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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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679話 持つ者の矜持

「成る程。それで……僕の所へ来たという訳だ」


 サキュドと共にフリーディアの説教を受けてから数日後。

 心身ともに疲れ果てたテミスは、ファントを訪れたルギウスの元を訪ねていた。


「あぁ……正直に言うならばもう限界でな。ルギウス、私にとってお前が最後の希望だ」


 そう告げた後テミスは皮肉気に唇を歪めて、今回ばかりは我ながら、人選を誤ったと言わざるを得んな……。と付け加える。

 そんな、言葉の端々に失望が見え隠れするテミスの言葉に、ルギウスは秘かに眉を顰めた。


「教えるのは構わないが……。一つだけ、僕の所感を語っても良いだろうか?」

「……? あぁ。是非頼みたい」

「……そうか。では」


 自らの言葉に即座に頷いたテミスを見て、ルギウスは小さく息を吐きながら部屋の隅へと視線を彷徨わせる。

 これは、極めて難しい問題だ。以前、彼女から聞いた話を鵜呑みにするのならば、異世界人であるテミスとこの世界を生きる者である僕たちの間には大きな隔たりがある。

 その障害を越え、テミスは今歩み寄ろうとしているのだ。

 無論その助力を惜しむつもりは無いし、友として心底喜ばしい事だとルギウスは感じていた。

 だが……。


「君が今、持っている力を否定するのは、持たざる者(・・・・・)達への侮辱だとは思わないかい?」

「っ……!!」


 ぴしり。と。

 ルギウスが静かに口を開いた瞬間。部屋の中に流れていた穏やかな空気は、酷く重たいものへと一変する。

 それでもルギウスは、同じく力を持つ側の者として……魔族の一員としてテミスに問いかけずにはいられなかった。


「僕達『魔族』は、生まれながらにして大きな魔力をこの身に宿している。魔族の中でも比較的魔力が少ないと言われる獣人族は、それに代わる強大な身体能力を持って産まれてくる。けれど、僕達がこの力を厭う事は無い」

「…………」


 柔らかな表情ながらも、粛々と告げるルギウスの言葉を、テミスは噛み締めるように黙したまま聞き続けている。

 ルギウスが言葉を紡ぎ終えてから数分。固い沈黙だけが場を支配していたが、意を決して視線を上げたテミスによってそれは破られた。


「お前達の持つ力は誇りであり……伝統なのだろうな」

「あぁ……そうだね」


 俗に、人間達から魔族と呼称される者達が、その種族を越えて結ばれる事は少ない。

 その根底には、愛が生まれたとしても子を為せぬ事例が数多く存在する点と、各種族の根底に存在する強かな純血に対する誇りと一体感がそれを成し得ている。


「なればこそ。この力(・・・)を棄てたとしても。私は異端という事になるだろう」

「違うッ――!」

「――違わないさ」


 どこか寂し気に呟かれたテミスの言葉に、ルギウスは思わず腰を浮かせて否定した。だが次の言葉を紡ぐ前に、即座にテミスの声がそれを制した。


「お前達魔族は、生まれ持った魔力や身体能力の上に努力を重ねて力を為す。それに対して、優れた魔力も肉体も持たぬ人間は知恵と技を以て力と成した。……だが私はどうだ?」


 テミスは言葉を続けると、昏く揺れる瞳でルギウスを見据えてクスリと微笑んだ後、深いため息を吐いてから再び口を開く。


「私にはその()が無い。ただ一人で、自由気ままに力を振るうのであれば、それでも問題無いのだろう。妬みや嫉みも一興と笑い飛ばし、孤高の道だと胸を張ればいい」


 だが、私はその道を選ばなかった。

 ルギウスに語り聞かせながら、テミスは自らが有耶無耶にし続けてきた現実へと目を向ける。

 この世界に巣食う多くの転生者のように、自分の欲望の為だけに力を振るうのならば問題無い。また、ケンシンやライゼルのように、他者の為だけに己が力を振るえばヒトで在れるだろう。

 けれど……私は違う。

 自らの欲望を満たす為だけに、孤高の道を行くのかと言われれば否だし、かといって悪を滅ぼすと志した野望を棄てる事もできない。

 この世界で真に私がヒトとして生きるためには、まずはこの忌むべき能力(呪い)から脱却せねばならない。


「技を使う事ができるのに、自らが操る技を理論的に説明することすらできない。ただでさえ人の身に余る力を宿している異端な存在なのだ。操り得ぬ力はいつ暴発するとも知れん……そのような不気味なモノを受け入れたがる者などそうは居ないだろう」

「だから……今在る物を棄て去る……と?」

「……いいや。埋めるだけさ」


 唸るような低い声で訊き返すルギウスに、テミスは涼やかな笑みを浮かべると短く答える。

 そう。これはただ、知る為の努力なのだ。

 この世界にやってくるために、私が飛び越えてしまった過程を知る為の。


「その為には、私一人の力ではどうにもならなくてな……。こうして恥を忍んで、皆の力に頼っているのだ」

「フフ……そういう理由なら、僕が協力しない訳は無いね」


 良い目になった……いや、戻ったというべきか。と。

 今、目の前に居るテミスの瞳には、彼女らしい煌々とした強い光が宿っている。

 柔和な笑みを浮かべてテミスを見つめながら、ルギウスは一人胸の内で嘆息したのだった。

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