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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第13章

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662話 先人の助言

 そんな理不尽など、この世界では掃き捨てる程に良くある話だ。

 テミスの独白を聞いたルギウスは、密かに拳を握り締めながら胸の内で呟いた。

 魔族と人間、貴族と平民。それだけではない。身体能力に優れた獣人系の者達や魔力や技量に優れたエルフ。誰もが皆、生まれ持って与えられた明確な力の差を目の当たりにして生きている。


「まさか君から……いや、君だからこそ……か……」


 ルギウスは静かにその身を離すと、小さな声でひとりごちる。

 人間とは可能性の塊だ。多くの魔族が人間達を劣等種と侮る中で、ルギウスはそう考えていた。

 獣人族のような身体能力も無く、我々エルフのような多くの魔力を宿している訳でもない。かといって、吸血鬼たちの如く長命であったり、竜人族のように頑強な体を持ってもいない。

 故に彼等は知恵を絞って工夫を凝らし、我等の匹敵するほどの魔法を放つ道具を創り出した。

 それだけではない。

 強靭な力を持ち得ぬが故に優れた剣技を生み出し、脆い肉体を持つが故に医術や薬学を生み出し、短命であるが故に命を……心を受け継ぐ習慣を生み出したのだ。


「テミス……君は人間だ。その事実だけを見れば、間違いなく君は孤独なのだろう」


 人間の身でありながら、魔族の軍勢を退ける程に強大な力を持つ彼女は、確かに異質な存在なのだろう。

 だからこそ今、彼女は人と魔の間に横たわる変えようのない軋轢に苦しんでいる。

 けれど、何のことは無い。

 その程度の些末な差など、誰の間にでも存在するものだ。


「少し……昔話をしよう。古い話さ……僕がまだ軍団長ですらないほんの子供だった頃。剣の手合わせでルカに負けた僕は、よく両親に泣き付いていたものさ。ルカが卑怯な手を使った……とね」


 ルギウスは胸の奥に眠るかつての記憶を思い出しながら、ゆっくりとした口調で語り始める。


「ルカには類稀なる剣術と魔法の才があってね。既に彼女独自の技……魔法剣を編み出していた。平凡な僕ではどうあがいても勝てなかったんだよ。それが悔しくて悔しくて堪らなかった」

「…………」

「でもある日、ルカが病で寝込んで気付いたのさ。生まれ持った力の差なんて大したことじゃない……いや、むしろ生まれ持った力こそ、呪いのようなものなんだ……とね」

「呪い……?」


 それまで、己が過去を語り続けるルギウスに、何の反応も見せずに佇んでいたテミスが、漸く反応を示す。

 それはただ小さく首を傾げ、呟くように漏らした一言だった。けれどそこには、飾らぬテミスの心がある気がして……ルギウスの紡ぐ言葉に熱が籠った。


「そう。呪いさ。ルカには剣と魔法の才があった。だからこそ、エルフの戦士としての役割を期待されていたんだ。……本当は戦う事なんて、誰よりも嫌いなのにね」

「っ……!」

「おっと、失言だったかな。でもね……だからこそ僕は君に興味を持った。持ち続けた。はじめはただの異質さ故に……でもすぐに好奇心は消えて、どこまでも正義を貫く君の真っ直ぐな正義に好意を持ったんだ」

「私の……正義……?」


 ルギウスの言葉を咀嚼するかのように、テミスは静かに呟いた。

 私の正義など、誰に誇れる物でもない。ただ、憎しみと怒りに満ち、血と泥にまみれている。

 フリーディアのように誰かを救いたいわけでもなく、ギルティアのように誰かを導きたいわけでもない。誰かを虐げ、その結果笑っている連中が気に食わない。だからせいぜい、自分が奪う側だと心酔している連中を、地獄に叩き落としてやろうと思っただけだというのに。


「そう……想いと言い換えても良い。力なんて幾らでも付ける事ができる。フリーディアがそうだったようにね。けれど、ヒトが自らの命を懸けて目指すその果て。誰よりも異質な君が……誰よりも深い呪いに蝕まれた君が、目指す理想を共に見てみたい……ただ、そう思ったのさ」

「っ……」

「信じられないのなら、サキュドやマグヌス……これまで君に付いてきた皆にも聞いてみると良い。力はただ在るだけの物だ。ただ戦いに強いというだけで、ヒトの心は動かないよ」


 ぞぶり。と。

 ルギウスは柔らかに微笑みながらそう告げると、地面に転がる首の無い遺体から剣を抜き取り、その柄をテミスに向けて差し出して言葉を続ける。


「傍らから見ていた僕が思うに、君は短い間にいろいろと多くの物を背負い過ぎてわからなくなっている。だから一度、よく考えてみると良いよ。テミス……君という一人の人間が、何をしたいのかを……ね」

「ルギウス……」

「フフ……僕はこれでも長く生きてるからね。ほんの少しだけお節介さ。さぁ……あっちの彼等は僕の方で対応しておくから……」


 自らの名を呼んで立ち尽くすテミスに、ルギウスはフリーディアの剣を握らせると、再び柔らかく微笑み、まるで送り出すかのように軽く、ファントの町へ向けてその背を押したのだった。

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