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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第13章

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656話 信じ抜く心

「っ……!!! ぅぁ……」


 全身を貫いたのは、意識すら一撃で飛びかねない程の凄まじい衝撃だった。

 大地に叩きつけられた身体が跳ね、その身に纏った漆黒の甲冑がメキメキと嫌な音を立てる。

 嗚咽と共に肺の中に溜め込まれた空気が強制的に体外へと吐き出された後、ようやく苦痛がテミスの意識を蝕んだ。


「ゴブッ……ガハッ……ゲホッゲホッ……」

「っ……!!」


 投げ出された勢いのまま、テミスは土煙をあげて地面の上を転がった後、苦し気な息とともにその場で体を丸めて蹲った。


 ――嗚呼。そうだったな。


 身を引き裂く程の苦痛を味わいながらも、テミスは何処か解き放たれたかのように清々しい気分で息を吐く。

 私が、連中と同じ愚者ならば。私にも、然るべき罰が下されるべきだろう。

 自らの正義を疑う事は無い。

 悪を斬って捨てた事に後悔は無い。


 ただ、その為に振るった力が偽物だった事だけが。

 唯一にして無二の恥辱(・・)だった。


「呆けてるんじゃ……無いわよ……」

「…………」


 ずしゃり。と。

 フリーディアは力強く大地を踏みしめる足音を響かせながら、たった今自らが投げ飛ばしたテミスの元まで歩み寄る。

 そして、地面に広がる白銀の髪をむんずと掴み上げ、無理矢理その身を引き摺り起こして言葉を続けた。


「こんな勝ち方……認められる訳が無いでしょうッ!!! 何とか言えッッ!!! テミスッ!!!」

「…………」

「っ!!!! このッ……馬鹿テミスッッ!!!」


 だが、そんなフリーディアの慟哭にも、テミスはただ緩慢な瞳を返すだけで動く事は無かった。同時に、固く歯を食いしばったフリーディアが手に力を籠めると、泥に汚れた白銀の髪がブチブチと音を立てる。

 そんなテミスに対し、フリーディアは自らの内に込み上げた、怒りとも悲しみともつかない複雑な衝動に身を任せ、その身を地面に押し倒して馬乗りに跨った。

 そして、傍らの地面に自らの剣を突き立てると、固く握り締めた拳を振り上げて口を開く。


「一人で勝手に納得して……絶望して投げ出すなんて許さないッ!!」

「っ……」

「言いなさいよッ!! 頼りなさいよッ!! その為の仲間(私達)でしょうッ!? だから友達(・・)なんでしょうッ!?」


 一言一言。

 フリーディアはまるでテミスの肉体に刻み込むかのように、拳を振り下ろしながら叫びをあげた。

 幾度となく肉を打つ鈍い音が響いた後、再び高々と振り上げられたフリーディアの震える拳が動きを止め、地面に横たわるテミスの甲冑の上にぱたぱたと涙が滴り落ちる。


「それとも私は……私達は貴女にとって……その程度の存在だったの? 背中を預けられる……戦友じゃなかったの? そうやって壊れていく貴女を……ただ見ている事しかできないの?」

「っ……」


 ピクリ。と。

 大粒の涙を流しながら訴えかけるフリーディアに、それまでただ緩慢と宙を眺め続けるだけだったテミスの瞼が動き、腫れた頬が僅かに持ち上がる。

 ……本当に、馬鹿な奴だ。

 この能力(チカラ)が枷だと知った今、私はもう二度とコレを振るう事は無いだろう。

 だというのに、無力と堕ちた私なんかを救おうと、こんなにも必死になって心を砕いている。


「ぅ……」

「っ……!!」


 そうだな。お前はそういう奴だった。

 ならばせめて、その何処までもまっすぐで無垢な心に、現実というものを教えてやろう。

 敵も味方も……誰も彼をも救う事などできはしない。その甘さは必ず、お前の足元を掬うだろう。そう……この私のように、お前の想像すらつかない()も居るのだから。

 テミスの胸の内にそんな想いが湧き(いずる)と、綻んだ口元だけが僅かに力を取り戻し、柔らかく言葉を紡ぐ。


「もう……良いんだ……」

「っ~~~!!!」

「お前の愚直な努力で、私の偽りは砕かれた。私にはもう戦う力など――」

「――っ!!!! テミスッ!!! ぐっ……! う……」

「……!?」


 突如。

 緩やかに言葉を紡ぐテミスの言葉を遮って。

 悔し気に歯を食いしばりながらも、その言葉に耳を傾けていたフリーディアがテミスへと覆い被さった。

 その直後。

 フリーディアの身体は何かに耐えるかのように硬直した後、そのままテミスを固く抱き締める。


「なに……が……」

「大丈夫。大丈夫だからテミス……じっとしてて?」


 突然の出来事にテミスは思わず問いかけるが、フリーディアはただテミスを抱き締めたままそう答えるだけだった。

 しかし皮肉にも。

 人の域を遥かに超えて鋭敏なテミスの聴覚が、周囲でざわつく兵達の叫び声を捉える。


「狙撃ッ!? 襲撃だッ!! ……警備の連中は何をしていたんだ!?」

「フリーディア殿が負傷されたぞ!!」

「探せ!! 弓兵だ!! 絶対に逃がすなッ!! 必ず捕らえろッ!!」

「――っ!!? まさか……おいっ!? フリーディアッ!?」


 捕らえた言葉に、テミスが反射的に身を跳ね起こすと、テミスの上に覆い被さっていたフリーディアの身体が、ずるりと力無くずり落ちた。

 その背には、堅牢な筈の彼女の甲冑すらも貫いて、一本の太い矢が突き立っている。


「っ……!!? 私を庇った……? 馬鹿なッ!! 何をやっているッ!! おい! しっかりしろッ! フリーディアッ!!」


 その光景を目視した瞬間。

 テミスは自らを捕らえて離さなかった絶望と虚無など忘れ去り、フリーディアの身に縋って叫びをあげる。

 すると……。


「ふふ……。ほら……やっぱり貴女は、誰かを……護る……時に……」


 地面にその身を横たえたフリーディアは、弱々しい笑みを浮かべて言葉を紡ぎ、荒い呼吸を繰り返す。

 そうしている間にも、白く輝く彼女の甲冑は、背に突き立った矢を伝って流れる赤い血に汚れていった。


「勝ち逃げなんて……許さない……わよ? テミス」

「フリーディアァァァァァァッッッッ!!!!」


 苦し気な息遣いと共にそう告げたフリーディアが、その口からごぼりと血の塊を吐き出した刹那。

 悲痛なテミスの絶叫が辺りへ響き渡ったのだった。

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