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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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701話 姿無き不安

「……その男が来たのはついこの間の事でした」


 アリーシャが飲み物を持ってくるまでの少しの間、テミスとサルマンは会話一つ無い気まずい時間を過ごしていた。

 その後、何故か自分の分の飲み物まで用意してきたアリーシャが席に着くと、サルマンは差し出されたワインの入ったジョッキを抱えて、ゆっくりと語り始める。


「最初は、他愛もない世間話だったんです。どこそこで何があった……とか、どこぞの領主がどんなものを欲しがっているらしい……とか。流しの行商人だと名乗る通り、ありきたりな話ばかりでした」

「フム……?」

「へぇ……サルマンさんの所でもそうなんだ? ウチはあんまり取り扱わないけれど、母さんが行商人の人たちとやり取りをする時は、よくそういったお話をしているよ」


 サルマンの言葉に、首を傾げたテミスが僅かにアリーシャへ視線を送ると、アリーシャは即座にサルマンの話にコクリと頷いて同調した。

 このアイコンタクトは以前、テミスが未だこの店での仕事に手間取っていた頃に培われたもので、今ではテミスが店の仕事を手伝う時、互いに意思疎通をする手段として使っている。

 尤も、アリーシャはこれまで培ってきた経験と技量でそれ行っているのに対し、テミスはその身に備えた超人的な感覚と、戦場を潜り抜ける事で鍛えられた直感を利用しているに過ぎないのだが。


「なるほど。情報が信用代わりという訳か」

「えぇ……それに普通の仕入れと違って、行商人は珍しいものや掘り出し物を持って来るもんでして」

「……その剣みたいにか?」

「あっ……はい、まぁ……」

「拝見しても?」

「ど、どうぞっ!!」


 コクリと頷いて納得を示すテミスに、サルマンは安堵の表情を見せながら言葉を続ける。

 しかし、表情を一転。ニヤリと不敵な笑みを浮かべたテミスが、傍らに立てかけられた一振りの剣を見て問いかけると、サルマンは再び顔を青くしてテミスの前に剣を差し出した。


「ホォ……確かに良い剣だ。いや……悪くない(・・・・)というべきか」


 キン……。と。

 軽い音と共に剣を鞘から抜いて検めると、テミスは素直な感想を述べる。

 抜き放った刀身には曇り一つ無く磨き上げられており、刃も零れている箇所や修繕の後は見られず、その剣が紛れも無い新品であると物語っていた。

 だが、いうなればそれだけ。

 この町の職人にかかればもっと材質が良く、切れ味も鋭い良質な剣を作る事ができるだろう。


「で……でしょう? こいつでたった閃貨一枚だって言うんだから、ソイツが言うには戦いが近いかもしれないらしいし、すぐにその場で買いましたさ! も、勿論! 今考えれば、ただの売り込み台詞だったワケなんですが!」

「っ……」


 慌てたように言葉を重ねるサルマンの前で、テミスはその話を聞き流しながら、剣に視線を注いだまま目を細めていた。

 品質は並か少し良い程度だと言っても、閃貨一枚というのは新品の剣にしてはあり得ない程に破格の値段だ。

 仮に、この剣と同じ品を用意しようとしたら少なくとも蒼貨三枚……閃貨にして十二枚程度は必要になるだろう。


「ホラ! 俺のようなしがない商人じゃ使う機会もほとんどねぇですし、普通だったらわざわざ高い剣なんか買わない訳ですが……イザ戦いになったなら、剣の一本でも持ってりゃあないより安心かなぁって思いましてね? そりゃ、俺なんかの腕じゃ戦える訳がないですが、びっくりするぐらい安かったもんで、もしもの為のお守り代わりって訳でして」

「まぁ、それだけ安ければ、要らなくなったら売っちゃえばいいしねぇ……」

「そう! さっすがアリーシャちゃん! 商人としてもコイツを逃すヤツぁ居ませんよ!」


 突如として黙り込んだテミスに代わり、柔らかな微笑みと共にアリーシャが、言い訳の如く次々と口上を述べ始めたサルマン言葉を返す。

 すると、サルマンは全力で大きく頷いた後、その身に走る緊張を誤魔化すかの如く、抱きかかえるように手元に寄せていたワイン入りのジョッキを呷った。


「……そうだな。商人でなくとも飛びつくような話だ」


 暫くの沈黙の後。テミスは言葉と共にサルマンに頷くと、剣を鞘に納めて差し出した。

 しかし、サルマンはただ唇を振るわせて黙り込むばかりで、彼の自慢であろう剣には一切手を伸ばさなかった。


「ン……どうした? これはお前の物だろう?」

「いえ……その、何と言うか……。急に恐ろしく思えてきちまいまして……」

「恐ろしいだと?」

「っ……!!! 無礼を承知でお聞きしますッ!! 本当に……本当に戦争は無いんですよね!!? なら俺は……俺はァ……ッ!!」


 小首を傾げたテミスが問いかけた瞬間。

 突如として立ち上がったサルマンは深々とテミスに頭を下げると、二人が制止する間も無く、店中に響き渡るような大声で問いかけたのだった。

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