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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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692話 不穏な善意

「それで……実際の被害は?」


 マグヌスが、さながら戦場が如き緊張感から解き放たれたのは十数分後の事だった。

 大きく、そして長く息を吐いたテミスが剣を収め、散らかった書類を拾い集めながら、静かな声で問いかけた。


「は……はい……。物資や町の設備の破損などはありませんが、各方々からの苦情が殺到しております」

「苦情……ね……。いっその事、騎士団連中なぞ付けるべきではなかったか?」


 未だ僅かに震える声で答えるマグヌスに言葉を返しながら、テミスはかき集めた書類を机の上に投げ出すと、自らの席へと腰を落ち着ける。

 連中の苦情が詰所(こちら)に届くという事は、マリアンヌ達が町で面倒事を起こしているのは間違いない。

 だが、迷惑行為や他者を害する行動をしたならば、町の住人たちは自警団や見回りの兵達に即刻助けを求めるはずだ。

 しかし、それをしないという事は、何かしらの理由があるとみて間違い無いだろう。

 例えば、既にお目付け役(・・・・・)の騎士が傍らに居る所為で、助けを求めても意味が無い、とか。


「こちらの猜疑心を逆手に取られたか……? いや、そもそもこの案はフリーディアが出したもの……だが、奴の甘さすらも計算づくなのだとしたら……」

「いえ……テミス様。それは無いかと」

「どういう事だ?」

「ハッ……。一部ですが、我等の元へ届いた苦情の内容を読み上げます」


 深刻な表情で思考を始めるテミスの前に、マグヌスはゆっくりと歩み出て進言すると、テミスの投げだした書類を拾い上げ、背筋を伸ばして語り始めた。


「こちらは自警団から……手助けをしたいという意志はありがたいが、警備は既に人員が配置されている。かといって、騎士団の方が同伴していると言えも、全くの素人に任せる訳にはいかない……と」

「当然だな……見た所、自警団からの物は一通や二通では無さそうだが?」

「ハッ……どうやら、何度説得しようと諦める事無く、連日押しかけている様で……」

「ハァ……馬鹿共が……」


 テミスの問いかけに、マグヌスは眉根を潜めて渋い表情を見せると、取り上げた書類を束で示して言葉を付け加えた。

 そのそも、連中は自分達の立場を理解しているのだろうか?

 フリーディアの案でファントからの追放は免れているものの、我々が女神教を危険視しているという事実に変わりは無い。

 本来ならば、連中は縛り上げて牢に叩き込まれても文句は言えない立場なのだ。

 だというのに、実質的な被害が出ていないとはいえ、こうも好きに勝手に動き回られては話にならない。


「っ……続けます。このファントに住む一般の人々からも多数の苦情が。曰く、突然店に現れて手伝いを申し出たり、意図せぬやり方での助力をしたり……あとは、口々に女神教を名乗り布教をしていると……。あげられた報告の最後にはどれも、善意なのだろうが、迷惑だから辞めて欲しいと添えられております」

「フン……果たして善意なのか……。騎士団連中の報告との差異は? これまでに不穏な動きを見せた奴は居ないのか?」

「ハッ。自警団やこの町に出入りのする商人まで、ほとんど合致しております。別段、この町に何かを仕掛けるなどといった不審行為は行っていないと」

「フム……」


 テミスの質問に答え終わると、どうやら報告の内容は以上らしく、マグヌスは手に取った書類をテミスの机の上へと戻して姿勢を正した。

 その様子を視界に捉えながら、テミスは小さな息を一つ吐いて眉を顰めて言葉を零す。


「不気味だな……。連中の目的は何だ……?」


 白翼騎士団を付けてから数日。マリアンヌ達の行動からは、全く意図を汲み取る事ができなかった。

 良きにしろ悪しきにしろ、数日監視を付ければ、その目的の片鱗を見る事はくらいはできる。

 だというのに、マリアンヌ達は町に悪さをする様子も無ければ、外部と手引きをする様子も無い。しかしその反面、町の人々に煙たがられてはいるものの、手伝いを申し出たりしているのみで、大々的に信者を募るような布教活動も行っていない。

 つまるところ、マリアンヌ達がこの町を訪れた理由(・・)が分からないのだ。


「よもや信者を引き連れて、物見遊山という訳でもあるまい……」

「……同感であります。物見遊山にしては、行動が不可解です」

「ならば狙いは何だ? この町に留まって何を企んでいる……?」

「ム……ムゥゥ……」


 テミスが、自らの独り言に同意したマグヌスと共に唸り声をあげ、頭を捻っている時だった。


「テミス。落ち着いた? 私よ。リックから話は聞いたわ。様子見を兼ての報告。悪いけど、お邪魔するわよ?」


 少し疲れがにじんだ声色と共に執務室のドアを軽く叩く音が響き、返答を待つ事なく、小脇に書類を抱えたフリーディアが執務室へと姿を現したのだった。

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