表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第12章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

634/2302

616話 それぞれの道へ

 数日後。

 急速に日常を取り戻しつつあるファントの町の門の前で、テミスは深刻な顔でフリーディアと向き合っていた。


「本当に……行くのか?」

「えぇ……」


 毅然とした笑みを浮かべるフリーディアの傍らに居るのは、ミュルクとカルヴァスといった数名の腹心のみだった。


「……何度も言うが、自殺行為だ。ロンヴァルディアの人間からしてみれば、お前は言わば裏切り者。未だ情勢が落ち着かぬうちに戻れば、どうなるかなど火を見るよりも明らかだろう?」

「それでも……よ。戦いからもう何日経ったかしら? だというのに、ロンヴァルディアから伝令はおろか、通達の一つすら無いわ」

「それは……」


 朝日にキラキラと光る黄金の髪をなびかせながら、胸を張ってそう告げるフリーディアに、テミスは歯切れの悪い回答とを返して視線を逸らす。

 確かに。ロンヴァルディアの戦力が半壊した今……この僅かな時間だけが、融和へと向かう事のできる唯一のチャンスだろう。

 ロンヴァルディアが戦力を立て直せば、連中は必ず報復として矛先をファントへ向けて来る。

 そうなれば最後。

 互いの全てを滅ぼし尽くすまで止まる事の無い、全面戦争の始まりだ。


「大丈夫よ。テミス。必ず朗報を持ってくる……とまでは言えないけれど、預けた団員たちは絶対に迎えに来るわ」

「っ……当り前だ。あまりグズグズしていると、私の配下に加えるからな?」


 これからフリーディアが向かうのは針の筵だ。

 そんな中でフリーディアは、恨みでは無く平和の為に手を取る事を説かなくてはならない。

 それを知っているからこそ、テミスはニヤリと皮肉気に唇を歪め、フリーディアを挑発するかのように煽り立ててみせた。

 しかし。


「それは困るわ? ……でも」

「っ……!」


 言葉と共に苦笑いを浮かべたフリーディアの表情に影が落ち、言葉が途切れる。

 同時にテミス目が、腰に当てられたフリーディアの手が、小刻みに震えているのを捉えた。


「もしも……もしも、上手く行かなかったら……その時は……」

「…………」


 視線を地面へと逸らしたフリーディアの言葉が、消え入る様に再び途切れると、むず痒い沈黙が、湿り気を帯びた風と共に二人の間を通り抜ける。

 彼女が今、呑み込んだ言葉こそ。フリーディアが望む本当の気持ちなのだろう。

 フリーディアが赴こうとしているのは武力を振るう戦では無く、権力と知力と謀略が渦巻く新たな戦場だ。

 ならば、戦地へ赴く戦友にかけてやれる言葉など、一つしか無いだろう。


「ククッ……」


 ニヤリ。と。

 テミスは視線を落としたまま黙り込むフリーディアの目を、真っ直ぐに見据えると、口角を大きく吊り上げて不敵な笑みを形作る。

 そして、大きく胸を張って腕を組んだ後、眼光鋭く口を開いた。


「今のお前ならば、万難を排して助けに行ってやるさ。その時は、お前と随伴したお前の仲間達、そしてあの国で真なる平穏を望む奴ら全員を救い出してやるとも」

「っ……! テミス……貴女……」

「ハッ……不満か? 元・魔王軍軍団長にして……あ~っ……その……。お前の背を預かる戦友の私では役不足か?」

「ぁっ……」


 その言葉に、フリーディアは目を見開いて僅かに息を漏らした後、大きく息を吸い込んで満面の笑みを浮かべる。


「いいえ。期待して……ううん。信じてる(・・・・)わ? テミス?」

「フッ……任せておけ」


 顔をあげて不敵の微笑むテミスと目が合うと、フリーディアもまた微笑みを浮かべて言葉を返す。ふと気が付けば、先程までフリーディアの心を苛んでいた不安は霧散しており、手の震えは既に止っていた。


「ちょっとちょっとッ!! それじゃあ俺達が何の為に行くのかわからないじゃないですか!」

「全くだ。テミス殿、どうか安心していただきたい。そんな事態には決してならないですよ。我々の、騎士の誇りに懸けて……ね」


 言葉を交わしながら微笑み合う二人の間に、フリーディアの傍らで様子を見守っていたミュルクが、堪りかねたかのように割って入ってくる。

 それに続いて、普段ならば諫める役目のカルヴァスも、微笑みと共に言葉を添えた。


「ククッ……。あぁ、是非ともそうしてくれ」

「フフッ……そうね。テミスに助けて貰わなくても大丈夫なように頑張らないと」


 そんな二人に、テミスとフリーディアは意味深に視線を交わらせた後、互いに笑みを浮かべて口を開く。

 直後。

 まるで、それが引き金となったかのように、温かな笑い声が周囲に溢れた。その頭上には、彼女たちを覆い隠すように、分厚い雲が流れていたのだった。

 本日の更新で第十二章が完結となります。


 この後、数話の幕間を挟んだ後に第十三章がスタートします。


 魔族と人間の間に横たわる深い溝、そしてその長い歴史が紡いだ恨みと謀略を切り捨て、魔王軍を出奔したテミス。そんな彼女に待ち受けていたのは、過酷極まる戦場でした。

 自らの力のみでは切り抜け得ぬ激戦を潜り抜けたテミス、しかしその代償は小さなものではありませんでした。この戦いで得たものと失ったものは、テミスとその周囲の人々、そしてこの世界をどう変化させていくのでしょうか?


 続きまして、ブックマークをしていただいております406名の方々、そして評価をしていただきました59名の方、ならびにセイギの味方の狂騒曲を読んでくださった皆様、いつも応援ありがとうございます。


 さて、次章は第十三章です。


 魔王軍とロンヴァルディア軍を退けたテミス達は、融和都市ファントの平和を守り抜きました。


 魔族と人間……そして転生者が共に笑い合う平和な都市。そんな想いの込められたかの都市が、この世界の人々の目にどう写るのか。


 ロンヴァルディアへ戻ったフリーディアはどうなるのか……出奔した魔王軍との交渉の行く末は? 


 この先、世界はどう動いていくのでしょうか……?


 セイギの味方の狂騒曲第13章。是非ご期待ください!




2021/4/7 棗雪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ