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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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681話 悪意の胎動

 一方その頃。エルトニア南方。名も無き遺跡群。

 そこにひっそりと佇んでいるのは、瓦礫の山と化した廃墟群だった。

 周囲に散らばる残骸から、辛うじて当時の面影を窺い知る事はできるが、まるで激しい戦火に呑まれたかのように激しく傷ついた遺跡は、静寂の中で眠りについていた。

 その片隅。

 まるで隠されているかの如く、その小部屋は瓦礫の山に埋もれていた。


「――。…………。――」


 小部屋の中央には傷一つ無い石柱が聳え立っており、その表面には柔らかな笑みを浮かべた多くの男女が、慈愛に満ちた視線を中空へと注いでいる。

 更に、小部屋の傍らには、酷く古びた一枚の扉があり、この小部屋の奥にはまだ、遺跡の内部へと続いているであろう道が存在するのが見て取れた。

 そんな部屋の中。荘厳と聳え立つ石柱の前で、一人の男が顔を伏せ、一心不乱に祈りを捧げていた。


「我等が創造主たる天上の神々よ。我等女神の尖兵の忠誠は祈りと共に……この命を救いあげて下さったあなた方のものです」


 ブツブツと呟くように紡がれるその祈りを聞く者が居れば、最早この男が正気でない事など一目瞭然であっただろう。

 何故なら、男の頬はこけ、身に纏っているのはボロボロに壊れた甲冑の残骸だけ。しかも、至る所が焼け焦げており、男が僅かに身を動かすたびにボロボロと崩れている始末だ。

 しかし、この場に男の祈りを妨げる者は居らず、男はただひたすらに祈りの言葉を連ねていく。


「私は偉大なる御身の(しもべ)であり、手であり、足です。遥かなる高みに負わす御身が意思を、この汚れた地上に示す奴隷です……」

「サージル様……こちらにいらっしゃったのですね」

「…………」


 キィ……と。

 小部屋に存在する唯一のドアが軋みを上げて開くと、戸口から一人の女が顔を出し、静かに声をかける。

 女の身なりも、薄汚れた粗末なボロ布を纏っているだけで、それはまともに服と呼べるものでは無い。

 だが、女の呼びかけに応ずる事なく、サージルと呼ばれた男はひたすらに祈りを捧げ続けていた。


「っ……」


 しかし、女は自らの存在を黙殺されたというのにも関わらず、陽に焼けた頬を僅かに紅潮させ、熱心な視線をサージルへと注いでいた。

 静謐な空間に、サージルの唱える祈りの言葉と、女の静かな息遣いだけが響く時間がしばらく続いた後。

 ガシャリ……。と音を立てて、祈りを終えたサージルが静かに立ち上がる。


「……カレン。また来ていたのか」

「申し訳ありません……。ですが、サージル様。お食事の準備が整いましたので……」

「もう……そんな時間か……。わかった」


 祈りを終えたサージルは会話を交わすと、柔らかな笑みを浮かべて頷いた後、石柱へ向けて深々と頭を下げてから小部屋を出る。

 カレンと呼ばれた女もその後に続き、小部屋には再び穏やかな静寂が訪れた。


「あの……サージル様……」

「なんだい?」

「あちらのお部屋は……その……」

「あぁ……。でも、これだけは譲れない」

「そう……ですか……」


 暗く湿った廊下を歩きながら、カレンとサージルは短く言葉を交わす。

 言葉を交わす……といっても、ただカレンが遠慮がちに問いを投げかけ、サージルが皆まで告げる前に即答しているだけだが。


「ならばせめて……武具をお持ちください。人の足が絶えて久しいとはいえ、最近はエルトニアの動きも活発ですし……」

「必要ないよ。僕は勇者だ。それは君達も、わかっているだろう?」

「は……はい……。差し出がましい進言……お許しください」


 自信に満ちた声で断言するサージルに、カレンはビクリと肩を竦ませて頭を下げる。

 だが、サージルは自らの側で頭を下げたカレンに一瞥も暮れる事は無く、ただ目の前に広がる闇を見据えて思考を続けていた。


 この地で目覚めてから、かなりの時間が経った。

 暗い廃墟の中で力を蓄え、今やこの能力(チカラ)は以前とは比べ物にならないほど強くなった。

 厚き信仰を携え、祈りを共にする()を揃え、その力は今も確かに、着々と増している。


今の僕(・・・)なら……憎き()に届くのかな……?」


 ニヤリ……。と。

 目を見開き、鋭く口角を吊り上げたサージルは、暗闇に向けて手を翳すと、己が胸を焦がし続ける一人の少女へ向けて問いかけたのだった。


「ねぇ……テミス?」

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