中は居るわ。けれど、ヒトは獣じゃないのよ? 誰もが皆、そんな考えを持っている訳ないじゃない」

「その通りです! 私たちもこうして並びましたが、誰一人としてそんな人はいませんでしたよ!」

「わかったよ。悪かった。こう見えて神経をすり減らしているんだ。現に、こうして飛び出さなかったのだから勘弁してくれ……」


 テミスの動きに従って、フリーディアとマリアンヌは素直にその身体を解放したものの、小声で繰り出される非難が追撃とばかりにテミスに突き刺さる。

 しかし、この場にそれを留める者は居らず、テミスは表情を歪めて視線を外へと向けながら、力無い口調で謝罪を口にした。


「っ……。はぁ……ま、気持ちはわからないでもないけれどね……。それで……様子はどうかしら?」

「……今のところ、特に変わった動きは無いな」

「まだ朝も早いですから……それに、別の門の可能性も……」

「いや……」


 次々と通り抜けていく人々に視線を送りながら、テミス達はぼそぼそと言葉を交わす。

 マリアンヌの言う通り、張り込みを始めてすぐに容疑者が見付かる訳も無いのだが、テミス個人の予測としては、怪し気な連中が出入りに使っているのは、このイゼルに面した人間領側の門だと考えていた。


「そう言われると、あちら側(・・・・)も心配だわ……。問題が起こらなければ良いのだけれど……」

「お前は、黒銀騎団(私たち)を何だと思っているのだ……。お前がそう喧しく言うものだから、サキュドにはカルヴァスを付けただろう」

「それでも、今の貴女を見ちゃうと……ねぇ……」

「あ……はは……」

「クッ……むぅ……」


 言葉は濁したものの、フリーディアから返された言葉に、たった今抜剣しかけたテミスとしては為す術もなく、ただ歯を噛みしめて唸り声を漏らす事しか出来なかった。

 そんな私に向けて、苦笑いと共に生暖かい目線を向けるマリアンヌには、いくらか言ってやりたい事もあったが、ここでそれを口にした所で、二人からの反撃が苛烈になるだけだと理解しているテミスは、苛立ちを呑み下して思考を働かせる。

 私が、わざわざ同じ部隊であるサキュド分かれてまで、フリーディアと共に来たのには訳があった。


「…………」

「……?」

「っ……! ハァ……」


 その訳とは、まさに今目の前で小首を傾げているマリアンヌなのだが。

 仮にマリアンヌが何かを企んでいたとしても、彼女を信じるなどと抜かすフリーディアは兎も角、私自身が監視しているこの状況下で、良からぬ動きを見逃す事は無いはずだ。

 しかし、共に身を潜めるマリアンヌにさえも疑いの目を向けるテミスの視線を、同じ空間に居るフリーディアが見逃す筈もなく。

 フリーディアはどこか呆れたように、秘かに一つため息を漏らしたのだった。

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