表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第13章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

660/2305

639話 狭間に立つ者

 その要求は、とてつもなく横紙破りなものだった。

 魔王軍に席を置く者は元来、魔王を慕い集ってきた者たちなのだ。例え、一度魔王の命を手中に収め、魔王をも上回る強権を得たからといって、その意志を歪めるのは難しい。

 ならばいっそ、魔王であるギルティアを追い落とし、力を以てその席に収まる方が順当に思えるだろう。

 だが、以前より交友のあるルギウスならば話は別だ。


「まっ……待ってくれテミス! 確かに私は今も、君の事は掛け替えのない友だと思っているッ! だがッ……魔王軍を離れ、君の傘下に付く事はできないッ!!」

「クク……わかっているとも。私は別に、お前にギルティアを裏切れと言っている訳ではない。ただ、今まで通り……力を貸して欲しいだけなのだ」

「どういう……事だ……? 意味が……」

「簡単な話さ。ロンヴァルディア(あちら)は私に、白翼騎士団を貸してくれるらしい。ならば魔王軍からは、お前達第五軍団を借り受けたいと思ってな」


 不敵に微笑んで黙するギルティアをよそに、テミスはその背の後ろから、身を乗り出すように前傾するルギウスと言葉を交える。

 本来ならば、いくら軍団長といえども、こういった話に護衛であるルギウスは口を挟む事ができない。

 しかし、それを制するギルティアが黙認する事で、テミスは自身の言葉でルギウスを説得できる機会を得たのだ。


「ただ……白翼騎士団異なる点はただ一つ」

「っ……!」


 テミスは言葉と共に、動揺冷めやらぬルギウスの眼前へ手を差し出すと、その細い指を一本、ぴんと立てて笑みを深める。

 その一点こそが、テミスが導き出したギルティアへの仕返し(・・・)だった。


「白翼騎士団が我々に対する楔であるのに対し、お前達は私達からの要請と魔王軍からの指令が異なった時、何があろうとこちらを優先してもらう」

「なっ……!!?」

「フッ……そう身構える事は無い。魔王軍(お前達)ファント(私達)はこれから、手に手を取り合って協調し、平和を目指すのだろう? 指令が違う事などそうありはしないさ。なぁ……ギルティア?」


 スルリ……。と。

 言葉と共にテミスの手が再び椅子の背を滑り、その端で止まる。そして、テミスはニヤリと意味深に笑みを浮かべて、同意を求めるかの如くギルティアの顔を覗き込んだ。


「クク……お前の行く道と私の行く道がぶつからぬ限りは……そうと言えるな」

「テミス……つまり……君はッ……!!」

「あぁ。言ってしまえば同盟など、ただの口約束に過ぎん。だからな……ルギウス。私は安心が欲しいのだ。下らぬ忠誠心に囚われず、真に正しき判断の下せる仲間が欲しい」


 言葉を詰まらせたルギウスに、テミスは淀む事なく胸の内を告げた。

 今回の一件では、ルギウスにも助けられた。その判断や想いは信頼に値するし、魔王軍を抜けた後も、隣人である彼等との交友は続ける必要があった。


「……一つ。聞かせて欲しい。何故、優先権なんだ? 君にしてはその……なんといえばいいか……」

「……要求が可愛すぎる。だろう?」

「っ……! は……はい……」


 短い沈黙の後、言いづらそうに言葉を濁したルギウスに視線を向け、ギルティアがその濁した部分をバッサリと言語化する。


「何とでも言ってろ。私は、現状を鑑みずに私怨を優先するような間抜けではない。この程度が限度だろうさ」

「フ……わかっているようで安心したぞ。テミス。ルギウス……聞いての通りだ。以降第五軍団はラズールの統治と並行し、ファント支援の任に当たれ」

「はっ……! 了解しました」

「フン……私を試すな。不愉快だ」


 そんな二人にテミスは鼻を鳴らすと、椅子の背から指を離して、一歩二歩とギルティアたちから距離を取った。

 そして、テミスは所在無さげに視線を交わし合っている、ロンヴァルディアの人間達に目を向けると、大きく息を吸い込んで口を開く。


「さて……魔王軍側との会談の結果は聞いての通りにまとまりましたが……。何か(・・)、ありますかな?」

「っ……!!!」


 刹那。

 テミスの言葉によって、傍観者から当事者へと引きずり込まれた彼等は、再びその視線を明後日の方向へと彷徨わせて黙り込む。

 しかし、テミスがいつまでもそんな態度を許すはずも無く、まるで獲物を見定めた獣のように、一人の男へと視線を注いで言葉を続けた。


「ブライト殿……でしたかな? 我々としても不本意ではありますが、あくまでもこれは交渉。呑める条件と飲めない条件はあります。こうして腹を割って話して尚、手を取り合えぬのなら……やむを得ますまい」

「なっ……なんだと……いうのだ……?」


 名指しをされたブライトは、全身を震わせながらも辛うじて体裁を立て直すと、大仰な態度で呆れたようにかぶりをふるテミスへと言葉を返す。

 その問いに、テミスは小さく息を吐いて僅かな時間だけ目を瞑った後、静かに開いた目に冷たい光を揺蕩えて口を開いた。


「決まっているだろう……。言葉を交わし、それでも手を取り合えぬのなら。今度こそ、恨みも不満も……骨すら残さず食らい合うまでだ」

「……ブライト様。あくまでも軍部の者としての戯言でありはありますが……我々はどうやら、獅子を犬と間違えていたようですな」

「っ~~~~~!!! わわわわ、わかった!! 先程までの私の発言は取り消す……取り消しますッ!! この通りッ!! ご無礼も謝罪致しますッ……! ですから! ですからどうかッ……!!」


 テミスの言葉を受け、ボソリと呟かれたフランコの言葉が引き金となったのか、遂にブライトは虚勢をかなぐり捨てると、必死の形相で頭を床にこすりつけて叫びをあげたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ