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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第13章

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619話 姉として

「っ……。ふっ……。はぁ~…………。……っ!!」


 胸中の戸惑いを表すように数度。

 テミスは口を開閉させ、何度も言葉の欠片を呑み込んだ。

 理由は明白。こんな時、なんて声をかければ良いのかなんて、考えた事も無かったから。

 目の前で不格好に剣を振るう少女は、私を護るのだという。

 それだけならば……。彼女が何でもない、ただの少女だったのならば。笑い話で済んだ事だろう。


 だが……彼女は他でもない、テミスの『姉』なのだ。

 ならば、たとえ戦う力が無かろうと、戦いの度に傷付く『妹』を護りたいという彼女の志を、嗤う事ができる者などこの町には居ない。


「よしっ……!!!」


 ジャリッ……。と。

 意を決したテミスは見通しの悪い路地の角を曲がると、先に向かって開けていく道を進んでいった。

 一歩を進むごとに、硬い軍靴の底が、石畳とぶつかって小さく無い音を奏でるが、眼前で一心不乱に剣を振り続けるアリーシャはそれに気付いてすらいない。


「はぁっ……はぁっ……!! やぁぁぁっ!!! っ……!!」


 アリーシャが力任せに振り下ろした大剣が訓練人形にあたり、ゴインッ……と鈍い音を響かせて弾かれる。しかしアリーシャは、弾かれた衝撃だけでもかなりの痛みがその腕に走っているだろうに、息を漏らして表情を歪めただけで、新たなる一撃を振るうべく大剣を持ち上げた。

 そこへ……。


「脇を開くな。刃を立てろ」


 鋭く、そしてぶっきらぼうなテミスの声が響き渡る。


「きゃっ――えっ……!?」


 その声に、アリーシャはビクリと体を震わせると、振り上げかけた大剣を取り落とした。

 次の瞬間。重力に従い、大剣は石畳に向かって落下をはじめ、着地と同時に重厚な音を響かせて刃が跳ねる。


「――っ!! 馬鹿ッ!!」

「なに――きゃぁっ!!?」


 刹那。

 まるで戦闘さながらの鋭い踏み込みで飛び込んだテミスが柄を掴み取り、跳ねた刃はアリーシャを傷付ける前にピタリと留まった。


「武具の扱いも習わなかったのかっ!? 何故武器を手放したッ!?」

「へっ……!? えとっ……それは……びっくりした……から……」


 同時に、まるで部下に怒鳴り付けるかの如く、テミスはアリーシャを見下ろして雷を落とす。

 その剣幕に、仲違いをしている最中である事すら忘れたのか、アリーシャは目を真ん丸に見開いて瞬かせた後、胸の前で小さく手を揃えて答えを返した。


「……。私の部下なら、この程度では済まないがな……。見ていろ」

「えっ……? う、うん……」


 そんなアリーシャを眺めること数瞬。

 テミスは小さくため息を吐いた後、アリーシャにそう告げると、掴み取った大剣を肩に担ぎあげて上段に構える。


「刃は相手に対して真っ直ぐに構える。そして、なるべく真っ直ぐに……ブレ無く振り下ろす」


 テミスは言葉と共に、訓練人形に向けて鋭く大剣を振り下ろす。

 直後。ヒャウンッ! という澄んだ音と共に剣閃が奔り、硬い音が狭い裏路地に木霊した。


「これが、基礎の基礎。剣を扱う者誰もが教えられる技術だ」

「テミ――」

「――人を、殺す為のな」

「っ……!!!」


 平たく、そして冷淡な声で放たれたテミスの言葉に、アリーシャは息を呑んで両の手を握り締める。

 ――言葉が出なかった。

 言いたい事は山ほどある。けれど、それを口にしてしまえば最後、私は二度と……彼女の『姉』を名乗れなくなるような気がして。


「……護身程度の技術なら、私が暇を見て教えよう。それで……勘弁してくれないか?」

「っ……!! でもっ!!」

「誰かがやらねばならんのだッッ!!!」


 縋るように紡がれたテミスの言葉に、『姉』としての想いが零れかける。

 しかし、それをねじ伏せるように、テミスの絶叫がビリビリと裏路地に響き渡った。


「誰かが剣を取らねば、世界は強欲で汚い連中の物となってしまうッ!! 平和なぞ以ての外……私もアリーシャも……こうして笑ってなど暮らせないッ!!」

「なら……それなら……そんなテミスに怪我をして欲しくないっていう私の願いは間違ってるのッ!?」

「――っ!!!」


 刹那。

 テミスの中で、指揮官としての己と、アリーシャの家族としての自分が交錯し、叫びをあげた。

 ――間違っているッ!! 結果こうしてピンピンしているのだッ!! 平和を……それを蹂躙せんと目論む悪しき連中を殲滅する事に比べれば、私の事など些事に等しいだろうがッ!!

 ――間違っていないッ!! その純朴で無垢な想いを護るためにこそ、私は戦っているのだッ!! そんなお前が戦いに出るというのなら、私は何のために戦っているというのだッ!!


 そして、僅かな時間の中を沈黙が通り過ぎ、テミスは荒い息を吐いてその涙を溜めた大きな目で、自らを見据えるアリーシャから視線を逸らすと、小さな声で答えを返すのだった。


「……そうだな。私達(・・)は……間違っているのかもしれないな……」

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