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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第12章

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611話 揺れる心


 『地獄の闘争(ヘルズマーチ)

 この一昼夜にわたって繰り広げられたファントをめぐる戦いは、後の世でこう呼ばれる事になる。

 犠牲者の数は万を優に超え、文字通り血で血を洗う闘争は街道を赤く染め、その凄惨な光景は戦いから数日が経過した今でもありありと残っていた。


 だがそれでも。

 未来へと進み続ける時が足を止める事は無く、ファントの町には平穏な日常が訪れている。


「なぁ……フリーディア……」

「……なによ? 改まって」


 そんな町の片隅。

 疲弊し、傷付いた兵達の看護でてんてこ舞いな病院の一室で、テミスとフリーディアは揃ってベッドに身を横たえていた。


「お前……これからどうするつもりだ?」

「そう……ね……。本当……どうしようかしら?」

「どうしようかしらって……お前な……」


 息を吐いて苦笑するフリーディアに、テミスは白い天井へ視線を向けたまま、胸いっぱいに吸い込んだ空気をため息に変えて放出する。

 アンドレアルとの決闘の後、彼が示した方角で倒れていたマグヌスを回収して町へ戻ったテミス達を出迎えたのは、フリーディアと肩を並べたルギウスたちだった。

 曰く。ロンヴァルディアの連中を退けて兵を退いた後で、ただの(・・・)ルギウスとルカとしてこちらへ戻って来たらしい。

 心境を隠さずに述べるのならば、そんなへ理屈がまかり通るのか……。といったところだが、正直既に限界だったテミス達にとっては渡りに船だった。

 故に。負傷兵の回収や損害状況の確認など、戦後処理の雑務の指揮を彼等に任せて、こうして体を休めている訳なのだが……。


「最悪、ファント(この町)でお世話になるわ。面倒、見てくれるわよね?」

「ハァ……やれやれ。他の連中の手前、放り出す訳にもいかんしな……」

「何よその言い方っ。ここは人魔平等の町では無かったの? それに、白翼騎士団(私達)は役に立つと思うけれど?」

「お前達がファントに根を下ろす利益よりも、それによってお前達が持ち込む厄介事の方が多いんだよ……」


 テミスは拗ねたかのように抗議の声をあげるフリーディアに再び長いため息を付くと、痛む身体を無理矢理動かし、ベッドの上で寝返りをうつと静かに目を細めた。

 疲れ果てた体を投げ出すようにして意識を手放してから、既に数日という短く無い時間が経過している。

 だというのに、ロンヴァルディアはおろか魔王軍からさえも一切の連絡は無く、結果としてファントとテミス達は、宙ぶらりんで曖昧な立ち位置のままなのだ。


「……それでもまぁ……なんだ。ロンヴァルディアに帰れないというのなら、居て貰って構わんさ。好きなだけな」


 ボソリ。と。

 テミスはフリーディアに背を向けた格好のままそう告げると、火照る頬を覆い隠すようにゴソゴソと掛布団を引き上げて思考に浸る。


「…………」


 それは、これから(・・・・)の事。

 魔王軍の軍団長という肩書を棄てた私が、この先もファントを守っていく事ができるのか?

 魔王軍とロンヴァルディア。どちらの集団に属さないという意地を貫きながら、ファントで暮らす人々の暮らしを支える事ができるのか?

 自らの意思で魔王軍を離れた私でさえ、こうして無数に不安が浮かんでくるのだ。半ば衝動的にファント(こちら)側に付いたフリーディアが抱える不安は相当ななものだろう。


「っ~~!!! ……ありがと」


 そんなテミスの心遣いを知ってか、隣のベッドからひとしきり悶えるような衣擦れの音が響いた後、消え入るような声でフリーディアが言葉を返す。


「ククッ……あれだけ派手にやり合った後だ。ほとぼりを冷ます意味でも、暫く留まるべきだろう」

「そう……よね……」

「っ……!! あ~っ……まぁ……その……なんというかつまり……あっぐっ……!!」


 予想外に素直なフリーディアの返答に、テミスが反射的に皮肉を口にすると、上ずりかけていた彼女の声が、愁いを帯びた暗いものへと変化した。

 その言葉に、焦ったテミスは思わず上体を起こすと、びきびきと全身に走る痛みにうめき声をあげる。


「……? テミス? ……テミス? なんか今、うめき声っていうか……泣き声みたいな……」

「何でもない! 気にするな! 少し体を動かしただけ……だッ!!」

「そう? なら良いけど。あまり無茶しないのよ? 病院(ここ)に人たち、ただでさえ忙しいんだから」

「あ……あぁ……。無論……だとも……っ!」


 テミスは物憂げに返されるフリーディアの返答に言葉を返しながら、起こしてしまった上体を、声を押し殺してそろそろと戻していく。


「それで? 何を言いかけたのよ?」

「んっ……? あぁ……それはっ……だな……」


 そんないじらしい努力も相まってか、フリーディアは何一つ疑う事なく会話を続け、その傍らでテミスは、額に脂汗を浮かべながらも何とかぽすりとその身体を横たえる事に成功する。

 そして、大きく息を吐いた後。テミスは優し気な声色で言葉を紡いだ。


「私を含め、この町の連中は皆、お前達に感謝しているって事も忘れるな」

「っ……!!! …………。うん……」


 それからしばらくの間、唐突に訪れた沈黙に混じって、僅かに鼻をすするような音が静まり返った部屋に響いた後、掠れた声で返されたフリーディアの言葉に、テミスは静かに笑みを浮かべたのだった。

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