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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第13章

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635話 差し出された道化

 フランコが提示した内容は、テミスの想定を遥かに上回る内容だった。

 友好のある組織同士であれば、テミスがルギウスにファントの守りを任せるなど、互いに兵を融通し合う事で、平坦への負荷を減らす方策を取る事はある。

 しかし、ファントとロンヴァルディアはつい先日まで互いに殺し合いをしていた仲なのだ。つまり、そこへロンヴァルディア旗下の最大戦力である白翼騎士団を駐留させるというのは、ともすれば国の根幹すらも揺るがしかねない暴挙に等しい。

 だが……。


「人質……いや、楔のつもりか?」


 テミスは薄い笑みを浮かべると、フランコの目を見据えて問いかけた。

 フリーディア達白翼騎士団は、先の戦いでファントと共に戦っている。ならば、そこに交友を見出すのは難くないだろうし、少なくともファント(この町)に居れば、フリーディアが個人的な感情で命を狙われる可能性は限りなく低くなるだろう。

 加えて、仮にファントが……私がロンヴァルディアを裏切ったとしても、その心中にフリーディア達が居れば、取る事のできる手段は格段に増えるはずだ。


「そう……受け取っていただいて構わない。これは我々ロンヴァルディアが、真に平和を願っているという誠意でもあるとお考えいただきたい」

「クク……誠意ね。ひとまずは(・・・・・)了解しよう」

「っ……!! フゥ……。それでは、私からは以上だ。後の提案はこちらの、市政議会の者からお聞き願う」

「フッ……承知した」


 テミスは密かに大きく息を吐くフランコにニヤリと微笑みかけると、その意図を汲み取って小さく頷いた。

 見るからに、ロンヴァルディアの連中は統率が取れていない。口火を切ったフランコと、その護衛であろうフリーディアを除く者は皆、私の顔色を見て言葉を発する事も無く、有体に言えばこの場に居る資格の無い者たちだった。

 だが、フランコにどのような心変わりがあったのかは知らないが、フランコが発言を譲った事で、そんな連中にも使い道(・・・)が生まれたのだ。


「それでは、後の提案をお聞かせ願いたい。あ~……失礼。お名前を窺っても?」

「……っ!!! 私はブライト・フォン・ローヴァングラム。ロンヴァルディア内政議会議長を務める者だ」


 水を向けられた一人の男に、テミスが態度を柔らかなものへと変化させて問いかける。すると男は、先程までの怯えようが嘘だったかの如く態度を翻し、自身に満ちた微笑みと共に胸を張ってその名を名乗った。


「ほぅ……『フォン』。というと……」

「然り。私は王家の血に連なる者。普通ならばこのような場所へ赴く事は無いのだがな」

「っ……」


 ピクリ。と。

 テミスが眉を跳ねさせて言葉を漏らした途端、男はべらべらと得意気に語り始める。

 しかし、そんなブライトを眺めるテミスの視界の隅では、恐れるように目を見開いたフリーディアが、顔を青くしてチラチラと視線を走らせていた。


「さて。我がロンヴァルディアと友好を結ぶに先んじて、先程軽くこの町を見させて貰った」

「それはそれは。自慢の町です。いかがでしたか?」

「良い町だ。民もよく富み、経済も潤っておる」

「ありがとうございます。住民あっての町ですから」

「っ……!! …………!! ………………ッ!!!」


 鼻持ちならない口調で言葉を続けるブライトに、テミスは最大限の笑顔と猫なで声を以て応える。だがその張り付けた笑みの裏側で、テミスは口角を吊り上げてぎらぎらと目を光らせていた。

 この男が、ロンヴァルディアの内政を……あの(・・)惨状を産み出しているというのなら、これから何を謳い出すにしても、ファント()にとってはこれ以上ない程の獲物に相違ないだろう。

 そう断じてテミスは、視界の端で音も無く身を悶えさせるギルティアを意識から切り離した。


「うむ。よってこの町に課す税は月に金貨百枚。いや、百五十枚が妥当だと考える。更には嗜好品の類を、まとめて王室へ献上する事も赦そう」

「……ご冗談を。それではまるで、我々がロンヴァルディアの傘下に収まるようではないですか」

「……? このような場で冗談など言う訳が無いだろう。それに知っての通り、我がロンヴァルディアの国土は広大。友好を結ぶというのならば、よもや版図を維持する助力を惜しむとは言うまい?」

「…………。あ~……」


 朗々と並べたてられるその戯れ言には、流石のテミスであっても思わず眉を顰めて言葉を濁す事しかできなかった。

 目の前でなにやらと囀るこの男の頭には、果たして糞の塊でも詰まっているのだろうか?

 少し甘い顔を見せた途端、この男はまるで飛び込むかのように、頭の先から足の先までずっぽりと罠にかかったのだ。そのまるで何も見えておらず、言葉を話しておきながら、理解できていないのではないかと思わせる態度には、とてもではないが欠片ほどの知性を感じる事もできなかった。


「……。フム」


 自らの策が予測を遥かに超えた大釣果を打ち立てているさまを目の当たりにしながら、テミスは小さく息を吐いてその視線をフリーディアへと向ける。

 すると、まるでそれを待ちわびていたかのように、フリーディアはテミスへ向けてコクリと小さく頷いてみせた。


「クク……そういう事なら、作戦変更だ……」


 それを確認したテミスは、まるで思い悩むかのように組んだ手で口元を隠すと、大きく唇を歪めてボソリと呟いたのだった。

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