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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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689話 夕闇の客人

「ハァ……全く、必要無いだろう。いちいち出迎えなど……」

「文句を言わないの! そう言っていざ彼女たちが来た時に人が居なかったら、困るのは貴女なのよ?」


 夕刻。

 激動の一日が終わりを告げ、橙色に染まった夕陽が柔らかに町を照らし出した頃。

 テミスはフリーディアに手を引かれ、マリアンヌ達を出迎えるために詰所の入り口まで出向いていた。

 そもそも、町を出て行っているのならば、マリアンヌ達がこんな時間にまだこの町に居残っている訳が無いし、かといってマリアンヌ以外に、あの条件を受け入れる奴が居るとは到底思えなかった。

 つまり、この夕日を浴びながら某立ちしているこの時間は、冒涜的なまでの時間の浪費であり、究極の無為無策だとテミスは感じていた。


「結局、昼飯も食いそびれたしな……」


 ボソリ。と。

 穏やかな時間が流れる中で、テミスは頭上に広がる綺麗な夕焼けを眺めながら言葉を零した。

 マリアンヌと一連の会話を交わした後、密かに胸を高鳴らせながら店内へと向かったテミスだったが、そこで目にしたのは顔を青くして厨房の中を動き回るユズル達の姿だった。

 どうやら、外で立ち尽くしていた連中も注文(オーダー)は既に終わっていたらしく、叩き起こされたであろうラビィまでもが、店の中を縦横無尽に駆け回っていた。


「あの分では、数日の間は休業かもしれんな」


 なにせ、噂が立つほどの大人気とはいえ、ユヅルを筆頭に一店舗のみの小規模な形態で回していた店だ。

 いくら多めに材料を用意していたとしても、あれだけの人数へ一度に振舞ってしまえば、材料が枯渇しても不思議ではない。


「明日か明後日か……ギルドでも覗いてみるか……」


 そう呟きながら、テミスは宿屋の自らの部屋に放置していた冒険者証へと意識を巡らせた。

 もしかすると、今日の一件で材料がユヅルが急ぎの依頼を出しているかもしれない。

 ならば、アトリアの世話になって作り、ルードの世話によって昇格した私の冒険者としての力が、巡り巡ってこの町の力となる。

 これも一種の、恩返しなのかもしれないな……。

 そんな取り留めも無い事を考えて、テミスが時間を潰しているうちに辺りは薄暗くなり、夜の帳が落ち始めた時だった。


「ハァ……もう気は済んだか? だから言ったではないか。来るわけが――」

「――っ!! 見て、テミス」


 退屈を紛らわし切れなくなったテミスが声をあげると同時に、ピクリと肩を震わせたフリーディアが言葉と共に前方を指差した。

 そこでは、大きな鞄を携えた数人の人影が、慌てたようにこちらへ向けて駆けてくる所だった。


「……ね? 待ってて良かったでしょう?」

「あ~……確かにそうだが……面倒な事になりそうだな……」


 にっこりと笑みを浮かべてそう告げるフリーディアに、テミスは深いため息を吐きながら言葉を返した。

 こちらへ向かって来る人影は数人。

 一人でないという事はつまり、フリーディアの振るいを越えて不思議では無かったマリアンヌ以外にも、容疑者(・・・)が紛れているという訳で。


「……フリーディア。連中には腕利きを付けろよ。こちらからも数人、連中の監視に人手を回す」

「あら……どういう風の吹き回しかしら?」

「抜かせ。あんな危険物共をお前達だけに任せて置けるものか。ほんの僅かなミスで、この町ごと吹き飛びかねん」

「クス……。確かに。マリアンヌだけじゃないのは私も意外だったわ」

「ホゥ……? どうやら今回は、いつものお人好しだけではないらしい」


 二人は静かに言葉を交わしながら、足早に近付いてくる人影に剣呑な視線を向けた。

 フリーディアとて、以前テミスと共にサージルという狂信者と戦った者だ。その強さや異常性は鮮烈に記憶に焼き付いている。故に、マリアンヌを門前払いするべきではないと反論するだけでなく、代替案を提案したのだ。


「……これまで通りで行く。鞭が私、飴がお前だ」

「わかったわ。なら、宿にも騎士団員(ウチ)から何人か派遣しておくわ」

「っ……!! 助かる」


 息を切らすマリアンヌ達の吐息が聞こえ始めると、テミストフリーディアは短く言葉を交わし、彼女たちを迎えるべく肩を並べて歩き出した。

 そして……。


「ハァッ……ハッ……!! ごめんなさいッ!! おそ……遅くなってしまってッ……!!」

「良いのよ。まだ少し、日暮れまでには時間があるから……。少し休んでから、宿舎に案内するわね」

「フン……約束した時間すらマトモに守れんらしい。ま、女神などという下らん幻想に縋っているのだから仕方ないか。私の配下であれば懲罰モノだぞ?」


 肩で息をしながら辿り着いたマリアンヌ達を、フリーディアは優し気な笑みを浮かべて、テミスは皮肉気な笑みに嫌味を乗せて出迎えたのだった。

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