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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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704話 敵の影は見えずとも


「……マグヌス。そちらはどうだった?」

「っ……。ハッ……」


 執務室の最奥。

 駐留する部隊の指揮官である者が座るべき机では、まるで軟体生物であるかのように、机の上にべしゃりと突っ伏したまま言葉を紡ぐテミスの姿があった。

 それに対し、マグヌスは一瞬だけ閉口するも、自らが入室するのと時を同じくして、頬を朱に染めて執務室へと入って来たサキュドを見て事態を察すると、僅かに頭を下げて一礼をしてから報告を始める。


「テミス様のご推察の通り、冒険者ギルドは平時と変わらぬ動きでした。……あくまでも、ファントが融和都市の名を掲げてからのものを平時と置いて……ですが」

「そうか……」

「それに加えて、依頼の方も見慣れぬものが幾つか。内容は害獣の討伐であったり薬草や鉱物の収集であったりと多岐に渡るのですが、いずれも依頼人はこの町の者ではないそうです」

「ハァ……面倒だな……。ホレ」


 脱力した体を机の上に投げ出したまま、テミスはマグヌスの報告を聞き終えると、今度は自らの番だと言わんばかりに、つい先ほど完成したばかりの紙束をマグヌスへと放り投げた。

 紐で結わえられただけのその紙束は非常に分厚く、マグヌスは驚きに一瞬だけ目を見開いた後、両腕でそれを受け止めてその中身に目を通す。


「っ……!!! これは……!!!」

「間違い無く。『敵』だろうな。だが厄介な事に、下らん企みを企てているのがどこのどいつか……一向にその姿と目的が見えてこない」

「敵――!?」


 テミスから投げ渡された書類に目を通したマグヌスが驚きの声を漏らすと、テミスは机の上で顔だけを持ち上げてそれに受け答える。

 その傍らで、()という言葉に耳ざとく反応したサキュドが、鋭く目を光らせてマグヌスに飛び掛かると、その大きな背をよじ登って肩越しに書類を読み始めた。


「現在、連中が仕掛けているのは不安の先導。ありもしない戦争を予見させ、破格の値段で武器を売り付けて平和を疑わせる。その工作を行っているらしき人物が複数確認されている事から、敵は何らかの組織だと思われる」

「……ですが先日の一件から、その組織は女神教では無いのですよね? ならば何処の者が……」

「馬鹿ね! タラウードの奴の事を忘れたの? 組織ったって全員が全員同じ動きをするとは限らないわ! ……ホラ! 次ッ!!」


 考え込むように首を傾げて疑問を口にしたマグヌスに、サキュドはテミスが口を開く前に苛立ちを交えて答えを返すと、足で背中をつついて書類を捲らせる。

 その、ある意味では微笑ましい姿を視界の隅で眺めながら、テミスは疲れ果てた脳に鞭を打って思考を続けた。


「…………」


 そう。先日の一件は、あくまでもマリアンヌ自身に対する嫌疑が薄まったに過ぎない。

 故に、マーサの宿屋にはいまだに護衛が張り付いているし、マリアンヌ達の監視体制も解いてはいない。

 だが事実として、今のマリアンヌ自身がこの町に直接損害を与える事を望むとは思い難いし、彼女の思想は魔族必滅を是とする女神教の中では異端だと言えるだろう。


「ならば敵はロンヴァルディアか……? いや……それにしては羽振りが良すぎる。そう思わせるように偽装した魔王軍か? ならば誰だ……?」

「だぁぁっ!! 捲るのが早いわよ! まだ読んでないッ!!」

「アンドレアル……? いや、噂を聞きつけた他の戦線の奴が放った刺客か……?」

「だったら後から自分で見れば良いだろうッ!! わざわざ人の背中によじ登ってまで覗き込んでおいて文句を言うなッ!」

「何よ! 同時に確認した方が手っ取り早いじゃない! ああもう! 腕邪魔ッ!!」


 しかし、考えれば考えるほど思考は停滞し、容疑者の影すら見出す事はできない。

 次第に、テミスの意識は思考からゆっくりと離れていき、視線の先でドタバタと騒がしく言い合いをしながら、テミスの書き上げた書類を読み込む副官達へと向けられていく。


「いい加減にしないか! ひとまず私の肩から降りろッ!! 見たいのならば見せてやるから……」

「なっ……! ふざけるんじゃないわよ! マグヌス、まさかアンタ、私にアンタの腕の中に入れって言うんじゃないでしょうね!?」

「何が問題なのだ? 私は少々見辛いかもしれないが、それが一番手取り早い解決策だろう」

「うるさいわね!! それ以上言うのなら吹き飛ばすわよ!? 私を子ども扱いするなって言ってるでしょ!!」

「フッ……」


 本来ならば、上官として二人を諫めるべきなのだろうが……。どんどんと瞼が重くなっていくテミスの目には、そんな彼等の姿が、父と娘……あるいは仲の良い兄妹(きょうだい)のように見えて。


「疑心は身を亡ぼす……か……。クク……少しだけ……休むか……」


 ゴトリ。と。

 テミスは辛うじて持ち上げていた頭を再び机に預けると、抗いがたい誘惑に屈し、急速に微睡んでいく意識を手放したのだった。

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