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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第13章

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626話 未来を見通す眼

「っ……」


 悠然と告げられたギルティアの言葉に、会議室に詰める一同が俄かに息を呑んだ。

 熟考し、議論を重ねて辿り着いた一つの疑問。彼は……敬愛する我等が魔王は、それですら足りないと言い放ったのだ。


「…………」


 その一角。

 他の将兵たちの誰よりも早く、動揺を振り払ったリョースは、黙したままその頭脳を全力で回転させ始める。


 考えろ。考えろ。考えろ。

 ギルティア様は何とおっしゃった? そうだ。『勿体ない』だ。あの時、我等の中にあった感情は間違いなくこれだ。

 南方戦線は確かに重要な戦線だ。だがしかし、タラウード達の上申は、有能極まる軍団長を一人手放す程の価値は無い。

 そう判断したからこそ、我等は勿体ないという疑問に……違和感に辿り着いたのだ。


「っ……」


 ぎしり。と。

 リョースが熟考するその隣で、ドロシーもまた己が爪を固く噛み締めながら、思索の海へと漕ぎ出していた。


 同志。確かにギルティア様は、テミスに対して部下とは思えない程の権限と待遇を認めていた。

 魔王軍唯一の独立遊撃軍団を預けるのに始まり、魔剣クラスの細剣の貸与や各種独断専行の黙認。果てには、撤退要請の直訴までも受諾した。

 その待遇は、明らかにいち軍団長のそれを逸しており、まさに言葉の通りでの同志……自らと同格の存在であるかと認めているかのようだ。


「っ……!」

「クッ……!!」


 まるで何かに気付いたかのように、ドロシーがピクリと肩を跳ねさせた瞬間。

 ユグルドは固く歯を食いしばって思索に明け暮れていた。だが、彼が持っている情報は乏しく、その大部分を予測で補わなければならなかった。

 しかしそれでも、ユグルドは彼自身がリョースに勝るとも劣らぬと自負する忠誠心を滾らせ、全神経を集中させる。


 まず一つ。件のテミスとやらの戦力は疑う余地も無い。ならばギルティア様の求める答えは、彼女自身や彼女の部隊に関する瑕疵(かし)ではない。

 次に。リョースをはじめとする軍団長たちは、異様にテミスの事を買っている。それは、彼女と関わりの深い者ほど顕著であり、共闘関係を築いているという第五軍団長のルギウスに至っては、ギルティア様ご自身から別命を受け、この会議にすら出席していない始末だ。

 加えて、ギルティア様は我々の勿体ないという感想を暗に否定された。つまりそれは即ち、ギルティア様ははじめからテミスという者に価値を見出していなかった事になる。


「フッ……」


 周囲の者たちが一斉に考えを巡らせる最中でただ一人、静かな笑みを浮かべている者が居た。

 その人物こそ、第七軍団長アンドレアル。その表情から読み取れるのは彼の者の気概だけであり、その静かに揺蕩う瞳は、何も語る事なく苦悩する将兵たちを眺めている。


 この調子では、この場の誰も(・・・・・・)彼女の事を理解してはいないらしい。彼女は武人だ。勇に生き義を貴ぶ誇り高き者。……でなければ、自らの腹心であるマグヌスを殺されたと知った時、ああも無謀な攻撃を仕掛けては来ない筈だ。

 なればこそ、願う他ないだろう。彼女の征く先に幸あれ……と。


「……そういう。事……」


 ルカの唇が音もなく形を紡ぎ、辛うじて掠れた()だけが喉から零れ落ちる。

 恐らくこの場において、一番情報を持っているのは私なのだろう。だからこそ、ここで雁首揃えて頭を捻っている者たちに先んじて、私が答えを得る事ができたのだ。

 否。恐るべくは、こうなる事すらも予見していたかのように、今も尚自身はテミスの側に張り付き、爾後の策として私をこの場へ送り出した旧友なのかもしれない。


 気付いてしまえば、簡単な事だった。

 元より、テミスというあの少女は我々と同じ軍団長などでは無かったのだ。

 彼女こそ、ギルティア様の最大の秘策にして切り札(ジョーカー)。それは、最も自由に動く駒であると同時に、最も操り難く、時には自らにも牙を剥きかねない暴れ馬が如き対抗者。


 ――故に。同志(・・)


 だからこそ、ギルティア様はテミスを手懐ける事に腐心し、手足となる部隊を与え、所領を持たせたのだ。

 ならば、今発せられた言葉の意味も根本から変わってくる。

 元より手元にない札を惜しむ必要がどこにある? テミスがギルティア様の意思を介さずに動く独立(・・)した組織だと考えるのなら、現状魔王軍第十三独立遊撃軍団は、黒銀騎団とその名を変えただけ。つまり、この一件で最も利するのは……。


「っ……!!!!!!」


 ゾクリ。と。

 ルカは全身を貫いた悪寒にも似た感覚に肩を震わせ、その視線を真っ直ぐにギルティアへと向ける。

 全てが計算づくであったというのなら、まるで未来でも見通していたかのようではないか。

 そしてルカに数瞬遅れて、リョースとドロシーもまた、驚愕と戦慄に目を見開いてギルティアへと視線を注いだ。


「フッ……上出来だ。気付く事ができるとしたらお前達だと思っていたぞ。ならば、私は少し席を外すとしよう。戻った後に、今後の事について協議する」

「ハッ……!!」


 ギルティアは不敵な笑みと共に一同へそう告げると、足早に会議室の外へと姿を消した。

 その背に、ルカ達は深々と首を垂れた後、怪訝な表情を浮かべる者達へ、矢継ぎ早に言葉を重ねたのだった。

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