表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

717/2313

693話 不可解が故の恐怖

 突如姿を現したフリーディアが運んできたのは、怒り心頭のテミスでさえも、思わず呆れ返ってしまう程の知らせだった。


「町に集会場を作りたい……?」

「えぇ……。マリアンヌ曰く、町の人々の御用聞きや女神……様の素晴らしさを説く場所が欲しい……との事よ」

「ハッ……馬鹿馬鹿しい。そんな要求が通るとでも思っているのか……」


 恐らくは、フリーディアとてテミスと同じ心境なのだろう。

 現時点で、女神教の狙いは判明していない。

 それどころか、町の住人達との間に亀裂が生じているというのに、そんな施設を置く事を許可すれば暴動が起きかねない。


「えっと……怒らないで聞いて欲しいんだけど……」

「約束は出来かねる……だが、今ならば大概の事であればため息と共に流れていきそうだ」

「フフ……なら、今が好機かしら?」


 そう答えながら、テミスが崩れるように椅子の背もたれへ身を預けると、いつの間に用意をしていたのか、傍らから進み出たマグヌスが、テミスとフリーディアの前に香ばしい香りと共に湯気をあげるティーカップを差し出した。


「ありがとう、マグヌス。彼女……マリアンヌの言い分では、この数日で女神教にかけられた嫌疑は晴れたのでは? と主張しているわね。だからこそ、集会所はその見返り……。女神教を受け入れ、これからの世を共に歩みましょう……と、言いたいのだと思うわ」

「っ…………」

「……テミス?」


 ため息まじりにそう告げたフリーディアが、人息を吐いて差し出されたカップに口を付けるが、テミスからの返答は一切無く、ただ目を丸くして硬直していた。


「っ……!! あぁ……いや……すまん。一瞬、私の耳か頭がおかしくなったのかと思ってな……」


 人というのはどうやら、到底理解出来そうもない事柄に直面した時、一切の思考が停止するらしい。そんな事を提唱していたのは何処の誰だったか……。

 フリーディアの報告を受け取り、その突拍子もない内容に呆気に取られていたテミスはすぐに我を取り戻すと、フリーディアに倣ってティーカップを持ち上げながら、どうでも良い事へと思考を逃避させる。

 この報告が事実なのであれば、あのマリアンヌという女の思考回路は、信仰に脳を破壊された異常者として扱う必要があるだろう。

 よもや、マリアンヌと我々が交わす言葉の間には、致命的なまでの食い違いがあり、意思の疎通ができていないのではないかと思ってしまう程だ。


「本当……貴女に直談判されなくて良かったわ……。あんなでも女神教の聖司祭。切り捨てでもしたら大事だわ」

「ククッ……。私としては、最早その方が手っ取り早い気もしているがな」

「テミスッ!」

「冗談……冗談だよ……。半分はな」


 テミスは深くため息を吐くフリーディアを揶揄って調子を取り戻すと、再び正視するに堪えない現実へと思考を向ける。


「……現状の材料で、マリアンヌ達を判断するのならば選択肢は三つだろうな」

「三つ……? 聞いてもいいかしら?」

「あぁ。まず一つは、マリアンヌという女が救いようのない大馬鹿だった場合」


 フリーディアに促され、テミスは指を一本立ててみせると、眉根に深い皺を寄せて自らの思考を語り始めた。


「吐く言葉全てが真実で、本気で自分達がこの町の役に立っており、女神教が素晴らしいものだと思っている……この場合はもうどうしようも無い。切って捨てるなり町から追い出すなりするしか無いだろう」

「まさか……」

「次に……マリアンヌ達が女神教の狂信者だった場合だ。私としてはこの説だと思うのだが、なりふり構う事無くこの町に何かを仕掛けようとしている……。ならばそれを見極め、叩かねばならん」


 苦笑いを浮かべたフリーディアの言葉を遮って、テミスは二本目の指を立てて一気に語った。そして、間髪入れずに三本目の指を立てると、少しの逡巡を見せてから口を開いた。


「…………最後。三つ目。私達が何かを見落としている……。マリアンヌ達の目的が我等の想像を超えており、それが故の食い違いが発生している場合だ」


 テミスが述べた最後の可能性は最早蛇足……本来ならば、絞った可能性の一つに加えるほどでもない些末な物だった。

 むしろ、そんな可能性まで思案していては、いくら時間があっても足りないだろう。


「テミス……珍しいわね。あなたがそんな……」

「皆まで言うな。私とて分かっている。だが……」


 クスリと微笑んで肩を竦めるフリーディアに、テミスはピシャリと言葉を投げつけると、前髪を掴み上げて苦悩した。

 個人的な感情を含めるのならば、マリアンヌ達は確実にこの町の害となる存在だといえるろう。

 だが、事実として彼女たちはこの町に危害を加えてはいないのだ。

 方々から苦情が噴出しているとはいえ、その内容はあくまでも善意の押し売りのようなもの。マリアンヌ達に悪意があると断定する程ではない。


「ハッ……ここまで狙いが不可解だと、最早、こうして我等を思案させるのが狙いにも思えてくるな」

「結局……本人を問い質すのしか無いのかしら……」


 熟考の末、捨て鉢に呟かれたテミスの言葉を聞いて、フリーディアは深く沈んだ声でそう呟いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ