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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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674話 脱走者の光明

「うっ……あぁ……」


 一週間後。

 テミスはげっそりとした表情で詰所に姿を現すと、まるで幽鬼のようにフラフラと頼りない足取りで中庭を彷徨っていた。

 フリーディアに技の教示を願い出てからというもの、テミスは毎日朝から晩まで、詰所の外れに出来た勉強部屋で、フリーディアの授業を受けているのだ。

 だがフリ-ディアの授業は非常に分かりやすく、この一週間でテミスはこの世界に対する理解を大幅に深めていた。

 けれど。


「つ……つかれた……」


 問題はその進行速度にあった。

 流石にテミスといえども、まったくの新しい知識をゼロから習得するのには時間がかかる。

 だがフリーディアは自らの経験が故にか、さもそれが当たり前であるかのように、恐ろしい程の理解速度をテミスに求めた。結果、濁流のように詰め込まれる膨大な量の知識にテミスは付いていく事ができず、こうして昼休憩と称して地獄の勉強時間から逃亡しているのだ。


「はぁ……やれやれ……」


 中庭で自主訓練に励む兵士達を遠目で眺めながら、テミスは手近な木陰に腰を下ろしてため息を吐いた。

 フリーディアはテミスが音を上げる度に、やれ三歳だ五歳だと自らが収得した年齢を引き合いに出して鼓舞していたが、その効き目はとうに無くなっている。

 フリーディアが施されたのは恐らく、王族の為の英才教育というものだろう。

 起床してから入眠するまでのスケジュールを分単位で管理され、それをただ必死にこなしていくという途方もない作業(・・)

 しかもそれは、こなす事ができなければ即座に、出来損ないだの無能だのと烙印を押されかねない、自らの存在価値を賭した命懸けの作業なのだ。

 そんな狂った人生を歩んで尚、ああも純真無垢で居られるとは……。


「いや……自分の人生が狂っていたからこそ……か」


 ボソリ。と。

 テミスは遠くの青空を眺めて呟きを漏らした。

 あいつは、自分を苛んだ苦しみが他人を苦しめる事を良しとしない。故に、魔王軍に相対する者として育てられたからこそ、ああも戦いを嫌うのだろう。


「クク……皮肉なものだ」


 疲れた心と体を癒しながら、テミスは口角を吊り上げてひとりごちる。

 戦いを嫌うが故に……誰もが享受できる平和を願うが故に、彼女は戦いに身を投じているのだから。


「おやっ……? テミス様……どうしたのですか? こんな所で」


 いっその事、痺れを切らしたフリーディアが探しに来るまでこうして居てやろう。と。

 地面に体を投げ出したテミスが蒼空を眺めていると、視界の外から静かな声が駆けられた。


「ン……? マグヌスか。いや……少々行き詰っていてな」

「あぁ……フリーディア殿曰く、修行の為の学習をされているとか……」

「学習……まぁ、似たようなものか」


 傍らに立ち、得心するように頷いたマグヌスにテミスは乾いた笑いと共に言葉を返す。

 彼女に語った理由の全てを話していない辺り、フリーディアなりの気遣いの表れなのだろう。

 だがその一方で、部下達からは私に過度な期待が寄せられている様な気がしないでもないが。


「ムム……私でお力になれる事があれば良かったのですが……」

「あぁ……。そう……だな……?」

「テミス様?」


 無念そうに眉を顰めたマグヌスに対し、テミスは不意にピクリと肩を震わせると、首を傾げながらムクリと体を起こす。

 マグヌスならば、適任なのでは無いだろうか?

 慣れぬ上に過酷な勉学で疲弊したテミスの頭が、危機から逃れる為に急速に回り出し、一つの答えを導き出す。

 フリーディアがああも座学に固執するのは、彼女の出自だけではないはずだ。いくらフリーディアといえども、昨日おととい習得したばかりの月光斬のメカニズムを、他人に説明できる程に完全に理解するのは難しい筈だ。

 だが、生来の魔族であるマグヌスであれば。魔法と闘気の両方を操るこの男ならば、存外簡単に私が掴みかねているこの二つの違いを説明できるやもしれない。


「マグヌス。魔力と気力の違いは何だ?」

「ハッ……? 魔力と気力……ですか?」

「あぁ。この二つの力を操るお前ならば、両者の差はわかるだろう?」


 妙案を得たり。と言わんばかりの悪どい顔で、テミスはマグヌスへ問いかけた。

 無論。その本心の八割は、この場で理論を理解する事ができれば、フリーディアの勉強地獄から抜け出せるという私情に満ち溢れていたのは間違いない。


「フゥム……それでしたら、お力になれるやもしれませんな。では、申し訳ありませんが少々お待ちください。残した仕事を引き継いできます故」

「あぁっ!! すまないがどうか頼むッ!!」


 知識が大事なのは重々理解している。

 だがしかし、やはり実践を伴わぬ座学だけでは、足りないだろう。むしろ、身体を動かしてこそ、身に着けた知識が生きるのだッ!

 テミスは、自らの言葉に頷き、一礼をしてから去っていく背中を期待の籠った視線で見送りながら、漸く巡り合った運動の機会に胸を躍らせたのだった。

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