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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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694話 一つの真実

「単刀直入に……結果から伝えよう」

「っ……!」


 夜。

 自らの執務室にマリアンヌを呼び寄せたテミスは、僅かに肩を緊張させるフリーディアを伴って、彼女からの提案に対する答えを口にする。

 無論。陽が沈むまでテミスとフリーディアが議論を交わしたのは、集会所の設立の是非ではなく、マリアンヌ達女神教に対する嫌疑についてだったのだが……。

 そんな事を知る由もないマリアンヌは、まるで祈るように胸の前で両手を握り締め、固唾を呑んでテミスの言葉を待っていた。


「っ……。集会所の設立を許可する事はできない」

「なっ……!! っ……そう……ですか……」


 まるで、無垢な子供のように素直なマリアンヌの態度に、テミスは少しだけ良心が痛むのを感じながら、それを押し殺すように平坦な声で決定を告げる。

 すると、テミス達の予想に反し、マリアンヌは一瞬だけ肩を跳ねさせ、ショックを受けたような素振りは見せたものの、ただ悲し気にその瞳を伏せただけで黙り込んだ。


「…………」

「…………」

「っ……こんなに、遅くまで……。検討していただいてありがとうございます」


 それからしばらくの間、テミスは真正面から厳かに、フリーディアは伏し目がちに、マリアンヌの様子を窺っていると、彼女はテミス達に向けて深々と頭を下げてゆっくりと口を開いた。


「テミスさん達が女神教に……私達にどのような印象を抱いているのか……。理解しているつもりでした」

「それならば何故……無理を押してまでこの町に留まろうとする? お前達を受け入れてくれる地など、ロンヴァルディアだけでなくとも、人間領にはいくらでもあるだろう?」

「っ……!」

「はい……」


 どこか悲し気に紡がれ始めたマリアンヌの言葉にテミスが言葉を返すと、傍らのフリーディアがピクリと眉を震わせる。

 フリーディアが人魔を分かつ人間領・魔王領と言う言葉を嫌っているのは重々承知だが、魔族を排することを是とする女神教が魔王領内で受け入れられるはずも無く、かといってエルトニアのレオン達やアーサー達の事例をみるに、恐らく女神教はロンヴァルディア内部にとどまっているものでは無いだろう。


「正直に申し上げるのでしたら、このファントよりも私達を温かく……好意的に受け入れて下さるところは沢山あります。ですが、この町は私の……いいえ、私たちの憧れなのです」

「フン……憧れときたか。神敵に憧憬を向けて、神罰の雷でも落ちて来ねばいいがな」

「……テミス!」


 殊勝な態度で言葉を紡ぐマリアンヌに、嘲笑を浮かべたテミスがそう答えると、傍らで様子を見守っていたフリーディアが見かねたように口を挟んだ。

 もともと、フリーディアは博愛主義者だ。だからこそ、どうしてもこういった相手には隙を見せてしまう。

 だからこそ、私がしっかりとしなければ……。

 冷静沈着な表情の裏で、そうテミスが心を奮い立たせた時だった。


「ラーメンにお寿司。テンプラにハンバーグ……どれも使徒様からのお話しいただき、その未知の美味を夢見た、素晴らしい料理の数々でした」

「っ……!」


 マリアンヌが紡いだ言葉に、テミスは自らの背筋が一瞬にして粟立つのを感じる。

 迂闊だった。

 いくら頭を捻っても見つからないはずだ。何故なら、マリアンヌ達は既に、目的(・・)を終えていたのだから。

 イヅルの店だけではない。町を護る防壁の上に設えた重機関銃付きのトーチカに、完全週休二日制を組み込んだシフト制の警備体制。ある程度の知識を踏まえてみれば、この町の異常さ(・・・)などすぐにわかる。 

 一度は確かに検討したはずだ。マリアンヌ達の狙いが、この町の中に留まる事であるならば……? と。

 だが私は、最終的に監視を付けるのならば問題無いと、フリーディアの案に乗ったのだ。

 その選択が、町の中に伏兵を留まらせる可能性がある事を廃してッッ!!


「マリアンヌッッ!! お前は――」

「――穴があった(・・・・・)ら入りたい(・・・・・)。テミスさんは先日、私たちとの会話の中でこう仰っていました」

「……っ!!!!」


 この町を探るための、密偵を兼ねた伏兵か?

 半ば確信めいた直感を問おうと声をあげたテミスの声を制して、静かに……しかし力強く紡がれたマリアンヌの言葉が執務室の中に響き渡る。


「以前……同じ言葉を使徒様からお聞きした事があります。その意味が分からず問う私に、使徒様は教えてくださいました。曰く、穴があったのなら、そこに入って身を隠したいくらいに恥ずかしい事だ……と」

「ハッ……それがどうした? そんなもの、以前どこぞで聞いた喩えだったやもしれん」

「お答えください。いえ……どうか無知な私にお教え下さい。使徒(・・)テミス様。何故貴女様は他の使徒様と反目し、女神様のご意思に反旗を翻してまで争われるのですか?」

「……ッ!!!」


 マリアンヌが、言葉と共にテミスの前に跪き、祈るように首を垂れて問いかけると、重苦しい静寂に包まれた執務室に居合わせた全員の視線が、テミスへと集中したのだった。

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