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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第12章

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615話 盟友の祈り

 テミスが事務仕事に復帰してから数日。

 その報せは、苦虫を噛み潰したかのように渋い顔のルギウスと共に、突然やって来た。


「テミス……魔王様……ギルティア様から書状が届いている」

「フム……? 副官に呼ばれて帰還し、踵を返してこの話……なんともおかしな話だな?」

「っ……。あぁ、そうだね。君が察する通り、シャルからの緊急の呼び出しの理由がこれさ。けれどこの書状は、間違い無く君宛だよ」

「…………」


 その言葉に、テミスが眉を顰めながら書状を受け取ると、ルギウスは苦笑いを浮かべてそれを見つめる。

 ラズールに届いたのは、テミスへ渡したこの書状の他にもう一通あった。それは、ギルティアがルギウスへと宛てた物だったが、その中身は簡潔極まっていた。


『この書状と共に持たせた書状を、第五軍団長ルギウスの手からテミスへ届けるように』


「まぁ……お気持ちは、解りますがね……」


 自らへ宛てられた書状の内容を思い出しながら、ルギウスは手近な壁に背を預けると、手渡された書状を難しい顔で睨み続けるテミスを眺めながら、密かにひとりごちる。

 ギルティア様にとって、それほどまでにこの書状が重要だという事なのだろう。

 袂を分かった後の最初の一通。これまでのテミスの性格を鑑みれば、直接ファント(この町)へ届けた所で、読まずに破り捨てられてしまう可能性は十分にある。

 だからこそ、自らの言葉が確実にテミスの元へ届くように、このような搦め手を使ったのだろう。


「っ…………!!」


 ゴクリ。と。

 書状を持つテミスの手が動いた瞬間。それに注目するルギウスは生唾を呑んだ。

 この書状には恐らく、我々魔王軍とテミスたちのこれからの事が記されている筈だ。

 それが、テミスの魔王軍への復帰なのか、はたまた無益な衝突を避ける為の停戦交渉なのかはわからないが、テミスの盟友を自負するルギウスとしては、この書状が読まれる事を願っていた。


「っ……!!」

「……」

「っ~~!!!」

「…………」


 しかし、いくら固唾を呑んで見守っていても、封に手をかけた所でテミスの手はピタリと止まり、一向に動く事は無かった。

 そればかりか、テミスを凝視するルギウスには、その肩が小刻みに震えているようにも見える。


「……っ!!!」

「プッ……クククッ……」


 直後。

 不意に漏らされたのは、邪気の無い笑い声だった。

 見れば、俯いたテミスは完全に身体をくの字に折り曲げ、その肩を震わせて爆笑している。


「テミ……ス……?」

「ンフフフフフフッ!! ルギウス……そんな表情で私を見つめずとも、お前の顔を潰したりはしないとも」

「は……? いや、これはそういう意味では無くっ……!」

「ならば、どういう意味だ? まるで棄てられた子犬のような目だったぞ?」

「っ……そ……れはっ……!!」


 テミスがクスクスと笑いながら告げた途端、ルギウスの顔が湯だったかのように一気に上気した。

 確かに、少しばかり思いを込めて見守ってはいたが、笑い飛ばすのはあんまりでは無いだろうか?


「フッ……まぁ、礼を言うぞルギウス。私にとってもこの書状、目を通すには少し気合を入れなければならんからな」

「っ…………」


 そう言うと、テミスはルギウスの目の前で書状の封を切り、大きく息を吸い込んでからその中身に目を通していく。

 ギルティアにとってこの書状が、袂を分かった後でテミスに宛てる最初の書状であるのと同時に、テミスにとってもまた、この書状は魔王軍を出奔してから最初に受け取る通達なのだ。それを受け取るのに、緊張をするなという方が無茶な話だろう。

 だがしかしルギウスには、緊張に立ち向かうテミスを、胸の内で祈りながら、ただ固唾を呑んで見守る事しかできなかった。


「…………フゥ」

「っ……!! どう……だった?」

「そう……だな……」


 数分後。

 沈黙の中で書状を読み終えたテミスに、ルギウスは堪え切れず問いかけていた。

 現在はファントに身を置いているものの、ルギウスは本来魔王軍の所属だ。なればこそ、この問いは発するべきではなかったが、そのあまりにも難しいテミスの顔に後押しされ、ルギウスの中には暗雲のような不安が渦巻いていた。


「現状では、可もなく不可も無く……といったところか。ホレ」

「っ――!? いいのか……?」

「あぁ。お前も全くの無関係という訳ではないからな」


 言葉と共に、ルギウスはテミスから投げ渡された書状に目を落とすが、それを読み込むよりも早く、椅子に深く腰掛け直したテミスが口を開く。


「ひとまずの停戦と対談の申し込み。戦後の処理としては妥当な所だろう。だが……」

「なっ……!?」


 その言葉に耳を傾けながら、受け取った書面に視線を走らせたルギウスは、そこに記されていた文面に思わず息を漏らした。

 何故ならば、その『提案』はあまりにも荒唐無稽で、魔王軍足るルギウスの目から見ても無茶苦茶なものだったからだ。


「そう。奴のこの提案を呑むのならば、ファント(この町)は魔王であるギルティアだけではなく、お前を含む魔王軍の軍団長5名を懐へ招き入れる事になる」

「そんな……まさか……」


 重々しく紡がれたテミスの言葉に、ルギウスは自らの心が重く沈むのを感じた。

 こんな提案をテミスが呑む訳が無い。魔王を含めた軍団長五名を招き入れる。いくら会談の為とはいえ、それは即ちテミスにとって、匕首を突き付けられるに等しい状況に等しいのだ。


「……ルギウス。すまないが、この件はしばらく預からせてくれ。我々以外に口外も無用だ」

「わ……わかった……」


 空気が固く沈んでいく中で、静かな声で発せられられたテミスの言葉に、ルギウスはただ小さく頷いたのだった。

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