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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第13章

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654話 信念の斬撃


 放たれた斬撃には、確かな殺意が込められていた。

 しかし、フリーディアは前を見据えたまま動かく事は無い。

 この技は隣で、前で、後で……何度も見た、彼女が最も得意とする奥義。


「ッ……。ハアアアアアアアアアァァァァァァァァァッッッッ!!!」


 フリーディアは小さく微笑んだ後、土煙を裂いて迫る斬撃を前に咆哮を上げ、振り上げた己の剣に力を籠める。

 何度も見たからこそ、私にはこの斬撃が理解できるッ!!!

 胸の内で叫ぶと同時に、フリーディアの目が見開かれた。そして、テミスの放った月光斬に向け、全力を込めて剣を振り下ろして斬撃を放つ。


「な……ッ!!?」


 刹那。

 薄く煙る土煙を切り裂いて、まるで迎え撃つかの如く、テミスの放った斬撃と、フリーディアの剣から迸った斬撃が交叉した。


「クッ……!?」

「っ……!!! ぐっ……ハァッ……ゼェッ……」


 ズドォォォォンッ!!!! と。

 真正面からぶつかり合ったエネルギーが、巨大な爆発を引き起こし、目を覆う程に眩い閃光が視界を奪う。

 そして、短い沈黙の後、音もなく閃光が消え失せる。

 そこには、互いに剣を振り抜いた姿勢のまま制止する、テミスとフリーディアの姿があった。


「ば……馬鹿な……。何故……何故お前が……月光斬(この技)を……」


 その沈黙を先に破ったのはテミスだった。

 明らかな狼狽を顔に浮かべ、まるで放心したかのように目を丸くして問いを重ねる。


「答えろ……フリーディア。何故……どうしてお前が……」


 問いと共に、テミスの足がフラフラと一歩を踏み出し、力無くフリーディアの元へ歩み寄る。

 そうだ。

 体術や剣術ならばまだしも、月光斬(この技)だけは真似できるものでは無い筈だ。

 何故ならばこの技は、私が転生者として宿した力を以て顕現させているのだ。同じ異世界から来た者ならばいざ知らず、正真正銘……この世界の人間であるフリーディアが扱える通りは無い。


「フッ……フフフ……。ぶっつけ本番だったけれど……その様子だと、どうやら私の推測は間違ってはいなかったみたいね」

「推測……だと?」

「えぇ。何度見ても、何度考えても、貴女のその技は、斬撃そのものを飛ばしているようにしか見えなかった。……どうやっているかまではわからないけれど」


 フリーディアはゆらりと大きく体を揺らすと、不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。

 だが、その額にはドロドロとした脂汗が噴き出ており、剣こそ固く握り締めているものの、その足元は僅かに覚束ない。


「でも……斬撃が飛んでいるという事さえ理解できれば十分よ。あとはこちらで、再現できる方法を考えるだけ」

「馬鹿な! あり得んッ!! この技を再現するなど……!!」

「クス……。現に、出来たでしょう? 貴女のやり方とは違うかもしれないけれど……ね」


 唇を歪めて得意気な笑みを浮かべ、フリーディアは背筋を正してテミスと向かい合う。

 その顔には消耗こそ浮かんでいるものの、明らかな自信が漲っていた。


「剣に纏わせた気力を、魔力によって射出する。大した技だわ……限界まで技を磨き、かつ強大な魔力を有している貴女だからこそ成し得る奥義。魔力に乏しい人間の私では、一発撃っただけでこの有様よ……」


 技を凌ぎ、ボロボロになりながらも、フリーディアは心の底からテミスと月光斬を称賛した。

 魔力を有しているからといって驕らぬ努力と、剣に纏わせた気力のみを射出する繊細な魔力コントロールが必要な、まさに絶技と呼ぶにふさわしい奥義だ。

 しかし、そんな飾らぬフリーディアの手放しの称賛に、テミスは顔色を蒼白に変え、今にも泣きだしそうな顔で、歩み寄ったはずの道を後ずさる。


「っ……」


 とても信じられる事では無かった。

 月光斬は、あの世界(・・・・)の……しかも、物語の中の技だ。

 私はこの技の事は知っていても、その原理は何も理解していない。

 何故なら……知る必要が無いから。

 そんな事を知らなくても、自らの身に宿る能力を使えば、斬撃は勝手に飛んで行く。

 だというのに……。


「お前はこの技を観察し……解き明かし……再現……したのか……?」

「……? だからさっきからそう言っているじゃない? 何よ、得意技の一つや二つ。当たり前の事じゃない。それとも、私に真似されたのが言葉も出ないくらいにショックなのかしら?」

「…………っ!!!」


 だというのに。目の前のこの女(フリーディア)は、まるでそれが他愛もない事でもあるかのように言ってのける。

 まさに、言葉が出なかった。

 しかしそれは、悔しいだとか妬ましいだとかいった感情に起因するものでは無い。

 テミスはただただ見惚れていたのだ。

 世迷言のような下らない理想論ばかりを口にする、能天気な少女だと思っていたフリーディアが、僅かに見せた凄まじい努力に。


「ハ……ハハ……」


 どしゃり。と。

 自らの心が、フリーディアに畏怖していると自覚した瞬間。

 テミスはまるで、全身の力を失ったかのように、その場に崩れ落ちたのだった。

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フリーディアちゃん、この娘相当な天才では?
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