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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第13章

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634話 小さな一歩

 テミスの言葉を受けたフランコは、ゴクリと生唾を呑み下すと、自らの周囲に並ぶ者達へ問いかけるように視線を送った。

 しかし、その誰もが逃げるように視線を逸らすばかりで応ずる事は無く、べっとりとした油のような沈黙が漂う時間だけが無為に過ぎていく。


「くっ……!! ま、まず我々ロンヴァルディアは貴国――」

「――ファントは国ではない」

「し……失礼ッ! ロンヴァルディアは貴……都市と、友好的かつ親密な関係を結ぶ事ができればと考えている……!!」

「フ……友好的で、親密……ね……。ならば先日の戦いは、実戦的かつ予告の無い大規模演習……とでも言うべきか?」

「うっ……あっ……。確かッ……に……!! 多少のッ……不幸な行き違いがあった……のは間違いないがッ……!!」


 意を決したフランコが口を開くも、辛うじて纏っていたその虚勢は、テミスが冷笑と共に零した呟きによって粉々に砕かれ、まるで水から出された魚の如くパクパクと口を開閉させる。


「……ひとまず、それは置いておこう。よもや、ロンヴァルディアの提案はそれだけではあるまい?」

「え~……あ~……む、無論!! その通りではある……が……」


 再度問いかけたテミスに、フランコも再び周囲の人間達に視線を送るが、誰もが露骨に彼から目を背け、額に球のような汗を流しながら、部屋の隅や扉へとその視線を逃がしていた。


「っ……!!!」


 ぎしり。と。

 同行者たちの態度に、フランコは固く拳を握り締めると、張り詰めた意識の中で必死に思考を回転させる。

 対面して初めて、フランコはフリーディアの忠告が、嘘偽りどころか、一切の誇張もない真実であると直感していた。

 一見しただけでは、ただ美しいだけの少女だ。だが、その目は数多の視線を潜り抜けた騎士の如く冷たい光を宿し、大きく歪められた唇からは、我々を嬲る獣のような残虐ささえも垣間見える。

 だが、それに気が付いているのは、恐らく直接その目を覗き込み、言葉を交わした私だけだろう。

 しかし、事前に協議した内容を違えれば、自らの保身と享楽を護る事に必死なこいつらが、後々になって文句を言い出す事など火を見るよりも明らかだ。

 そうなれば、このロンヴァルディアで最後に残った理性の砦たる私が、国の中枢から弾き出されるのは必至……ならば、今この場で私にできる事など一つしか無いだろう。


「……テミス殿。軍部を預かる者として、先の戦いでの貴都市の奮戦には脱帽だ。この場で改めて、その手腕を称えたく思う」

「っ……! その言葉は、素直にお受け取りしましょう。ですが、それは私一人では到底成し得なかった事です。我が旗下の黒銀騎団の者達や、そこに居るフリーディア率いる白翼騎士団、そしてこの町の皆のが、平和と安寧を護りたいと一丸になったからこその結果であります」


 言葉を紡ぎながら、ぎらりと瞳を光らせたフランコが姿勢を正してテミスへ微笑みかける。すると、テミスはピクリと眉を跳ねさせた後、それまで浮かべていた歪んだ笑みを消し去り、それまでとは一変して生真面目な態度でそれに応える。


「故に。先程申し上げた事は、()の本心なのだ。我々がこのまま戦い続ければ、双方に甚大な被害が出るのは想像に難くないだろう」

「……つまり、ロンヴァルディアが求めるのは不可侵化という訳か? だがそんなものは、相手を圧倒するだけの戦力を蓄える為の方便でしかあるまい」

「っ……!! テミス殿の言う通り。不可侵などは方便でしかない。だが私は、貴君が以前、秘密裏ではあるが、卑劣にも我が国に巣食う憎き悪逆を誅する事に、助力頂いたのは耳にしている」

「フン……。奴は確かに悪人だった。だが、お前達のような人間達が、奴のような復讐者を生み出したのだぞ?」


 胸を張ったフランコの言葉が一歩を踏み込むと、テミスはその瞳を切れ長に細めて、切り捨てるように言葉を返した。

 こいつが言うヤマト……そこを治めていたアーサーは、取った手段こそ間違いではあれど、その抱いた憎しみは否定できるものでは無い。

 だからこそテミスとて、そこに触れたのならば、生半な回答で赦すつもりは無かった。

 だが……。


「存じておるッ!! 貴君を良く知る白翼騎士団長から、テミス殿の本懐は聞いている。その理念に、諸手をあげて賛同出来るとは言えない。だが、頷く事ができる部分があるのも確か。だからこそ今後の協調としては、我が国は白翼騎士団を通して、貴都市に助力を要請する権を頂きたい。その対価として、ロンヴァルディアはファントへ、白翼騎士団を派遣駐留させたいと考えているッ!!」

「ホゥ……?」


 椅子から立ち上がり、握り締めた拳を隠す事すら忘れて熱弁するフランコに、テミスは僅かに目を見開くと息を漏らしたのだった。

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