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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第14章

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672話 苦渋の告白と甘い困惑

「フリーディア……。頼むッ……私に技を……戦い方を……教えてくれッ!!!」

「……は?」


 ここは詰所の外れ、テミス達が使う執務室からも遠く、最も勝手の悪い最上に存在するため、ほとんどだれも近寄る事の無い空き部屋だ。

 そんな寒々しい部屋の中に、フリーディアの疑問符が木霊した。


「えっ……と……?」


 何を言っているのかわからない。

 まさにそんな様子を体現するかのように、フリーディアは頭を下げ続けるテミスの前で小首を傾げた。

 本当に、何の冗談だろうか。

 担当医であるイルンジュの制止をも振り切って現場に復帰したと思えば、早々にかかったのがこのテミスからの呼び出しだった。

 そして、何事か起こったのではないか……と。

 自らの見分できる範囲での出来事を洗い直し、幾つか思い浮かんだ案件への十全な対策と意見を携えて赴いたというのに。

 待っていたのはこんな頓珍漢な頼みだった。

 だけど、私にとっては奇天烈極まりない、ともすれば手の込んだ嫌がらせにも思えるこの頼みも、少なくともテミスにとっては並々ならぬ程に重要な事柄なのだろう。


「……いつもみたいに、嫌味で言っているのでない事くらいは解るわ。けれど、意味が解らない。貴女程の実力者であれば、私に教えを乞う事は無いと思うのだけど?」

「っ……!!」


 ぎしり。と。

 ただ、純然たる事実を言っただけの筈であるのに、フリーディアの眼前で、何故かテミスは痛みを堪えるように固く歯を食いしばる。

 一体、どういう風の吹き回しなのだろうか?

 確かに、紛いなりにも私は彼女の技である月光斬を模倣することに成功し、また一つ強くなったと言えるだろう。

 しかし、純粋な殺し合いという意味での戦いであれば、私がテミスに勝る事など万に一つもない筈だ。


「私の……技はッ……!!」


 そんなフリーディアの困惑をよそに、テミスは鬼気迫る表情で顔をあげると、血でも吐きだしそうな勢いで言葉を紡ぎ始める。


「私の技には、過程が無いッ!! 例えば、先日お前が放って見せた月光斬を例に挙げるのであれば、私にとってはただそういうもの(・・・・・・)であるが故の技なのだッ!!」

「剣技って、そういうモノだから出来ます! ……っていう類のものでは無いと思うのだけれど……」

「そうではないっ!! あ~……何と言ったらいいか……」


 フリーディアが純粋に零した感想に、テミスはピクリと肩を跳ねさせた後、困ったように頭を掻きながら視線を彷徨わせ始める。

 つまるところ、彼女は理論を飛ばして技を感覚で身に着けている……といいたいのだろうか?

 けれど、技を使う事ができているのであれば、何の問題も無いと思うけれど。


「その……つまり……だな……。私も私自身が、月光斬をどうやって放っているのかが解らないのだ」


 数秒間の逡巡の後、テミスはまるで言葉を選んでいるかのように、何度も詰まりながら説明を始める。

 曰く。

 月光斬に限らず、彼女が扱う多種多様な技の数々を、テミスはあくまでもその技が引き起こす結果のみしか知らないという。

 例えば、月光斬であれば剣に込めた斬撃を飛ばす技であり、その剣に込める力も、斬撃を飛ばす理屈も何も分からないらしい。

 正直に言えば、よくもまぁ今までそんな状態で技を放つ事ができていたものだと思わなくもないが、フリーディアは既にその理由を『テミスだから』と、半ば諦めにも似た信頼で片付けていた。


「つまり私は貴女に、貴女の言葉でいう所の技の過程……技を構成する要素を教えれば良いのね?」

「そうッ!! その通りだッ……!! どうか……頼めないだろうか?」


 テミスの話す言葉を何とか嚙み砕き、フリーディアは苦労しながらも自分の中の常識に当てはめて理解した。

 すると、その逡巡をどう受け取ったのか、テミスはまるで棄てられた子犬のように潤んだ目でフリーディアを見つめると、恐る恐る様子を窺うかの如く上目遣いで問いかけた。


「っ……!」


 その表情は反則なのではかしら……?

 キラキラと照射されるテミスの視線を真正面から受け止めたフリーディアは、突如として跳ね上がった心拍数を律しながら心の中で叫びをあげた。

 仮に私に、理性という歯止めが無ければ。

 きっと私は、目の前のテミスをこの胸の内に抱き入れて、頬ずりをしながら頭を撫でまわしていただろう。

 普段の毅然とした皮肉屋というイメージからは、想像すらつかないこの淑やかでしおらしい態度は、それほどまでの破壊力を秘めていた。


「わかったわッ!! 私に任せて!!」

「お……おぅっ……? よ、よろしく……頼む……?」


 元よりフリーディアには、テミスの頼みを断るつもりは無かった。

 けれどそれに加えて、並々ならぬ情熱を込めてテミスの両手をがっしりと握り締めると、満面の笑みで大きく頷いて見せたのだった。

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